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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第13章 過去と対峙するとき
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予期せぬ出会い

お待たせして申し訳ありません。

 タニアの後に続いてホールを奥に進むと。そこには大きな木製の扉があった。材質も艶のある高級感あふれる木材で、裸婦の彫刻がしてある。正直言って悪趣味だ。どこぞの成金趣味のおっさんが喜びそうなデザインだが、俺の趣味ではない。そしてその扉の左右に通路が続いている。


「こっちが地下牢よ。でも本当に人の声だったの?」

「ああ、確かにな。しかも複数いるっぽい」


 視線を前方に固定したまま声だけで確認してくるタニア。だが本当に聞こえたんだから仕方ないだろう?


『私も聞こえましたよ?』

「桜花もか?」

『はい、どうして皆聞こえないんでしょうか?』


 桜花にも聞こえたということはノワールと俺とで三人しか聞こえなかったということだな。共通点があるとすれば……無属性魔力持ちということくらいか? だがそれにどういう意味があるんだろう?


『理由は簡単よ、地下にはここのダンジョンマスターの作った結界が張ってあるのよ』

「じゃがワシらには何も感じられんぞい」

『第二王女は魔法の才があるのでしょう? よほど余計な邪魔をしてほしくないみたい。でもそのおかげで面白いことになりそうだけれど』


 そう言ってくすくすと笑うノワール。だがそれと俺に聞こえたことに何の共通点がある?


『ロックは無属性の魔力だからモンスターの魔力との親和性が高いわ。それに……ロックは小さな音を聞き分けるほどに鍛え上げられた耳を持っているわ。そのせいで聞こえたんでしょうね。桜花はロックと繋がり(パス)をもっているから当然聞こえるわ』


 そういうことだったのか。だがそこまでして隠したいものとは一体何なのだろうか。順当に考えればこの城で働いていた人たちなんだろうが……もしかして今回の召喚の首謀者たちか? そんな大物、俺達ではどうすることも出来ないぞ。


「この扉の奥が地下牢よ。悪いけど私もここの鍵は持ってないからロックに任せるわ」

「任せとけ」


 目の前には一枚の扉がある。地下牢の入口だけあって頑丈そうな金属製の扉だ。そしてそこには南京錠がついている……って南京錠だと?


「なぁディノ? 師匠もいくつか錠前を持ち込んでいたんだろうが、この国にまで出回っているものなのか?」

「そこまでの数を持ち込んだ記憶はないんじゃが……どこぞの好事家の手を経由してきたんじゃろう」

「ちょっと待て……それにしてはおかしい。どこにもメーカーの刻印がない」


 目の前の南京錠をよく観察するといくつかのおかしい点がある。まずは師匠が持ち込んだものだというのならメーカーの刻印があるはずだ。師匠のよく使っていた南京錠のメーカーは俺もよく知っている。古いバージョンのものでも刻印の場所や種類は熟知している。なのにそれがない。

 それから気になるのはその南京錠の艶だ。もし師匠が持ち込んだものならそれなりに時間が経過しているはず。金属なら時間経過にともない表面の仕上げがくすんできたりするのが普通だが、この南京錠は今取り付けられたかのような新しさを感じる。それどころか今出来上がったばかりの新品のようにすら感じる。外見だけで判断するわけではないが、色からすると材質は黄銅のようでもあるが、表面の仕上げはステンレスっぽい。ただ綺麗に切断してあるのはマシンカットのようにも見えるが……統一性が無いな、こいつは。


「少なくともこんな南京錠を作っているメーカーは俺の記憶にはない。となるとこちらの世界で誰かが作ったんだろうが、果たしてこちらの鍛冶屋レベルでこれだけのものが作れると思うか?」

「たぶん……いや、間違いなく無理じゃろうな。ここまで綺麗に仕上げられる者などまずおらんじゃろうからの。となるとこれは……やはりモンスターの作ったものかのう?」

「もしかしてシルファリア様が?」

「その可能性は低いぞタニア。シルファリアって姫様がどこまで錠の知識があるのかは知らんがここまでのものを再現できるってことは少なくとも今のアイラ以上の知識がないと難しい。それもこちらの世界の知識じゃない、俺のいた世界の錠の知識だ。そんな知識に触れることができる奴は限られてくるだろう」


 タニアが心配そうな顔をしているが、間違いなくその姫さんの仕業じゃない。仕上げに統一性がないのは別にして、仕組みはしっかりと再現されている。これは間違いなく過去にこのタイプの錠に触れたことがあり、なおかつ仕組みをしっかりと理解できている証拠だ。そんな知識を仮にも一国の姫さんが知っている必要はないし、その知識に触れる機会もないだろう。

 となれば一体誰が? なんて議論はするに及ばない。師匠が手引書を作ったということはアイラ以外にも師匠の手ほどきを受けた探索者がいてもおかしくはない。問題はその知識を持っているのがモンスターかもしれないということだ。まさかモンスターに錠の指南をしたんじゃないよな、師匠?


 改めて手に取って見てみれば、日本のディスカウントストアあたりで売られている得体のしれない外国製のものよりもはるかに精度は高そうだ。鍵穴から内部を覗き込んでみれば、しっかりとシリンダーの仕組みも再現されている。ただし内部構造が四十年くらい前のものであることを除けば、だが。


「こいつを開けること自体は問題ないんだが……本当にいいのか? 地下牢ってことは犯罪者がいるかもしれないぞ?」

「一度確かめてみて本当に犯罪者ならそのまま放置でいいじゃろ。もし無実の罪で投獄されている者がおれば助けるという方向じゃな」

「わかった、それなら手早く開けてしまおう」


 扉の前にしゃがみこみ、目線を錠の高さに合わせてから腰の道具入れに手を伸ばす。見れば見るほど日本でかつて販売されていたタイプの南京錠に酷似している。材質もよくわからない金属を使っているが、かなり硬そうだ。最悪破壊も考えたが、手持ちの破断道具では対処できないかっもしれない。

 再度鍵穴を観察する。しっかりとライトで奥まで照らしながら見ていけば、やはり構造もシリンダータイプの仕組みを理解できている。だが内部の複雑さに関しては二世代前くらいの難易度であり、俺にとっては造作もない。だがこの世界の人間にとってはこのレベルの物理の錠は脅威に見えるのかもしれない。

 ピックとテンション、二本のツールを使い内部を探っていく。テンションでシリンダーを解錠方向に回るように押さえつつ、ピックで内部のピンを操作していく。テンションにこめる力を調整しながらピンの高さを少しずつ変えていく。


「いつも思うんだけど、よくこんな細かい作業できるわね。私なんか魔法で解除できなかったらもうお手上げよ。剣で叩き斬るくらいしか思いつかないわ」

「ソフィアちゃん、探索でそれやったら全滅するからね」


 背後で恐ろしいことを口走るソフィア。いつもと違い、まじめな口調でたしなめるミューリイという珍しいものを見たい衝動に駆られるが、そんなことにかまけている場合じゃない。


「……?」


 そんな時、一瞬だが背筋に悪寒が走った。まるで体の芯に氷のように冷たい何かを押し当てられたような感覚。体の奥底の神経を逆撫でされるような嫌な感覚に思わず吐き気がこみあげてきてつい手を止めてしまった。


「どうしたの、ロック?」

「そんなに難しいですか?」

「ん……いや、何でもない。ちょっと疲れが出たのかもな」


 さすがに鍵開けの途中でいきなり手を止めれば不思議に思われたんだろう、アイラとセラが両脇から心配そうな顔を見せる。二人にも話したように、昨日からまともに睡眠をとれていない。そのせいで若干体調を崩しかけているんだろうか。

 一旦手を止めて大きく深呼吸して気分を落ち着ける。そんなに難易度が高いわけじゃないし、若干体調を崩した状態での仕事なんてこれまで何度もあった。だがこんなに気分が悪くなったことは一度もない。ここが違う世界だからなのか、それとも誰かの妨害なのか、今それを解明する手段も時間もないので、ここは一気に決めてしまおう。


「こんなところでもたついてる暇はない、手早く済ませるぞ」

「気をつけてね」

「頑張ってください」


 平常に戻った俺の姿を見て安心したのか、勇気づける言葉を残して離れる二人。離れていく足音でそれを確認するとツールを握りなおして再び錠に挑む。まだいくばくかの悪寒と気分の悪さは残っているが、ここで俺だけが弱音を吐くわけにはいかない。

 先ほどまでの探りでおおよその位置は把握できている。テンションを差し込んで力をかけながらピックを動かす。寒気と吐き気が次第に強くなり、やがてそれは俺の手に形として表れ始めた。

 微かにだが、手が震えている。まるで末期のアルコール中毒患者のように小刻みに震える両手。だがまだ何とかなる、そう自分に言い聞かせて気力で抑え込む。


 かちり。


 手の震えを抑えつつピックを動かすとすぐにテンションが回転した。解錠の証でもある内部機構が外れた音とともに南京錠が外れて落ちる。だがその南京錠が床に落ちることはなかった。床に落ちる直前でまるで幻のように消えてしまったからだ。


「きえ……た?」

「きっとモンスターが作ったものだったのじゃろう。じゃがほとんど魔力を感じさせぬ錠を作るなど、いったいどんなモンスターじゃろうか?」

「ディノ様……嬉しそうですね」


 自分の経験にない状況にディノが子供のように目を輝かせている。それを見たタニアが怪訝そうな表情を見せているのは仕方のないことだろう。ディノはこういう未知のものを求めてダンジョン探索に身を投じているのだから。


「ロックは下がってて、扉を開けるのは私の役目よ」

「……ああ、任せた」


 俺と扉の間に割り込むようにソフィアが剣を構えながら入り込む。目線で俺に下がるように促してくるので、素直に従って距離をとる。掛金を静かに外してゆっくりと扉を押し開けるソフィア。左手に装着した炎を纏った鳥の彫刻がある丸盾で扉を押しつつ、右手は油断なく剣を構えている。扉の奥からは行き場を失って澱んでしまったカビくさい空気が流れ出してきた。


「嘘……この匂い……もしかして……」

「知ってる奴がいるのか? まさか捕らえられて?」

「ううん……そんなはずない。そんなことあるはずない……」


 流れ出てきた空気の匂いを嗅いだとたんにアイラの表情が変わった。まるでうわごとのように何かを必死に否定しようとする言葉を繰り返す。その顔は驚愕の色に染まり、目は焦点が合わずに泳いでいる。


「どうしたのアイラ? 何があるの?」

「どうしたんじゃ? 中に何がおるんじゃ?」

「嘘だよ……だって……ダンジョンで死んだって……なのにどうして匂いがするの?」


 ミューリィやディノもアイラの急変を察知し心配そうに近寄ってくるが、アイラはずっとうわごとのように同じような内容を繰り返している。だが「死んだ」という言葉からするに、この奥にいるのはアンデッドか?それも知り合いか?


「もしかして誰か知り合いがアンデッドになってるのか?」

「ううん……違うみたい。アンデッドの匂いじゃない。……でもどうして……」


 俺の問いかけになんとか首を横に振ることで否定の意思表示をする。この扉の奥にアイラをここまで混乱させる何かがいるということか。それなら……開けて確かめるしかないだろう。


「ソフィア、この奥にいる何かがアイラを混乱させてる。そいつが何かしたのかもしれない」

「混乱させる術? それとも呪いかしら? 何かが発動した気配は感じられなかったんだけど……それならその張本人の顔を拝んでみましょうか」


 真剣な表情で考え込んでいたソフィアだったが、やがて考えることを放棄したのか、こちらに向かってウィンクするといきなり一歩下がった。何事かと思っていると、強烈な踏み込みとともに前方に右足が突き出された。神官戦士でもあるソフィアの鍛え抜かれた体捌きにより繰り出された鋭い前蹴りが扉に炸裂する。蹴りの威力におそらくかなりの硬度を持つであろう何かの材質で作られたブーツの破壊力が上乗せされ、扉はいとも簡単に蝶番が弾けて奥へと飛んでいった。


 部屋の奥からはかなりの人数の人間の怒声やら泣き声やらが聞こえてくる。扉が開けられたことにより助けが来たと思っているのだろうか?だが……


『うるさいわ、静かにして』

「…………」


 部屋の奥から少女とおぼしき声がするととたんに静かになった。部屋の奥は薄暗く、まだ暗さに慣れない状態でははっきりと見ることはできないが、誰かが何かに腰かけているようだ。


「やっぱり……どうして? どうしてここにいるの?」

『久しぶりね、アイラ。元気そうで何よりよ。それから……そっちがゲンの一番弟子ね。ということは私の兄弟子になるのかな?』

「こっちの質問に答えてよ! どうしてここにいるのよ! ダンジョンで偽宝箱ミミックに飲み込まれて死んだはずでしょ! 髪の色とか肌の色は変わっても匂いはごまかせない!」

『ごまかすつもりはないわ、気が付いたらこうなってただけよ。ここにいるのは……利害関係が一致しただけだから』

「何が……何が目的よ、ミシェル!」

『目的……そう、目的は……ゲン=ミナヅキの一番弟子、ロックに興味があるってとこかな』


 ようやく暗さに目が慣れ、部屋の奥を見るとそこには一人の少女がいた。年の頃はアイラよりやや上くらいか、チューブトップのような黒い服に黒の革鎧、黒のホットパンツのようなズボンに黒のブーツという黒づくめのいでたち、暗褐色の肌とは対照的に肩まである雪のように白い髪、そして薄暗い室内でもはっきりとわかる真紅に光る瞳。さらに特徴的なのはミシェルと呼ばれた少女がペンダントのように首から下げていたのは子供の手のひらに収まるほどのサイズの小さな宝箱らしきもの。そして彼女が腰かけているのも……宝箱だった。そんな彼女は俺を見てにっこりと微笑みながら言った。


『はじめまして、ロック。私はミシェル、見てのとおり偽宝箱ミミックよ』


まさかのミミック登場です。


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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