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【書籍化】冷遇され、メイドとして働く公爵令嬢ですが、帝国の皇太子殿下に見初められました!  作者: 櫻井みこと


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 学園の図書室でエクトルと過ごしていたリゼットは、護衛騎士にゼフィールが呼んでいると伝えられ、エクトルとともに王城を訪れていた。

 対面し、挨拶をしたあとに、リゼットはお祝いの言葉を伝える。

「ゼフィール王太子殿下。ご婚約おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

 彼はどこか肩の荷が下りたような顔をして、頷いた。

 この国の王太子妃になることが決まったのは、ユーア帝国の皇太子の従妹で、年齢はレオンスの一歳下だというから、リゼットと同じ年だろう。

 帝国から贈られてきた肖像画が、この部屋に飾られていた。

 エクトルのような銀色の髪をした、とても美しい女性だった。

 ユーア帝国とこのキニーダ王国は同盟関係にあるが、国力はユーア帝国の方が遥かに上である。

 長年の友好関係によって結ばれた条約は、このキニーダ王国の命綱とも言える。

 ユーア帝国との同盟がなくなってしまえば、キニーダ王国は好戦的な他大陸からの侵略者に蹂躙されてしまうだろう。

 その帝国の皇帝の身内が、この国の王太子妃となるのだ。

 そうなればますます同盟は強化され、キニーダ王国は安泰だろう。

 しかもこの婚約は、どうやらユーア帝国側からの申し出らしい。

 さすがに側妃もこの婚約に異議を唱えるようなことはなく、すんなりと婚約が決まったようだ。

(ユーア帝国の方から、婚約を申し入れてきたなんて……)

 リゼットは何となく、この婚約にはエクトルが関わっているような気がした。

 この国の状況を帝国側に伝えて、ゼフィールのために動いてくれたのではないのだろうか。

 そんなふうに思う。

 ゼフィールはリゼットに座るように促すと、さっそく呼び出した理由を語ってくれた。

「数日前に、王城で少し騒動があってね。エクトルにも詳細は伝えなかったが、ようやく状況が掴めてきたので、リゼットからも話を聞きたい」

「はい」

 リゼットは姿勢を正して、ゼフィールの言葉を待った。

「実は、文官から重要書類が紛失したらしいという報告があった。それがどうやら、レオンスとリゼットの婚約のために交わした契約書らしい」

「えっ……」

 それは、王太子の前だというのに思わず声を上げてしまうほど、衝撃的なことだった。

 この国を含めた周辺の国では、婚約するときに契約書を交わすことになっていた。

 契約書には結婚の条件や、どちらかの有責で婚約解消になった場合の慰謝料についてなどが、事細やかに記されている。

 婚約や結婚に関する条件は契約書を交わす前に徹底的に話し合われ、もしそれを破った場合には、慰謝料の支払いなどの罰則が生じる。

 あまりにも悪質であったり、慰謝料を払うことができない場合は、投獄されてしまうこともある。

 過去には契約書をまったく無視して、横暴なことばかりをした王族が罪に問われ、王家から追放されたこともあった。

 それくらい、契約書は大切なものだ。

 そしてリゼットとレオンスとの婚約は、亡き父と国王の間で交わされたものである。

 婚約のときに交わした契約書は、結婚するときに提出をしなければならない。もし契約書が紛失してしまえば、婚約も無効になってしまうほどのことだ。

 王族の契約書ということで、王城で厳重に保管されていたはずのそれが、紛失してしまったなど、前代未聞の醜聞だ。

「それは、いつだ?」

 エクトルも険しい顔をして、そう尋ねる。

「私の婚約が決まってすぐのことだ。帝国の皇族との婚約で、王城も人の出入りが激しく、騒がしかった。その隙を狙われたようだ」

「契約書の紛失は、レオンスによるものか?」

 エクトルの問いに、ゼフィールは深刻そうな顔をして、首を振る。

「いや、そうではなかった。むしろレオンスならよかったのだが」

 苦々しい顔をしてそう言うと、ゼフィールはリゼットに視線を移した。

 何となく嫌な予感がして、リゼットは両手をきつく握りしめる。

「王城から契約書を盗み出したのは、どうやらオフレ公爵代理……。君の後見人らしい」

 あまりのできごとに、リゼットは息を呑む。

 ゼフィールの表情から、あまり良い話ではないかもしれないとは思っていたが、あまりにも予想外のことだった。

「そんな……。叔父様が、どうしてそんなことを……」

 叔父だって、そんなことをしたら大事になってしまうことくらい、わかっていたはずだ。

 マリーゼに泣きつかれたのだろうか。

 それとも、レオンスに命令されたのだろうか。

 ゼフィールの話によると、レオンスはリゼットを突き飛ばして怪我をさせたことで、国王陛下から珍しく叱られたようだ。

 謹慎を申し付けられ、それに反発したレオンスは、リゼットが自分の異母妹を虐げるような女だったこと。そんな女との婚約は破棄して、あらたにリゼットの異母妹と婚約したいと国王陛下に訴えたらしい。

 だが国王は、それも却下した。

 さらに、オフレ公爵家の正当な血筋はリゼットの方であり、マリーゼと結婚したいのであれば、母方の伯爵家所縁の爵位を継ぐようにとレオンスに告げた。

 国王のその発言は、レオンスだけではなく、ゼフィールにとっても意外だったようだ。

「まさかあの父が、レオンスにそこまで言うとは思わなかった。父なりに、亡きオフレ公爵には恩義を感じていたのかもしれない」

 父が生きていた頃は、よく国王の相談相手になっていたらしい。

(そういえば私とレオンス様の婚約も、国王陛下から懇願されたからだって、お父様が言っていたわ……)

 国王は、少しは父に、恩義を感じてくれているのだろうか。

 リゼットとの婚約を解消することができないと悟ったレオンスが、リゼットの叔父に契約書の破棄を命じたのかもしれないと、ゼフィールは語った。

 どちらにしろ、王城から契約書を持ち出すなど、許されることではない。

 おそらく叔父は、厳しく罰せられるだろう。

 それどころか、叔父だけでは終わらないかもしれない。

「そのことが、オフレ公爵家やリゼットにまで咎が及ぶ可能性は?」

 エクトルもそう思ったのだろう。

 厳しい表情のまま、ゼフィールに問いかける。

 リゼットも、彼を見つめた。

「オフレ公爵代理は王城で事情を聞いているが、何も答えようとせず、沈黙したままだ。だが、関係者として事情を聞かれたマリーゼが、君の名前を出している」

「マリーゼが、私の?」

 自分の名前を出した意図がわからずに、リゼットは困惑する。

「どうしてそんなことを……」

「調査のためにオフレ公爵家を訪れた騎士に、マリーゼは、叔父は異母姉に頼まれて契約書を持ち出したのではないかと告げたようだ」

 その騎士の前で、マリーゼは儚げで健気な令嬢を演じた。

 父である前公爵に見捨てられ、叔父によって救出されたあとも、異母姉のリゼットに虐められていると訴えたようだ。

 その騎士もレオンスのようにすっかり騙されてしまい、マリーゼに同情してしまった。


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