地上へ急げ!
「どれだけ待てばいい?どれだけ・・・俺が会いたいか・・・」
「シャオマオも、銀様から聞いてる。会いたいって言ってた」
「待っても会えない。会えない。・・・いつまで待てば会えるんだ」
「わからないよ」
「時間は無限だ。無限の時間をどれだけ待ったんだ・・・」
シャオマオは返事をしたが、少し離れたところで止まった大神はもうシャオマオと会話をしてくれない。
「あとどれだけ待てばいい・・・無限だ・・・終わらない生は死とどう違う・・・」
「変化がない。何も変わらない。引き裂かれたままだ」
「会えない。もう会えない」
「銀、銀。どこにいるんだ」
「引き裂かれた傷口がずっと痛む。ああ。苦しい・・・苦しい」
うつろな顔でぶつぶつと話す大神は、自分の半身ともいえる番を失って、ずっと一人ぼっちでいたんだ。
それこそ星の生き物に魂の片割れという呪いを振りまいてしまうくらいに悲しんでいる。
シャオマオはドキドキする心臓を抑えて、何とか銀狼様と交代できないか考えた。
シャオマオが泣いてここから離れたいと願えば代わってもらえた。
もしかしたら、銀狼様も交代したいと思っているかもしれない。
(銀狼様!銀狼様!銀狼様!!!)
シャオマオは必死に心の中で呼びかけた。
顔が真っ赤になるくらい力いっぱい心の中で叫んだ。
「シャオマオ?」
その様子にシャオマオを抱いているユエも小声で話しかけて来る。
「ダメ。銀狼様交代してくれない・・・」
「いま変わっても、どうやって銀狼をシャオマオから分けるのかわからない。銀狼の欠片はまだ集まっていないと言っていた。シャオマオの欠片だけではダメなんだ・・・・多分大神も、まだ足りない」
「はあ・・、銀、会いたい、・・・痛い、はあ、苦しい・・・・・」
地面をぐらぐらと揺らしながら大神は地面に片膝をついて、胸元の服を掴んで苦しそうに喘いでいる。
「ユエ、大神様、かわいそうね、こんなに会いたがってるのに、かわいそうね」
シャオマオは銀の瞳にこんもりと涙を盛り上がらせて、しとしと泣いた。
「・・・欠片・・・足りない・・・」
ぐん!っと大神の体が膨れ上がったと思ったら、ユエのゲルより大きな大きな黒い影が現れた。
「グルルルルルルルルル・・・・・」
金の目をした、影の大神。
金狼というよりこれでは黒狼だ。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
びりびりと空気を震わせて、巨大に膨れ上がった影の大神は大きくジャンプしてお城の天井をぶち破った。
「きゃあ!!」
「シャオマオ!」
シャオマオの頭をかばいながら、ばらばらと崩れる天井の巨大な欠片をよけて出口までユエは走った。
「くそ。あのまま地上に出る気だぞ」
「高濃度魔素の塊だもん。追いかけないと地上の人が大変!!」
「シャオマオ。追いかけるか?」
「ユエを連れて行かないと!ここに置いていけない!」
ユエも高濃度魔素に今弱くなっている。
ユエを守らなければ!
「俺を連れて飛べるか?」
「やってみる!!」
ユエを抱きしめて、空を飛ぶイメージを膨らませると、ユエの体も一緒に浮いた。
「ユエ!ちゃんと捕まえていてね!」
「俺がシャオマオを離すわけがない。安心して」
腰を抱きながら、ユエは器用にシャオマオの指先にちゅうと口づけした。
「いっくよー!!」
真っ赤な顔をしているが、ユエの余裕がシャオマオにも伝染した。
少しの余裕でも大事だ。
もうとっくに姿が見えない大神を追いかけてシャオマオとユエは地上に向かって飛んだ。
「なんでしょう。魔素が動いていますね」
「地震もさっきから微かに続いてるな」
エルフの大森林に向かってヨコヅナに乗っているダーディーとサリフェルシェリの二人は魔素の動きに注目した。
『サリフェルシェリ。高濃度魔素を纏ったものが集まってきている。2、3人か?』
ヨコヅナが忠告してくれる。
ヨコヅナは清浄な魔素を好むため、高濃度魔素に人より敏感だ。
「地震で、高濃度魔素で、二、三人・・・。魔人か」
はぁ、とため息をつくダーディー。
今はサリフェルシェリとヨコヅナに相乗りしているために、ダーディーは人型だ。
やっぱりユエと顔が似ている。
ユエが父親似だからだろう。
ユエをワイルドにして、無精ひげを添えたらダーディーの出来上がりだ。
少し未来のユエだと言われたら納得してしまう。
しかし、ダーディーはダーディーの色気があって、雰囲気は大きく変わる。
裸の上半身に革鎧。
腰にさした湾曲した剣が目を引く。
大きいのだ。厚みもその分あるように見える。
普通の腕力の男性では、振り下ろすことができてもコントロールすることは難しいだろう。
「サリフェルシェリ。どうする?幸い大森林と北の大ダンジョンとの中間地点だ。お前はこのままヨコヅナに乗って大森林へ向かってもいいぞ」
「ダーディーはどうするつもりですか?」
「俺は、ここから自分の足で大ダンジョンを見に行く」
「対応できる準備がないのでは?」
サリフェルシェリに睨まれて、少し口のはじを上げて笑うダーディー。
「準備がなくても何とかするのが冒険者だな」
「無謀に突っ込んで行かないのも冒険者ですよ」
今度はサリフェルシェリに笑われた。
「今の状況、完全にあのダンジョンで魔人が現れた時と同じではないですか」
「そうだな」
「では、魔人がまた現れるのか?」
「地上の魔人が集まって来ているのが気になります」
「気になるものは確かめにゃー、しゃーねえ」
ニコッと笑うダーディーに、サリフェルシェリはため息をついた。
「しょうがないですね。このまま様子を見にいきましょう」
ザザザっと音がした方を見れば、北の大ダンジョンへ向かう方へ走っていく一団が見えた。
「・・・?犬族か?」
「完全獣体の犬族のようですね」
ひっそりと木陰に隠れて様子を伺っていたら、半獣姿の荷物を背負っているものも見えた。
「・・・・後ろの、しんがりのやつは俺たちに気付いてるな」
「こっちを見てましたね」
北の大ダンジョンに向かって犬族が集団で駆けるなんて、珍しいこともあるもんだ。なんて呑気に眺めていられたらいいのだが、魔人が集まっているという状況で珍しいで済ませていいわけがない。きっと何か理由があるはずだ。
『サリフェルシェリ!ここも危険になるぞ!』
「どうしました?」
『高濃度魔素が地下から上がって来ている。それもすごいスピードだ!』
ヨコヅナはユニコーンの力で高濃度魔素を少しは退けることができる。それでも何時間も持つわけではない。
「魔素が噴き出すかもしれませんね」
「ダンジョンの崩壊か?」
「あのダンジョンは金狼様が肉体を砕かれた際にできたダンジョンといわれています。地下には魂を失った金狼様の肉体が沈められているんだと。それが崩壊して、高濃度魔素が噴き出すなら、それはもう・・・」
「金狼様の復活だわな・・・」
「可能性でしかありませんが、今一番考えられることです。ダーディー、やはりあなたが高濃度魔素に強くても、限度があります。一旦エルフの大森林に避難しましょう」
「犬族達は何でダンジョンにいくんだろうな?あいつらだってそんなに魔素に強いわけじゃないはずだぜ?」
ダーディーの疑問は当然だ。
「金狼様の復活を死んでも拝みたいんだろうな」
「笑い事ではありませんよ」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
「ほら。まだ地下にいるんだろうに、あんなに大きな遠吠えだ。天の銀月にまで届きそうだぜ」
空気がビリビリ震える中で、ダーディーはそれでも余裕の笑顔で天を指差した。
「あなたって人は本当に・・・」
飛び跳ねるように暴れる心臓を何とか抑えてサリフェルシェリも呆れたように呟く。
余裕の顔をしてくれるダーディーがいることで、少し悲壮感が薄れた。
『悪いことばかりでもない』
「何か感じましたか?」
『星の愛は無限だな』
北のダンジョンから、小さな影が飛び出した。
それを指差したり吠えて迎える犬族達。
「きゃあ!ワンちゃんがいっぱいなの!」
「シャオマオ。犬族だ。少し離れたところまで飛ぼう」
上空から地面を見て喜ぶシャオマオと少し離れた所を指差すユエ。
2人がダーディー達と離れたところに向かおうとしているのが見えたので、サリフェルシェリが慌てて魔法を使った。
「精霊!2人へ合図を!」
札をちぎって撒くと、光の精霊が赤い火の玉になってヒュルヒュルと光の尾を引っ張りながら空へ打ち上がった。
「シャオマオ。冒険者の合図だ。あそこへ行こう」
ユエが指差した方からまた光の信号があがある。今度は緑だ。
「サリフェルシェリだ」




