234.種子
ララク州南方、ジル・ララク県のとある農村。
稲穂の波がゆらめく水田に、俺はアンをともなって視察にやってきた。
俺のすぐ横にまた黒いドレス姿にもどったアンが立っていて、後ろに四十代の男が一人、ビクビクしながらたっていた。
俺は水田に近づき、いくつかの稲穂を手でそっと引き寄せて、それをマジマジと観察してみた。
「アン」
「はい」
「報告通りだ、よくやった。たしかに穂のつき方がバラバラだな」
「す、すいません! その、一生懸命やったんですけど、なんでこうなったのか俺達もその――」
「怯えるな」
男――この農村の村長が必死に弁明しようとするのを止めた。
村長はぐっ、と目を見開かせつつ身じろいで、生唾をゴクンとのみこんだ。
「やり方は指導通りだな?」
「は、はい! 時期とかタイミングとか、あと肥料のいれかたとか量とか、全部同じです」
「種は?」
「は、はい。それは前に収穫したもので良いのを残して使いました」
「そうか」
俺は稲穂から手を離して、周りをぐるっと見回した。
遠目からはよく実っている稲穂の波に見える田んぼだが、近くによって見るとここだけでなく全体的につき具合がバラバラだ。
「本当にすみません! 次は、次はちゃんとやりますんで」
「怯えるなといった、この件で責任も罪もとうつもりもない」
「え?」
村長はびっくりして、さらに目を見開かせた。
気持ちはわかる。
総督肝いりの新品種の水稲、それを半ば失敗したかのような形になって、そのうえ総督自らが確認しに来た。
通常なら問罪されてもおかしくない話だから、怯えるのも無理はない。
「このまま育てろ」
「え、あ、はい」
「代官にも言っておく、育てたら相場の倍で全部買い取ってやる、今年の税金も免除してやる」
「え? ど、どういう……」
「これが全部欲しいということだ。何がどうなろうがごまかすな、いいな」
そういって、村長をまっすぐ見た。
威嚇とかするつもりは一切ないのだが、村長はそれだけで「ははー」とその場で平伏した。
そんな村長を置いて、俺はアンを連れて歩き出した。
「それでよろしかったのですか?」
「ああ、罪を問うつもりはない――というよりしても意味がない。お前のおかげでな」
「恐れ入ります」
アンは歩いたまま、しずしずと頭をさげた。
「お前のおかげで異変がここだけじゃなく、このエンリル州のあっちこっちほとんどで起きている事がわかったからな。そんな状態で村一つの責任とか罪をとう意味はない。むしろお前には感謝している」
「ありがとうございます」
「そして……実際に見に来て、話を聞けて良かった」
「というのは?」
「共通点が見つかったからだ」
「共通点、それは……種を自分達のものを使っているという事でしょうか」
「ああ」
俺ははっきりと頷いた。
「正しく言えば、ヌーフの種を使って自家収穫した後の種だな」
「それは……普通の事では?」
「ああ、普通だな。今までも代々使い続けてるタネか、評判がいい種をもらってきてそこから代々受け継いでいくかのどっちかだから、そういう意味では普通だ――だからこそだ」
俺は一度頭の中で考えをまとめて、「うん」と頷いた。
「この異変はしっかり調べる価値がある」
「だから倍額での買い上げ、そして税金の免除なのですね。すごいです」
「隠蔽、いや隠滅されてはもったいないのでな」
「はい。ですが、そこまでする必要があるのでしょうか? 全てヌーフ様の種を使うように徹底させればよろしいのではありませんか?」
「それはやる。やるが――」
俺は真顔で言いきった。
「――調べたほうがいいと、俺の勘が強く主張してくるのだ」
☆
州都ララクにもどって、総督の執務室の中。
呼び出したヌーフと向き合って、今し方見てきた事、アン・ロックの諜報網で掴んだ情報を全部ヌーフに伝えた。
話を黙って聞いたヌーフは開口一番、尊敬しきった表情を向けてきた。
「やっぱりそうなんだ……」
「やっぱりって、そのことをしってたのか?」
「もしかしてそうかもって。前からそんな感じがしてたけど」
「けど?」
「自分でいろいろやってるだけだったから、ちょっとした例外なのかもって思うし、そこを追求するのは手が回らなくなるしで後回しにしてた」
「ああ」
なるほど、と頷いた。
要するにアンと同じ考えなのだ。
ヌーフの種自体はなにも問題はない、問題がでてるのはその種の次の代のみ。
なら、ヌーフの種だけを使ってれば実務上問題はないのだ。
ヌーフはこれまで自分個人でいろいろやっていた。
手が回らなくなる、というのは切実であり、現実的な落とし所だ。
「やっぱりすごいです。こうして大規模にやってなかったらそういうのも分からなかった」
「問題点をまとめようか」
俺はそういい、ヌーフは真面目な顔をした。
「今のヌーフの稲、その種はどうやって出してる」
「えっと。私の稲は二種類あって、早く育つものと、多く育つのが。それは私の中で限界までそれに特化した稲なんですよ」
「ふむ」
「それを掛け合わせたのが、早く多くそだつ――年二回育つ稲なんですね」
「なるほど」
俺はうなずき、手元の資料に視線を落とす。
アンの諜報網から上がってきたものをわかりやすくまとめた資料だ。
それをざっと読んで――。
「よっつ、か」
「え? ……あ、はい。四つですね」
一瞬何を言い出すんだ、という顔をしたヌーフだが、すぐに理解が追いついてきた。
「早い遅いと、多い少ない、それを掛け合わせた四つですね」
「うむ、いますすめようとしてるのはいわば『早くて多い』稲だが――他の三つはお前が今までやってきた中でもあったか?」
「ありました」
ヌーフははっきりと頷いた。
「『早いけど少ない』『遅いけど多い』『遅くて少ない』、この三つのパターンはありましたね」
「……掛け合わせた子世代――便宜上こう呼ぶが、子世代は狙った通りのものがでるが、孫世代まで行くとバラバラにでるってことか?」
「普通に考えるならそういう推測になりますね。でも……そうだとしたら」
「ん?」
「結局は早くて多い、あっ、子世代をつくってそれを使ってもらえばいい訳ですから。皇帝陛下の権力でそうしちゃって良いんじゃないでしょうか」
「それはそうする――が」
「が?」
今度はなんだ? と言う顔をするヌーフ。
俺はそんなヌーフの顔をまっすぐ見つめ返しながらつげる。
「お前だからそういう結論なんだろう」
「え? どういうことですか?」
「俺はシンディとも話をすすめてる。種子屋の政策をな」
「……あっ」
ヌーフはハッとした。
どうやら理解したようだ。
「そう、その子世代が綺麗にそろって、孫になるとバラバラになる現象。それが他の種子・作物にも現れるのなら?」
「すごい! それは調べるべきです!!」
ヌーフは興奮気味に、食い気味に主張して来たのだった。
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