入学式は短く簡単に人を驚かせる
「それでは、入学式を始めます。まずは学校長の挨拶です」
暗い中で、スポットライトを浴びた舞台上が明るく浮かび上がっている。
司会の女性が不思議な声を大きくするマイクのような魔道具で話をする。
機械を通して声をスピーカーから大きくして響かせるのではなく、隣で話しているようなボリュームなのに式場の隅々まで声が届くような不思議なマイクだった。
舞台の中央にやってきた男性が学校長なんだろう。
サリフェルシェリの後輩だと聞いていたが、年上に見える。
金の髪は短くセットされて、40代くらいかな?といった美中年だ。
青の瞳で舞台から新入生たちを見回して、一瞬シャオマオを見つめてにこりと微笑む。
「学校長のエリティファリスといいます。新入生のみんな初めまして」
学校長は優しそうな雰囲気をしていてシャオマオのドキドキが少しだけ和らぐ。
「学校に通うことになって緊張している子もいるかもしれませんが、大丈夫です。学校は優しい場所です。たくさんの種族の子供が通っています。種族も性別も年齢も関係なく、たくさんの人と友達になってください。何かあれば先生にも遠慮なく頼ってくださいね。入学おめでとう」
エリティファリスがパン!と両手を叩いて音をたてると、天井からお花がパラパラと降ってくる。
「うわあ!」
子供たちみんながきゃあきゃあ喜んで手を差し出して花びらをとろうとするが、手に触れるとふんわりとしたささやかな香りを残して雪のように溶けてしまう。
(年跨ぎの花火みたい)
「ぱあぱ。きれいね」
「うむ。見事な魔法だな」
「う?」
(誰かと「魔法使える?」「魔法ってなんだ?」というような会話をしたことがある気がする・・・。誰だったろう?やっぱり魔法あるのかな?)
ワクワクして浮きそうになった心を、ダァーディーのふかふかの手をにぎにぎして落ち着ける。
「どうした?」
「ワクワクしてきたの」
「それはよかった」
ダァーディーも嬉しそうにニッと笑う。
「それでは、新入生と同じく、今年新しくやってきた先生を紹介します」
エリティファリスが舞台袖にいる人物を招き入れる。
「うえ?!」
舞台に並んだ3人をみて、子供たちも保護者達もざわざわする。
「サリフェルシェリ先生は私と同じくエルフ族です。名前を聞いて知っている保護者の方も多いと思いますが、有名なエルフの賢者に教鞭をとってもらえる幸運に恵まれました。新入生の担任をしてもらいます」
大きな拍手が起こった。サリフェルシェリは本当に有名人なのだろう。
「続いて、猫族のライ先生。ユエ先生。お二人は先生が初めてです。しかし有名な上級冒険者でもあります。学ぶことは沢山あると思います。積極的に交流をしてください」
二人もシャオマオに向かって笑顔を見せるが、それをみた保護者(主に女性たち)の悲鳴のような歓声がすごい。コンサート会場かな?
三人とも素晴らしく舞台に映える。
客観的に、距離をとってみると改めてきらきらと輝いて見える。
ライたちには野太いお父さん方の声援もすごい。
なんなんだこの空間は。
「それでは、入学式はここまでです。上級生の皆さん。案内してきた新入生のところに行って、各教室に案内してあげてください。保護者の方はしばらくお待ちください」
「ぱあぱ・・・知ってたよね?」
「・・・・う。うむ」
「シャオマオにだけ、内緒にしてたの?」
「いや。あの。うむ。・・・驚かそうと」
「びっくりしたよ!!」
あのユエが、シャオマオを一人っきりで学校に通わせるのに簡単にうなずくわけがないのだ。
道理ですんなりと(?)学校に通うことを了承したと思った。
というか、シャオマオと離れる訓練とは何だったのか?
ユエは学校でも会えるのにあんなに不安定になっていたのか?
いや、でもユエは1か月前には落ち着いていた。
一人っきりで頑張らなければと思ったシャオマオの緊張は何だったのだ?!
「それでも「先生」だからな。いつものようにシャオマオを特別構うことはできないが、近くで守ることはできる。こうでもしないとお前を自由にしてやれなくて。すまないな」
「ぱあぱ・・・」
髪形を崩さないように、ダァーディーはシャオマオのほっぺたをすりすりと撫でる。
ぐるぐるといろいろなことを考えてしまったが、ちょっと平和が続いていて忘れてる。
シャオマオは何者かもわからないものに狙われたことがあるんだ。
これがあるからユエもみんなも学校に行くことを了承してくれたのだろう。
「いろいろ考えてくれてありがとう、ぱあぱ」
「う。びっくりさせようとしたのは悪かったな」
「どっきり大成功だよ。すっごく驚いた!」
にこっと笑うとダァーディーがわかりやすくほっとした顔をした。
「嫌われなくてよかった・・・」
「シャオマオ。教室に行きますが、大丈夫ですか?」
「ミーシャ。大丈夫よ」
にこっとミーシャに挨拶すると、ミーシャはほんのり頬を染める。
「手をつなぎましょう」
「あい」
椅子からぴょんと飛ぶように降りて、ダァーディーに手を振って別れる。
新入生たちはそれぞれの案内役に手を引かれて教室までの廊下を進む。
「シャオマオ。ユエ先生がシャオマオの特別ですか?」
こそこそと話しかけてくれる。
「うえ?!」
「片割れですよね?」
「あ、あい。片割れよ」
特別というから意味を考えすぎてしまった。
「あんなに強い獣人が片割れですから大丈夫だと思いますが。何かあれば必ず私を頼ってください」
「あい。ミーシャありがとう」
「いえ。父と母を助けていただいた話は聞いています。でも、それ以上に、今日出会ってあなたという人に惹かれています。シャオマオ」
「え!?」
キラキラの王子様オーラで微笑まれると、ドキドキしっぱなしだ。
単純にきれいすぎる。なんだこの宝石でできてるのかというきらめきは。
「目がちかちかする」
「大丈夫ですか?」
「うぃ」
目頭をつまんで目を閉じて少し目を休めよう。
「さあ、教室です。シャオマオの席は・・・・。ああ、ここですね」
廊下側の真ん中の席に案内されて、ミーシャが持ってくれていたカバンを置いてくれる。
「私は教室に戻りますが、いつも二つ隣の教室にいます。何かあれば呼んでください」
「学校だもん。なにもないよ~」
「そうだといいのですが・・・」
にこっとお互いに笑って別れる。
カバンから取り出した水筒でお茶を飲んでいたら、隣から声をかけられた。
「はぁー。また過保護者が増えたなぁ」
「ぱあぱ!」
廊下の窓から教室を覗き込むダァーディーに呆れたように声をかけられた。
「まあ、なんだかんだ言っても俺もお前を甘やかさずにはいられないんだよなぁ」
「妖精だから?」
「いや、かわいい娘だからだ」
にっと笑われて、シャオマオも笑顔になる。
「ほら、先生が来たぞ。前向け」
ほっぺをツンとつつかれて、笑って前を向くとサリフェルシェリが教室に入ってくる。
「さあ。みんな入学おめでとう。この教室を担当しますサリフェルシェリ。エルフ族です」
にこっとすると、教室中からため息が聞こえる。
廊下や教室の後ろから見ている保護者達の目がハートになっているのが見える・・・。
(魅惑の美貌・・・)
「この教室にも、獣人、人族とたくさんの種族がいますね。普段の生活では他種族に触れ合うことがない人もいると思いますが、せっかく同じ教室の仲間になったのです。友達になりましょう。まずは隣の席や後ろの席に座っている子と話をしてみましょう」
サリフェルシェリに言われて隣の席を見ると、隣は獣人の女の子。
「私、カラよ。犬獣人。あなたすごくかわいい」
茶色の髪と瞳。しっぽはくるりと巻いていて、ぱたぱたと揺れている。
「ありがとう。シャオマオです。妖精なんだって。カラ、よろしく」
「よ!妖精様!!!」
カラが勢いよく立ち上がって反応してしまったことで、教室中に妖精だと知れ渡ってしまった。
「妖精様?なんで妖精様が学校に来るんだよ」
前の席の男の子が振り返ってじろりと睨むようにシャオマオの顔を見て、固まる。
「お勉強したかったから?」
「う・・・」
「よろしくね。シャオマオよ。お名前は?」
「・・・・・・・・・ダン」
「ダンは人族?」
「そ、そうだ」
「わー。シャオマオ、人族のお友達初めてよ。嬉しい」
「と・・・ともだち・・・」
ダンは耳まで真っ赤になって固まってしまった。
「大丈夫?具合悪いの?お茶飲む?」
「シャオマオちゃん、ほっといてもいいわよ」
「う?でも真っ赤」
「こんなかわいい子ににこにこされたら男子はみんな固まっちゃうわよ」
「う!うるせーぞ犬獣人!」
「なによ。本当のことでしょ?」
立ち上がって二人でにらみ合ってしまったので、シャオマオはどうしていいのかわからなくなって後ろを見ると、眼鏡の人族の男の子がいた。
「よ、よ、よろしく。ぼく、ペーター」
「シャオマオよ。よろしくね」
「う、うん」
後ろのペーターはあんまり目を合わせてくれないが、照れ屋さんなのかも。仲良くなれたらいいな。
中央の学校は男女比では男子が多く7対3。人族が6。獣人が3。エルフ族などが1未満です。
エルフは基本的に自分たちの大森林に大きな学校を持っているのでそこで学ぶことが多いようです。




