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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第六章

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砂糖たっぷりのジャム

 

 地上は生きているものの世界。

 地下は神の世界。


 星は愛し子をやっと懐に抱くことができた。

 しかしまだ、星は力を取り戻していない。



 白の世界だ。


 なにもない。


 まぶしく輝くだけの世界。


 何の気配もない。


 何もないのだと思えば、自分の意識も白の世界に溶けていく。


「馴染みすぎたか?見えないのか?」


 声がした。


 広がっている自分というものの境界線があいまいになっている感じがする。


「目の前にいるんだぞ?見えるだろ?」


 見える。

 見えるとは何か。


「しっかりしないか。溶けたらお前の虎が悲しむぞ」


 虎。


「ユエ」

 発音してみれば、自分という意識がきゅうと集約されてはっきりとした。


「そうだ。お前の虎だ。なんだ。虎のことを考えたらしっかりしたな」

 くすくす笑われるが、心が静かに納得する。


「あの虎は一番金に似ている。だから銀もあの虎が好きだ。お前も好きだ。まだ二人で楽しんでほしい。星もお前たちを一番かわいく思っている」

「うん・・・」


「でも、金はせっかちなんだ。気が短い」

 ふう。とため息交じりに言う。


「無限の生があるせいか、せっかちなんだ。銀は終わりがあるからあまり時間を気にしない」

 なんだか逆のような気がするが、そういうのだからそうなんだろう。


「金はすこし焦っている。星にとっても想定外のことが起こりすぎたんだ」

「想定外?」


「そうだ。金と銀がバラバラにされるなんてことが起こるはずがなかったんだ。金には耐えがたいことだったんだろうな。かわいそうだ」

「うん。かわいそう・・・」

 目の前の声で、この星の神話を思い出してきた。

 金と銀の物語だ。


「星も可愛そうなんだ。これ以上金と銀がバラバラになっていたら、力がどんどんなくなる。星から離れていた妖精もやっと手元に戻ってきたばかりだというのに」


「金と銀が離れていたら、妖精の力があっても徐々に星は弱る。そうなると星は捨てられる」

「すて、られる?」


「そうだ。裁定者は生きることができないとわかったものは捨ててしまう。手をかけない。この星もいずれ遺棄される」

「・・・・かわいそうね」


「そうなんだ。かわいそうなんだ。この星に生きるものもみんな生きられない」

「そんなの、いや・・・」


「うむ。銀もそんなことは望んでいない。妖精だけじゃなくて星に生きているものはみんなかわいい」

「うん」


「だから、妖精としてどんどん力を使ってほしい。わがままに。貪欲に。なんでも自分の思い通りにしていい」

「そんなこと・・・」


「大丈夫だ。妖精としての力を自由にふるっていい。もう好きにしているだろ?なんだか小さいものの病を癒した」

「・・・うん。した」


「それでいいんだ。妖精として好きに癒せばいい。嫌いなものは銀が打ち滅ぼしてやる」

「滅ぼすの?」


「そうだな。銀は銀の気に入らないものを滅ぼす。お前には迷惑はかけんよ。お前は優しいからな。お前ができないことをやってやる。だからどんどん妖精としてこの星に馴染むように」

「わかった」


「お前が何もない星に飛ばされていたのも**************」


 急に雑音が混ざって何も聞こえなくなってしまった。


 いや、聞こえている。

 ザーザーと、血管を走る血液の音が大音量で耳の中に響いている。



 海の中にいるみたい。



「ユエ」

「うん。おはようシャオマオ」

 目を覚ましたら、きれいなきれいな半獣人が一番に目に飛び込んできた。


「おはよう。今日もきれい」

「シャオマオがきれいなんだよ」

 ふわふわの毛並みでシャオマオの丸いおでこに口づけをしてくれる。


 ユエはダーディーがいなくなってから、約束通り半獣人姿で一緒に寝てくれるようになった。

 本当に柄も体格もダーディーとそっくりだけど、シャオマオにはちゃんと違う。

 きれいなきれいなシャオマオの虎だ。


「シャオマオは?してくれないの?」

 催促されたのでじりじりユエの顔の方ににじっていって、おでこに口づけしようとしたらすっと顔を動かされたので、しっとりとした鼻先に口づけてしまった。


「きゃあ!」

「ふふ。嬉しい」

 ユエはキスされた鼻先をぺろりと舐めて目を細めて喜んでいる。


「もうっ!もうっ!もうっ!」

「あはは!くすぐったい!」

 シャオマオはぐいぐい押して、ユエをベッドから落とそうとするが、そんなことでユエの巨体が落ちるわけがない。ぐりぐりと押されてくすぐったそうに身をよじっている。


「おーい。いちゃいちゃしてるところ悪いけど、朝ご飯できたから早く食べちゃってー」

「はーい!」

 ライの呼ぶ声に返事して、慌てて身支度を整える。



「シャオマオちゃんが作ったジャム。ちょうど食べごろだったから出してみたよ」

「うわー!きれい!」

 つやつやぴかぴかの赤い果実がごろごろと入ったジャムは、学校の授業で作ったものだ。


 人族の学校はエリティファリスが頑張って公衆衛生を根付かせたお陰で、生活力を自然とはぐくむようなエルフの生活に近いものがカリキュラムとして取り入れられている。


 自然の力を分けてもらう生活だ。

「今日は共通語の発表会があって、緊張したのでこういうものを食べましょう」

「お掃除にはこういう精油を使いましょう」

 そういうことをきちんと勉強する。


 森に行って、食べられる野草を探したり、保存食を作ったりする。

 そういう時間が低学年はお昼からの時間に参加自由で設けられている。

 ほとんどの子供が遊びの延長で受講する人気講座なのだ。


「シャオマオが作ったジャム・・・・」

 カリカリに焼いたバゲットに、ジャムをこんもりと盛ってうっとりと食べるユエ。


「果肉もほどよく残っていて美味しくできましたね」

「お砂糖いーっぱいつかったからびっくりしちゃった!」

「でも、食べてみたら甘さ控えめでしょ?」

「あい!」

 かぷっと噛むと、じゅわっと果肉の甘酸っぱさが広がって、あっさりと食べられる。



「今日、小さな瓶に詰め替えて、いくつかシャオマオちゃんの知り合いに送っておくからね」

「ありがとう!ライにーに」

「シャオマオが作ったものは全部俺が食べたいのに・・・」

 ぶつぶつ言うユエに、みんなで食べたほうが美味しいから!と説得して、大きな瓶の半分近くを送ることができた。


「みんな喜んでくれるかなぁ~」

「シャオマオが作ったものを喜ばない者はいないよ」

 きりっとした顔で宣言するユエ。


「でも、一番喜んでるのは俺だから。必ず俺に一番を頂戴」

「あい。ユエが一番ね」

「ありがとう」

 ユエがシャオマオの指先にキスをしようとしたところで、ライに「早く食べないと遅刻するぞー」と怒られた。


 スクランブルエッグ、サラダ、カリカリベーコン、少し温めた牛乳。

「美味しい!幸せ!」

「うん。たくさん食べたね。今日も学校頑張ろうね」

「あい!」



「シャオマオ!おはようございます!」

「ミーシャ!おはよう!」

 今日もミーシャが門のところで待っていてくれた。

 美しい天使のミーシャ。

 一片の隙もない王子様っぷりだ。


「ミーシャ、これシャオマオが作ったんだけど、甘いの嫌いじゃなかったらもらってくれる?」

「ああ・・・。宝石をもらうよりも嬉しいです」

 ジャムの瓶にリボンをかけたものを受け取って、涙ぐんで喜んでくれるミーシャ。


 鳥族は求愛に宝石を贈りあう。

 ミーシャの親のニーカとチェキータも、髪がなびくと耳飾りがきらきらと輝くのだ。


「ルビーのように美しい」

「あい。つやつやよね」

 瓶を太陽に透かしてうっとりと眺めるミーシャの顔に赤の影が差して本当に美しい横顔だ。

 登校してきた女の子たちが倒れそうになっている。


「何をお返ししましょうか?」

「んーん。いつもシャオマオに優しくしてくれるお礼なの。だからこれからも仲良くしてくれたら嬉しいの」


「もちろんです。私はシャオマオのお兄さんですから」

「あい。ミーシャったらシャオマオのにーによ」



「シャオマオ。またにーにを増やしてしまった・・・」

 門の前で別れて先に出勤していたユエは、二人で手をつないで歩いているところを、離れた教師の控室から覗いてみていた。


 いつもにーにだと言っていたから心構えはしていたが、実際に認め合ってしまうのを見るとと心が乱れる。


「どうしてあんな離れてるのに聞こえるんですかね」

「いや、流石に口の動きを見たんだろう」

 同じく控室にいるサリフェルシェリとライがあきれたように窓に張り付くユエを見る。


 シャオマオがにーにだというものは家族として認めている。

 シャオマオには家族が必要だ。

 特に、シャオマオを守るのに、ミーシャは必要だ。

 わかっている。

「早く夫になりたい・・・」


「怖いですね」

「ホントに怖い」


 今日も一日が始まる。


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