表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
二章 麗しのパラディンさま
41/146

さんすうベアナックル 7


「何度目かわからないけど、打ち合わせするとき私の部屋以外に選択肢が無いのってどうかと思うのよ」


 サバイバーの五人は、ティアーナのアパートに集まった。

 そして、


「すまなかった」


「え、いや、そんなに責めてるつもりじゃないんだけど」


 ニックが膝をついて頭を下げるのを見てティアーナが慌てた。


「いや集合場所の件じゃなくて、決闘騒ぎを起こしちまったことだよ」


「ああ、それね。別に良いんじゃ無いの?」


「いや、オレの個人的なケンカに付き合わせちまって……」


「あのねぇ、ニック」


 ティアーナが大仰に溜め息を漏らした。


「向こうの鉄虎隊だかなんだか知らないけど、あんなアホな詐欺師どもに頭を下げるような人間がリーダーだったら、一緒に組んでなんかないわよ」


「いやしかしだな……」


「どっちかと言うと、普通にしょっ引けない方が疑問なんだけど……。ギルドの人も気付けば立会人になってるし」


「まあ、喧嘩両成敗ってところがあるしな……。それに詐欺だのなんだのを訴えるならギルドじゃなくて太陽騎士団の方に出向かなきゃいけねえ」


「太陽騎士団?」


 ティアーナがおうむ返しに尋ねた。


「迷宮都市の治安を守る騎士団だよ。領主の直属の騎士団だ」


「ニックはそこに訴え出たりはしないの?」


「……いけるとは思うんだが」


 ニックが顎に手をあてて悩む。クロディーヌに騙された防具屋の少年、あるいは他にも居るであろう被害者を探して共に訴え出れば、騎士団としては動いてくれるだろう。あるいは既に動いている可能性もある。だが、


「どれだけ時間が掛かるかわからん。下手すりゃ捜査に協力しろって言われて、こっちが仕事する時間もよくよく取れなくなっちまう。だから冒険者はだいたい騎士団に関わるの面倒くさがって決闘で済ませたがるんだよな……。多分ババアもそういういざこざの延長と見てるんだろう」


 この国において決闘とは、法的拘束力を伴う。

 誰かを奴隷にするとか、一定額を超える金銭のやりとりであるとか、非合法な取り決めであれば流石に無効となるが、合法の範囲内であれば問題視されることはない。むしろ男らしさの現れとして褒める人間さえ居る。冒険者のように強さを誇示しなければいけない人間にとっては、特にその傾向が強い。


「でも話くらい聞いてくれたって良いじゃないの」


「あそこでオレも刃物出してなかったらそうなってたとは思うが、つい出しちまったんだよな……。喧嘩両成敗みたいな形にされちまった」


「ああ、それで決闘しろってわけね」


「とりあえずギルドの方にはもう一度説明に行こうと思う。もしかしたら冒険者にもレオンに騙された奴がいるかもしれねえしな。ただ、騎士団に訴えるのはもうちょっと待ってくれ」


「なんで?」


「騎士団に訴え出たら決闘もナシにされちまう可能性が高い。連中をブン殴ってからの話だ」


 そのニックの言葉に、ティアーナ達は嬉しそうに破顔した。


「やるからには勝ちなさい。ていうか勝つわよ」


「そうダ! なめられたままじゃイヤだゾ!」


「ええ、目に物見せてやりましょう」


「そ、それはありがたいんだが……ただ、もう少し経緯を詳しく説明しようと思ってな。つーか決闘になったって割に、全員驚いてないよな?」


「ああ、それはね……」


 ティアーナが、キズナの方に視線を向けた。


「全部聞いておったからの」


「聞いてた、って、裏路地に居なかっただろう」


「そうじゃよ」


「じゃあ、聞いたって……」


 と、ニックが言いかけてはたと気付いた。


「おまえまたずるしやがったな?」


「ずるじゃないもん!」


 キズナがぷんすかと怒った。


「だいたい、前に言っておいたであろう。我の視聴覚は鋭いと」


「路地裏のやりとりも聞こえてたってわけか」


「盗み聞きは良くないなどと言うでないぞ? 狼藉者と二人きりになったのじゃ。カランなど泣きそうな顔で」


「わーわー! 泣いてなんかなイ!」


「あー、いや……」


 ニックが何とも微妙な顔をした。

 それをキズナが面白そうに、


「なんじゃ?」


「ずるって言って悪かった」


「うむ、それで良い」


 キズナはむふんと息を吐いて偉そうにふんぞり返る。


「んじゃ、お前らがあの婆さん……ヴィルマを呼んでくれたのか」


「いや、違うぞ? ケンカになった気配を察して向かったときには、すでにあの冒険者ギルドの者は動いておった」


「そうなのか? じゃあ、誰かに見られてたか、あるいは……」


 ニックが考え込み始めた。

 だがしばらくして自分の膝を叩き、全員の顔を見る。


「まさか向こうがグルってことはないでしょうね?」


 ティアーナが顔を顰めながら言った。


「いや、そりゃ無いと思う。高級貴族とかならわからんが、オレ達も鉄虎隊も中堅どころの冒険者パーティーに過ぎねえよ。ギルド職員と組めるほど権力があるなら中堅の冒険者なんてやってる理由がねえ」


「それもそっか」


「ともかく、具体的に対策するぞ。悪いが来週の冒険は延期させてくれ。すまねえ」


「オウ!」「わかったわ」「ええ」「ま、そうじゃろうの」


「オレとカランは決闘の準備に入る。カラン」


「ウン」


「こうなったからには、勉強内容をきっちりと頭に叩き込んでもらうぞ。ゼムもティアーナも協力してもらうが、こうなったからにはお前も当事者だ。良いな?」


「……う、ウン」


 ニックの危ういまなざしに、カランは後ずさりしそうになるのをこらえた。







「……なるほど」


「ど、どうダ?」


 カランは、個室のある喫茶店にこもって問題を解いていた。


 解いているのは、これまで冒険者ギルド「フィッシャーメン」で起きた決闘で出された算数の問題だ。四則演算、距離と時間、割合、最短ルートを選び取る幾何学の問題など、冒険者が仕事中に直面しそうな状況になぞらえた計算問題が列挙されている。


「正解したのは七割というところですね」


「そ、そうカ……」


 はぁ、とカランが溜息をつく。


「まあ、完璧を目指す必要はありませんよ。問題無く合格の範囲内でしょう」


 と、カランの答案を添削するゼムが慰めるように言った。


 それにテストにおいて多少の得失点差で勝負は決しない。

 手ひどい点数を取ればそこで失格となるが、そうでなければ勝負は拳闘の方に持ち越される。


「……でも、ワタシのせいでニックが困ったら」

「ニックさんは気にしませんよ」


 ただし、点差によっては拳闘での試合においてハンデが発生する。

 そのために、カランはクロディーヌに食らいつく必要があった。


「まったく、我に頼れば良いものを。そういう甘いことで大丈夫かのう?」


 キズナが喫茶店のイスにふんぞり返って文句をたれた。

 カランを確実に勝たせる方法は、実はある。

 絆の剣がテストの問題を解けば良いのだ。

 絆の剣の《探索》と《念信》を使えば、誰にもバレずにカンニングができる。


 実はこの方法には、決闘の話が湧き上がったときに全員が気付いた。

 頭に血が上っていたニックも、「あ、そういえばキズナが居たな」と気付いた。

 ニックとレオンの格闘はともかく、算数は何の問題もなく完封できる。


 だがニック達は、「できる限りキズナに頼らない」と決めた。


 どうしてもやむを得ないとなればルールを無視で自分らの生存を優先する。

 だが、そこに至る前に最初から騙し討ちに頼りたくはない。


 それにニックは、今回の件はカランのためになることだと思って利用することにしていた。


 冒険者ギルドがこんなことをやる意味もあった。カランのように田舎から出てきて騙される人間が実は相当数居る。地方と都市の間では教育格差が大きく、基礎的な算数以前に文字を書けない者も多い。迷宮都市になれた人間にとっては格好のカモだ。多少の知恵が無いと訴え出たり助けを求めることさえできない。そうした人間の末路は悲惨なもので、それを防ぐためにはある程度知恵をつけてもらうしかない。そのために冒険者ギルドは、あからさまに田舎から出てきた人間を囲っているパーティーには目を光らせ、時には知恵を付けるよう指導もしていた。暴力に頼りがちな風潮を是正するために無理矢理決闘に算数なんてものを組み込んでいるのも、その一環だった。


 もっとも、対処し切れているとは言えないのが現状だ。カランが以前所属していたパーティー「ホワイトヘラン」で戦闘以外何もさせてもらえず、ギルド職員と話すことさえ遠ざけられていたように。


「ま、これはこれで意味があるんですよ」


「だが些事で足をすくわれるくらいなら卑怯な手段に頼った方がマシではないか?」


「ですね。それも一理あるかと思います」


 ゼムが反論もせずに頷いた。


「む? ならばどうして我を使わぬ?」


「奥の手は最後まで取っておくものだとニックさんが。それに」


「それに?」


「これは僕の私見ですが……どれだけキズナさんが凄いとしても誰にも気付かれないかというと難しいと思うんですよね。《念信》そのものを知ってる可能性は捨てない方が良いですし、知っていないとしても何か勘づくこともありえると思います。ですのでキズナさんは奥の手としておいて、当面は使わずになんとかする方向に僕も賛成です」


「ふむ……それもそうじゃな」


 キズナが渋々納得する。

 だが、カランが心配そうな声で呟いた。


「……でも、ゼム」


「なんだ、カラン?」


「ワタシの番、回ってくるカ? ニックがレオンを倒したらそれまでだロ?」


「……いや、どうでしょうね」


「そんなに強かったかナ……あのレオンって男」


 カランの頭に疑問符が回っている。

 ニックならば、そのへんの冒険者相手に素手で負けるはずがない。

 オーガに一対一で向かい合う時点で、頭のネジが吹っ飛んでる。

 そのニックを、あのレオンとかいう虎人が打倒できるとは思えなかった。

 少なくとも路地裏でニックとレオンが喧嘩していたときに加勢が入らなければ、間違いなくニックがレオンを倒していたはずだろうとカランは思う。


「強弱はよくわかりませんが、ニックさんが出かける前に言ってたんですよ。カランさんの出番は回ってくるって。ですので、準備はしておきましょう」


「まあ、それなら頑張るけド……」


「……カランさん。僕らの目的はなんだと思います?」


「そりゃ決闘に勝つこと……?」


「いえ、違いますよ。それはあくまで手段です」


「じゃあ……あの連中を倒して、悪事ができないようにする、トカ……」


「そうですね。ああいう連中がのさばっている。僕らが加減する理由は無いでしょう」


 ゼムが、意地の悪い笑みを浮かべた。


「ともかく、連中を徹底的にやるためにはカランさん。あなたの勉強が重要になるわけです。頑張りましょう」


「……そういえば、ニックとティアーナはどうなんダ? 訓練するって出て行ったきりだけど」


「今頃は闇狼窟に着いている頃でしょうね」


「うう……ワタシも迷宮探索の方が良かっタ……」


「この問題解いたら休憩しましょう。僕も夜には出かけますしね」


「ゼムは気楽で良いナ……はぁ」


「そんなことはありませんよ。僕にもやらなければいけないことがありますので。ともあれカランさん、頑張りましょう」


「ウン」


 そしてカランは再びねじり鉢巻をして、問題集にかじりつくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ