頑張れダァーディー!(シャオマオの願望)
初めて来たシャオマオを楽しませるように、みんなが「次はお花を浮かべたお湯にしよう」「塩の入ったところにしよう」「サウナに入ろう」と案内してくれる。
適度な休憩をはさみながら、シャオマオはいろんなお湯を堪能した。
「お風呂はいるとおなか減るねぇ」
シャオマオは買ってもらった真っ黒のジェラード(イチゴ味)を食べながら、ふにゃふにゃの顔で休憩している。
もちろんユエの膝の上でユエに食べさせてもらっている。
適度な柔らかさを持ったユエの筋肉にドキドキしてしまうので、タオルをかけてからだを覆ってもらっているがやっぱり見えると照れてしまう。
ちゃんと見えないのに、この下は裸なんだと思うと普段よりも触れた感覚は鈍いのに恥ずかしい。
ユエは大柄な体で自然についた柔らかい筋肉を纏っている。
力を抜いているときはふにふにふかふかとしていて触り心地がいい。
触っても怒られないけれど、触りたいけれど、触ったらダメな気がしてシャオマオは必要以上に触らないようにしている。
そのためには、あまり見ないようにしなければならないのだ。
(みわくのからだ・・・)
「そう?じゃあそろそろ帰ってみんなで年跨ぎ料理を食べようか」
「あい。ライの料理楽しみよ」
ユエの体について考えていたシャオマオは現実に戻って、なんとかライに返事した。
「うーん。伝統食だから小さな子の口に合うかちょっと心配かも?」
「家族みんなで家で作った同じものを食べるのがいいのよ。ライにーに」
基本的には素朴な野菜や保存のきく肉を使ったもので、ゆったりと年跨ぎの休みを過ごすことを目的に作られていて、子供が喜ぶようなわかりやすい味ではないのをライは心配したが、シャオマオはちゃんと正しく年跨ぎの過ごし方や伝統食のことを理解していた。
「シャオマオちゃんはやっぱり賢いな。自慢の妹だ」
ぐりぐりと頭を撫でる。
「えへへ。ライにーににほめてもらうのうれしい」
照れて笑うシャオマオはさっきまでの大人っぽい表情から一変して赤ちゃんのような顔をする。
こういうところはまさしく話に聞く妖精様そのものなのだ。
大人も驚くような知識を持っていると思えば、子供のように他人に対する影響を考えずに好きなことをする。知識を人に授けるかと思えば、その知識でいたずらをして大いに人を困らせたりする。
気分で人の住処を荒らしまわっては、病に倒れたものを憐れんで助けたりもする。
ただいるだけで魔素を浄化するのに、全面的に人の味方ではない。
妖精はほんとうに天気と同じなのだ。
誰にもコントロールできない。
それから考えると、シャオマオはずいぶんとひとっぽいのだ。
「じゃあ、そろそろみんなきれいになったし帰ろうか」
「あい!」
シャオマオは磨かれてふだんもつやつやしているのに、もうピカピカと光るほどの肌になっている。
「まさしくむきたまご肌ね」
うらやましそうにランランはシャオマオのつるつるほっぺをつつくが、ランランもつやつやの肌と黒髪が復活している。
最近のダンジョンへの冒険や見張りで、ちょっとお疲れモードだったのだ。
「ねーねもきれいよ」
「ありがとう」
ランランは照れて耳をぴるぴる動かしている。
戦闘種とはいえ、ランランはまだ14歳の女の子なのだ。思春期の女の子としてはいろんなことが気になるのだろう。
そう思うとレンレンはあまり思春期という感じがしない。
(にーにはおとなみたいね)
「シャオマオ、着替えたら髪を乾かしてあげるからそのまま出ておいで」
「あい。おねがいします」
シャオマオとランランは女性用のロッカーに向かって歩いていくが、ユエはぎりぎりまで二人を見送る。
「シャオマオちゃんが出てくるまで、男どもは交代で着替えに行こう」
全員が一斉に不在になったところにシャオマオたちが出てきたら、絶対に余計な輩に声をかけられるのがわかっているのでまずはレンレンとライ、サリフェルシェリが着替えに行った。
「ユエ」
ダァーディーに話しかけられるが、ユエは振り向いただけだ。
「ホントにお前はシャオマオのことしか興味がねえんだなぁ」
がははと笑う。
「シャオマオに俺の人型の時の顔がどんなか聞かれたぞ?」
「・・・そうか」
「お前よりも男前だと答えておいたからな」
「シャオマオが興味を持ってしまうかもしれない・・・」
独り言のようにぶつぶついうユエ。
「興味はもうずいぶん持ってると思うぜ?なぜ完全獣体の俺とお前がそっくりなのかとかな。まあ、シャオマオは見分けていたが。すげえな。獣人でもないのに見分けがつくなんて」
人族は獣人の獣体、特に完全獣体なんかは見分けがつかないことが多い。
「番だからだ」
「まあ、シャオマオもお前の匂いを嗅ぎ分けてる。番の神秘だなぁ」
ダァーディーはきりっと顔を引き締めて、腕を組む。
「昔の話、してやったのか?」
「・・・いや」
「俺は、シャオマオが妖精だろうとお前の番だろうと構わない。俺が猫族の長をしている間は猫族はお前とシャオマオを全面的に守る。・・・今度こそ」
「そうか」
「償いだけじゃない。俺は心からお前たちが大事だ。お前たちが最善の道を歩めるように手助けする」
「ありがとう。・・・・ダァーディー」
ユエが礼を言ったことにダァーディーは眉根を寄せた。
「お前。シャオマオのことになったら礼が言えるんだな」
「ユエ、ダァーディー。待たせた」
ライとレンレン、サリフェルシェリが着替えてやってきた。
きちんときれいな体になったので、新しい買ったばかりの服を着ている。
新しい年になるときには、きれいな体、きれいな服で迎える。
「慌てて出てきたから髪が乾かせませんでしたよ」
サリフェルシェリは普段は結っている髪をほどいて魔道具の超吸収タオルでじわじわ髪を乾かしている。
温風を当てるよりも髪が痛まないし、すぐに乾いてくれる。
タオル自体もどんどん乾くので旅に一枚あるとすごく使える。
「お、それ便利そうだな」
「ダァーディーはどうせ体を振れば水気が切れるでしょう?」
「それでも雨の日なんかは湿っぽい。買って帰るかな?」
「あとで買ったところを教えますよ」
ダァーディーとユエが手を振って、交代で着替えに行く。
「女の子は着替えに時間がかかるだろうからゆっくり待とう」
「あ!兄さん。その間にシャオマオが喜んでたお風呂に浮かべる花を買ってきたい」
「お前、女の子が席を外している間にプレゼントを用意するなんて。色男だな」
「妹を喜ばせるいいお兄さんよ」
照れて笑うレンレンが、お土産売り場に走って行った。
「シャオマオ。どう?拭いてあげようか?」
「ううん。シャオマオねー拭くのできるよ」
髪から水がぽたぽた垂れるので、体を拭いても拭いても濡れてしまう。
「髪だけ簡単に拭こうか?」
「んーユエが拭いてくれるから・・・」
「水が落ちるままだと服が濡れるから、簡単にまとめてあげるよ」
「ありがとうねーね」
シャオマオは新しく準備してもらった猫族の伝統服を着た。
すぽっとかぶって少しのボタンを留めるだけなので簡単なのだ。
「シャオマオもすっかり猫族の子供ね」
「うふふ。にやう?」
シャオマオが喜ぶように、この新年の服には猫のしっぽのような飾りが縫い付けてある。
シャオマオの髪と同じ桃色でふさふさの毛並みがかわいらしい。
手をつないで更衣室から出る。
「シャオマオねー、『ペルシャ猫』なのー」
「ぺうちゃ?」
「猫ちゃん」
「猫の種類かな?」
「そうなの」
「じゃあ、シャオマオは虎だよ」
「ユエ!」
待合の場所に出ようとしたところでユエが待っていてくれた。
「シャオマオ、ぺうちゃねこじゃなくて虎になりたくないの?俺とお揃いだよ?」
「だってー。シャオマオ髪が『ピンク』なんだもん。あ、タオの実色」
「きれいな色だものね。髪を乾かしてあげる。おいで」
「あーい」
待合になっている場所で、魔道具のタオルで髪を乾かしてから丁寧に梳り、シャオマオのリクエストに応えてお団子にした髪を猫耳にしてまとめる。
「ユエもできるんだね、猫のお耳」
「シャオマオがスイに髪をまとめてもらったことがあるだろ?」
猫族の里でのお披露目の時だ。
「あれをほどく時に覚えておいたんだ。いつでもシャオマオに頼まれたらできるようにって」
「ユエありがとう!」
シャオマオは嬉しさのあまり、ユエに首に抱きついた。
「シャオマオ」
ユエも抱きしめ返す。
「シャオマオ。やっぱりお前は猫族だぜ。普段も耳としっぽがいるなぁ」
「ぱあぱ」
ふわふわのダァーディーにも飛びつく。
「ぱあぱ、ふんわりよ~」
「サリフェルシェリに教わった魔道具のタオルで拭いたんだ。土産にも何枚か買ったぜ」
「おみあげ?あ!スイに?」
「・・・・・・・・・・・・・・スイの名前がなんで出て来るんだ?」
たまたまさっき猫耳の髪形にしてもらったから思い出したのだが、ダァーディーにはなにか意味があったようだ。
耳が平行になって横目でシャオマオを見てきた。
「・・・まあま?」
「ママ?」
「ぱあぱと、まあま?」
「んぐ!」
びっくりしてむせるダァーディー。
「シャオマオねぇ、次はまあま欲しいな」
「シャオマオちゃん、よく見てるねぇ」
ライが頭を撫でる。
どちらかというと、「そうなったらいいな~」くらいの気持だったのだが。
「シャオマオ。夫はもうここにいるからね。もう探さなくていい」
慌ててシャオマオを取り返すユエは、やっぱりシャオマオのことしか頭にないのだった。
スイさんは猫族の里にいる女性の中で一番戦える人です。
半獣姿にもなれますし、武器も得意です。
使うのは戦斧と言われる片手斧です。
怖いです。




