780 死にかける光一と覚悟を決めたぼたん
地球:202X年10月9日
火星:1年4月30日
「……フガッ!?」
突然、息苦しくなり、目を見開くと、ぼたんが僕の鼻と口を押さえていた。
ぼたんが馬乗りになっているから両手が動かせず、どうする事も出来ない。
……僕の人生はここまでか。何か恨まれる様な事をしたかな?
僕が諦めかけて意識が遠のいて来た頃、イブが現れた。
そしてそれと同時に鼻と口を押さえていた手がどけられた。
僕は必死で呼吸をする。
「こうすれば起きるかな?…と思って、起こそうと思ったんだけどね?やり過ぎたわ。ごめんなさい」
「はぁはぁ……ぼ、僕の人生はここまでかと諦めかけたよ。本当にわざとじゃないの?僕、ぼたん、怖い」
「わざとじゃないわよ。私は光一を愛しているもの」
「あ、愛情があってもそれが、おかしな方向に行くとやる時はやるよ?僕、恨まれてる?」
「全くその気はないし、恨んでもいないわ。本当よ?もしもやるならネクタイで首を絞めたわよ」
「はぁはぁ……イ、イブは…どう思う?」
「私はボットちゃんが警報を鳴らしたから来たんだけど、嘘は言っていないわ。ぼたんさん。夫を愛しているなら今後は止めて」
「うん。ごめんなさい。今後は気をつけるわ」
「僕から良い?殴るとか蹴るとかそういう起こし方ではなくて、もっと普通の身体を揺するとかにして。というか君、昨日、イブに起こさないでって言っていたじゃない」
「あーうん。分かったわ。……それで今、もうすぐ15時になると言ったら起こした理由を分かってもらえるかな?」
「もう少し寝かせてくれても良いじゃないと言いたい気持もあるけど良いや……理由は会議?」
「そう。イブ、皆の様子はどう?他のメンバーはレストランにいる?」
「えぇ、昼食後の食休みの雑談中よ」
「それなら都合が良いわ。イブ、悪いけど先に行ってこの後、予定がないか聞いてもらえないかな?」
「はぁ……分かったわ。やっぱりわざとじゃないの?」
「本当の本当に違うわよ。イブを呼ぶ為なら名前を言えば済む話でしょ?」
「そうね。議題は光一さん殺人未遂事件に関する裁判かしら?」
「だーかーらー違うってば~!今後の予定についてよ」
「了解。それじゃ失礼するわ」
「さて光一、服を着ましょう?」
「はぁ…嫌な目覚め方だなぁ。着替えるけども。というか寝る前に服を着ておいて良かった」
「光一、悪かったってば。悪いけど急いで」
「いやぁ僕はそんな大した議題ではないと思うんだけどなぁ」
僕はそんな事を言いながらも着替えて行った。
「……よし!着替えが完了したわね!行くわよ。ゲート」
僕達は1階のレストランに移動した。
「あっ光一と殺人未遂犯さん、おはよー」
「紗也華、おはよー。皆もおはよう」
「だーかーらー違うってばっ!……皆、おはよう」
皆も挨拶を返してくれた。
「皆、忙しい所を集まってくれてありがとう。特にハロメンはライブが近いのにゴメンね」
「あーぼたん、まつり達は大丈夫だよ」
「ありがとう。それで明日、投票日の憲法改正について、世論調査によると賛成多数となりそうなの」
「でもイブ~。世論調査が賛成多数だから、『自分も賛成だけど面倒だから行かない』という人が多数いるとするでしょ?そんで世論調査が賛成多数だから『何が何でも反対票を入れなきゃ』って人が多数いるとする。そうなると反対多数になる可能性もあるよね」
「そうね。その可能性もあるわ。でも私は憲法改正の国民投票は今回が初めての事だから投票率は高いと予想しているわね。まぁそれでも反対多数になる可能性はないと断言できる程、賛成派が圧倒的多数ではないわ……まぁ改正案にもよるけどね」
「そう。改正案にもよる。大統領制に関する改正案は圧倒的多数ではないけども、国会に関する改正案は圧倒的多数で賛成なのよ」
「へぇ~」
「これは報道による街の声では『国会議員が多すぎる』『衆議院と参議院に違いが殆ど無くて意味がない』『ゾンビ議員反対!』とまぁそんな感じよ」
「まぁ妥当じゃないですかね?」
「今の憲法にあり改正されない部分でもある憲法第9章が問題になってくる」
「というと?」
「省略するけど『憲法改正について国民の承認を経たときは、直ちにこれを公布する。』となっていて、なおかつ、『この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。』となっている。つまり、憲法改正で矛盾する法律は無効化される事になる」
「まぁそうでしょうな」
「そして国会に関する改正案が賛成多数になると、参議院は違憲状態になる。従って3年間の限時法を作る事になる想定となっているわ。具体的には2位当選者は任期を3年とするというものね。次に衆議院については同様に限時法を作って任期を少しだけ延長する。具体的には参議院の2位当選者と同じ任期にね。政治的空白や混乱は最小限にしたいから」
「なるほど?」
「そこまで法律を作ったら、参議院の総選挙と……これは大統領制に関する改正案が賛成多数になればだけど、同時に大統領選挙も行う事になる」
「その他の必要な法改正は?」
「それについては私から答えるわね」
「それじゃイブよろしく」
「ぼたんさん、了解よ。その他の必要な法改正については今の日本国憲法の第11章第101条を根拠に衆議院だけで行う事になっているわ。『この憲法施行の際、参議院がまだ成立してゐないときは、その成立するまでの間、衆議院は、国会としての権限を行ふ。』を拡大解釈したとも言える形ね。法案は私が作成して衆議院議員になっているエテルノから国会に提出する事になっているの。一応、内閣は大統領選挙が終わるまで存続するけど、あくまでも新大統領への仕事の引き継ぎの為だからね。大統領制に移行したら法案提出権は無くなるとされているわ」
「なーるほど?参議院議員選挙と大統領選挙はいつ頃になりそう?」
「そう!そこが問題なの!」
「お、おう」
「10月11日に参議院の解散までを行う。公示日は10月19日、投票日は10月31日。アメリカと違い大統領府のスタッフは、長官ではなく大臣で、任命権は大統領にあり議会の承認は不要だけど、政権が安定するまで1週間かかると思うの。皆をそんなに待たせられないわ。皆、私を置いて異世界に帰って」
「はぁ~。イブ、アンケートよろしく」
「光一さん、分かったわ」
アンケートが目の前のタブレット端末に表示された。
内容は「1.いつまでも付き合うよ」「2.置いて帰る」「3.連れて帰る」「4.その他」
「結果が出たわね……はい。全員が1番目の『いつまでも付き合うよ』だわ」
「だから僕は言ったでしょ?聞くまでもないって。僕、死にかけてまでこの会議する必要あった?」
「まぁまぁ光一さん、まつりが思うに日程が分かっただけでも良かったんじゃないかな?」
「何でなの?」
「ぼたん、何でって簡単な話だよ?今更そんな変わらないって。大体、次期国王と次期女王は政治制度が変わるという面白いイベントを目にする為に残っているんだからね?最後まで見なくてどうすんのって話」
「あのぉぼたんさん。僕からも良いですか?」
「千早、何かしら?」
「僕のお父さんはどうなりますか?」
「私もそれ気になるなぁ」
「あー。千早と唯のお父さんは私が仮に大統領になったら、引き続き大臣になってもらうわ」
「2人とも大丈夫よ。ないと思うけど万が一、ぼたんさんが落選したら2人のお父さんはうちで雇うから」
「ぼたんさんとイブさん、よろしくお願いします」
「私からもお願いね」
「2人ともお父さんにはいつもお世話になっているわ。私にとっては恩人よ。恩人は大切にするから安心して。私は選挙で勝つために手段を選ばないわ」
ぼたんはそう言うと覚悟を決めた顔をした様に僕は感じた。





