㉓
読んでいただいてありがとうございます。
ブレンダンの元に届いた弟からの手紙は、彼にため息を吐かせるには十分な内容だった。
弟を留学に出した。
そこに、家出した妹がいることは分かっていた。
出来れば弟だけでも妹と和解してほしい、身勝手にもそう思っていた。
愚かな父母や姉妹はこっちで何とか始末をつけるから、せめて弟だけでも、そう思ってわざわざアンジェラがいる場所に送り出したのだ。
まさか母が、下の妹を勝手にフレストール王国に行かせるとは考えてもいなかった。
毎日毎日、こりもせずに何かを言い争う姉妹と母にうんざりして、しばらく家に帰っていなかったらこれだ。
本当に少し目を離しただけで、すぐに問題を起こしてくれる。
「ブレンダン殿……」
青ざめた顔で立っていたのはベルナルドだった。
アンジェラの元婚約者で、サマンサの相手として考えていた青年。
昔はともかく、今のベルナルドはサマンサのことを苦手にしている。
今の彼の頭の中にいるのは、アンジェラだけだ。
けれど、アンジェラは絶対に帰って来ない。
「母上が勝手にサマンサをフレストール王国に送った。母上は単純に、うるさい相手を厄介払いしたかったんだろうな。問い詰めたら、サマンサにも新しい出会いが必要だとか何とかゴチャゴチャ言っていたよ」
新しい出会いも何も、ディウム王国の貴族たちならば、ほとんどの者がサマンサのことを知っている。たとえ他国に嫁ぐことになったとしても、ちょっと調べればすぐに分かることだ。ブレンダンも破談されることが間違いないサマンサを、他国の人にすすめる気はなかった。
ベルナルドが静かにうなだれていた。
いい加減、彼にも腹をくくってもらいたい。
自分はすでに腹をくくった。
父母と妹を田舎の屋敷に監禁することになろうとも、もう仕方がないことだ。
「ベルナルド殿、悪いがフレストール王国に行ってサマンサを連れ戻してほしい。ここで俺までフレストール王国に行ってしまうと、本当に父母が何をするか分からないのでね」
「それは……!」
「君はサマンサの婚約者だ」
「……正式には、まだ!」
「正式?君にはもうサマンサ以外の選択肢はないだろう?」
アンジェラにした仕打ちが広がっていて、ベルナルドは女性から距離を置かれていた。
その女性たちにしても、一時はアンジェラの悪口で盛り上がっていたというのに、今はアンジェラに同情するような言葉を発している。
本当にくるくるとよく回る手の平だ。
「フレストール王国に行き、ヴァージルと一緒にサマンサを連れ戻してほしい」
「ブレンダン殿!」
「……ひょっとしたら、俺の妹によく似た女性を見かけることがあるかもしれないが、彼女はディウム王国とは無関係の存在だ。見るだけならいいが、接触はしないでくれ」
「……アンジェラが……フレストール王国にいるのか……?」
その問いかけにブレンダンは何も答えなかった。
決して目を合わせることないこの状況が、答えなのだろう。
「もう一度言うが、接触はしないでくれ。彼女はフレストール王国の人間だ。下手すると外交問題に発展する可能性だってある。フレストール王国のアンジェラという女性は、宰相閣下の庇護を受けているそうだから」
ブレンダンの言葉に、今度はベルナルドが何も言わずにただぐっと歯を食いしばったのだった。




