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金と銀の物語~妖精に生まれ変わったけど、使命は「愛されて楽しく生きること」!?~  作者: 堂島 都
第一章

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眠い時は素直にしゃべっちゃう

 

 温泉の後は宴会だ。


 夜はギルドへ戻ってシャオマオを落ち着かせたいと思っていたが、洗濯を頼んだ服が乾かなかったのと、なんだかシャオマオ自身がうにゃうにゃとすねたり甘えたりモードになっていたのでユエが虎から人の姿になることを許さなかったのだ。

 あと、海人族の長老たちに泣いて乞われてしまって妖精歓迎の宴を断れなかったのもあった。

 すべての条件がかみ合って、宴に参加することになってしまったのだ。

 その代わり、長老と仲のいい人たち以外はあまり近づかないようにしてもらって落ち着いた空間になっている。


「妖精様。また今代も海人族の島に遊びに来ていただきありがとうございます」

 海人族は少し高い位置にシャオマオの特等席を作り、下から正座で頭を下げた。


「先代の妖精様は海人族を気に入り、海の底にもよく遊びに来ていただきました」

「いつでも何日でも遊びに来てください。なんならずっといていただいてもいいのですよ」

 一体いくつなんだろうかというくらい、白髪を伸ばした日焼けしたおじいちゃんたちがかわるがわる話しかけてくる。長老と言われる立場の知恵者たちらしい。


 シャオマオのそばには完全獣体のユエとシャオマオに食事の世話をするためにライが控えている。

 シャオマオはずっとユエのしっぽを掴んだままなのだ。

 握ったり撫でたりたまにかじったりと、少しばかり、赤ちゃん返りしているようだ。

 温泉でもずっと誰かの体に触れたがっていたのが痛々しかったとチェキータの報告があった。


 シャオマオはおじいちゃんたちの共通語の癖が強すぎて聞き取りにくく、あまり会話が理解できていなかったが、ものすごーく歓迎されている気持ちだけは伝わってきた。

 新鮮な海鮮料理をライに口に放り込んでもらいながら、みんなの会話を眺めている。

(ホタテ美味しい。うにも美味しい)

 以前の体では生ものを食べることがなかったので、もぐもぐする口が止まらない。美味しすぎる。


「キノ、というのはこちらの族長か?」

「そうです。先代の妖精様と殊更仲が良かった」

「よく先代の妖精様が会いに来てくださって一緒に過ごしていたのです」

 ライの質問に長老たちはにこにこと答える。


「いまはいらっしゃらないようだが」

 一段下の席にいたサリフェルシェリが長老に尋ねる。

「ああ。今代の妖精様に言われたことが堪えたんでしょう」

「言われたこと?」

「嫌いと言われたと落ち込んでいた」

 あっはっはと長老をまとめているおじいちゃんが大笑いした。


「あやつはなかなかに長生きしているが、心がまだまだ子供なのです。先代の妖精様を想いすぎている。もちろん妖精様は星の愛し子です。神話時代の神と同じく大切にすべき存在です。だが、自分の理想を強く持ちすぎている」

「理想、ですか」

「そう。キノは妖精様に育てていただいたのです」

「妖精様が?子供を?」

 サリフェルシェリが質問したところで、こちらに近づくものがいた。


「爺様たちよ。口が軽いですね」

 キノが青緑の鱗をキラキラ反射させながら長老たちの席のそばで立ち止まった。

「シャオマオ様。私も宴に出てもよろしいでしょうか?」

 シャオマオを見ながら笑顔で尋ねる。


 シャオマオは眉毛と口をへにょっと下げて「いいよ」と了承した。

 表情と返事が一致しないので、ライとユエはシャオマオの本心がよくわからなかった。わからないが言葉に従うしかない。

 キノは全く気にせず「ありがとうございます」と礼をいい、長老の席の一番シャオマオに近いところに座った。


「どうですか?料理はお口にあいますか?」

「おいちぃ」

「それはよかった」

 キノはにこにこしているが心の中の感情がよくわからない。本当にシャオマオに言われたことが堪えていたのかもわからない。全くそんなこと気にしていないようにも思える。


 しかし、シャオマオはキノがとてもとても悲しんでいるのがわかって、自分もつられて悲しい気持ちになってしまったのだ。今、ちゃんと話すしかない。


「キノ」

「なんでしょう?」

 口の中に入っているカツオを飲み込んでから、思い切って口を開く。

「きらい、いって、ごめんね。ぱちん、した、ごめんね」

「謝らないでください。妖精様ですから構いません。自由です。誰のことも好きにしていいのです」

「ちなう。キノ、シャオマオ、ともらち。ユエもニーカも、ちぇきいたも、みんなたすかっちゃ。ありがとう」

 キノは言われたことが理解できないような顔をした。

「ことば、まちがっちゃ?」

 ユエと、ライをきょろきょろ見ながら不安になって尋ねたが、ライに「大丈夫だよ」と頭を撫でられた。


「間違ってはいませんが、妖精様としては誤りですね。妖精様はなにものにも縛られないのです。人の気持ちも、思いも、なにも持ちません・・・」

 少し微笑んだキノの顔はさみしそうだった。


「シャオマオ様。宴を楽しんでください。私は下がらせていただきます」

 にっこりと笑ったキノは手に持った酒を飲みほしてからが立ちあがって一礼し、さっと立ち去ってしまった。


「キノ・・・」

「妖精様。大丈夫です。キノもすこーし頭を冷やすといいんじゃ」

 けっけっけと、少し意地悪そうに笑った長老はお酒をぐいっとあおった。

「今代の妖精様は見た目は子供だが、中身は大人だ。キノよりよっぽど」

 長老たちはご機嫌だ。


「先代の妖精様がよく海人族のエリアにいたというのはそういうことでしたか」

「そう。お陰で海には魔物がいなかった。育つ余地がなかった。海は穏やかで、清浄で、我々の暮らしやすいところになった」

「我々は先代の妖精様に世話になった。今代の妖精様には恩返しがしたいな」

「ですが、今回あんな大きな魔物が・・・」

 サリフェルシェリは山の上から見た巨大な魔物の姿を思い出して震えた。

 あんな大きなものが地上に出たら、と考えてしまったのだ。


「それですなぁ。あんなに育つまで我々が気づかないとは不思議だ」

「しばらくキノたちが潜って調べるでしょうが・・・」

「うーむ。地上の魔素だまりが海にも及んでいるのかもしれないな」


「空にも海にも影響があるなら、色々やらなくてはならないことが増えますね」

 お酒を飲みつつ、サリフェルシェリは嬉しそうにタコの足をかじるシャオマオを見た。

 もしかするとトラブルの方からやってきてくれるのかもしれないが。



 宴会はまだ続いているが、ユエとシャオマオはまた借りていた小屋に戻った。今日はここで眠るのだ。

 お腹がいっぱいになったのでこっくりこっくりと舟をこぎ始めたシャオマオを背中に乗せて、ユエは小屋の中に入った。

 ほとんど眠っているのに、シャオマオはユエのしっぽを握ったままだ。


 しっぽを握らせたまま人型にいったん変身して、夢うつつのシャオマオの歯磨きと髪の手入れをしてから上掛けをかぶって「シャオマオ。どうして虎がいいの?」と耳のそばでひそひそと話しかけてみた。


 ライやサリフェルシェリが聞いても全く理由を言わずにやんやんわがままに「虎がいいの!」というシャオマオは飛び切り可愛かったが、どうも理由があるような気がする。

 きっと聞いた方がいい理由だ。ユエの直感が告げている。


「ううん・・」

 また首をすこし振って、理由を言いたくないような雰囲気だ。

 眠いのでちょっと眉間にしわが寄っていて、いつも見ない顔にユエはうっとりした。

(シャオマオは不機嫌でもこんなにかわいいなんて。かわいくないときはあるんだろうか)


「ねぇ、シャオマオ。素直になって」

 ユエはシャオマオの小さな丸い耳にささやいた後にすすすと撫でた。

 自分の形とは違う耳。かわいい。

「うにゅ・・」

 くすぐったいのか少し体を縮めた。


「人型のユエは嫌い?」

「・・・・・ちなう」

「じゃあ、すき?」

「しゅ、き・・・・・」

 シャオマオの小さな口を指で撫でる。


「じゃあ、どうして人型の時は甘えないの?」

 きれいな桃色の髪を手櫛ですきながら尋ねる。

「人型の時もしっぽはあるよ」


 シャオマオにかじられて少ししっとりしているしっぽの先を見ながらユエはくすくす笑った。ユエは虎の姿の時に甘えてもらえるのも好きだ。でも、人型の時も同じように甘えてほしい。

 言葉も交わしたいし、人型でないとできない世話がたくさんあるため、できれば寝るとき以外は人型の時に甘えてほしい。


「・・・いい・・・はじゅかしぃ」

「ん?」

 小さな声だったので、聞き間違えたのかと思った。


「もう一回言って」

「かちょいいから、はじゅかしぃ」


 完全獣体の時も美しい獣ではあるが、人型のユエは人族から見ても、なかなか見ないような美形だ。整った顔に精悍さがあり、たくましい肉体も相まって見た人が振り返りたくなるような人目を引くような美しい佇まいをしている。


 本人は全く自分の人型の容姿に頓着がない。

 清潔にしておけばいい、程度にしか思っていないし、美醜はどうでもいいと思っている。

 整っているかは感覚として理解できるが、そのせいで特別誰かを好ましいと思うこともなかった。

 そもそもそばにいるのが美形のライとサリフェルシェリだ。

 だいたいこんなものかと思っていた。


 なので自分の見た目を褒められても感じるものがなかったが、今は違う。

 番のシャオマオに意識されている自分の見た目。照れて甘えられないと評された。

 一瞬にして、ぼっと顔に熱がこもって体内魔素バランスが崩れて虎の姿に戻ってしまった。


 そんな自分の胸元に、本格的に寝入ったシャオマオがコロンと転がって抱き着いてきた。

 ふかふかの毛皮に顔をうずめて安心するように微笑んだ。

 よかった。人型になっていたことはばれなかったみたいだ。


(き、きいて・・・よかった)


 ドキドキする胸を落ちつけながら、胸元のシャオマオを抱え直して幸せな気持ちで眠りについたユエだった。

かっこいいとか恥ずかしいという単語は、温泉で恋バナをする鳥族の女性たちが話しているのを聞いて覚えました。覚えたてほやほやです。

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