第一四話「紫野ゆかりの溜息」その1
五月の中旬、巽達は例によって例のごとくメルクリア大陸に赴いてモンスターを狩っているところだった。この日やってきたのはナマジラ地方の第二二五開拓地。
「ここ何回か背伸びをし過ぎたようです。初心にかえって手堅く稼ぐことにしましょう」
狙うのはレベル五〇程度とされるミュルメコレオン。それはライオンの上半身と蟻の下半身という奇怪な姿の、キメラ系モンスターだ。今の巽達ならそれは、油断さえしなければ安全に狩れる手頃な獲物でしかない。巽達は目に付いたそれを作業のように狩っていく。だが、
「たった五匹ですか……今日も不漁で終わりそうですね」
「まあ、こんな日もあるさ」
巽は自分に言い聞かせるように言う。先週の狩りは主に巽のせいで不調に終わったが、今日はそれをさらに下回りそうである。巽達五人は失意だけを抱えて帰路に就いていて……だが、幸運の女神は彼等を見捨てたわけでないようだった。
「――ちょっと待ってください」
先頭を歩いていたしのぶが足を止め、目を閉じて耳を澄ませる。偵察に行ってきます、としのぶはパーティから離れて走り出した。しのぶは百メートル以上先の小高い丘を越え、地面に伏してその向こう側を慎重に窺う。
「こんなところに……」
そこにいたのはオークの群れだ。その数はざっと五〇匹近くで、群れは巽達の方へと移動している。
(しのぶちゃん、何か見つかった?)
(はい、五〇匹近くのオークの群れが)
ゆかりがその固有魔法「一心同体・生助帯」を使って話しかけてくる。しのぶの返信にゆかりは「どうしてこんなところに」と首を傾げるが、それも長い時間ではなかった。
(どうする? やる?)
ゆかりの確認に、
(やろう)
(やりましょう)
(やるべきだろう)
(やった方がいいと思います)
固有魔法を使うまでもなく、五人の心は一つとなっていた。
「こんなところにオークの群れがいるのは確かに不思議だが、別にそれはどうでもいいだろう」
「はい、確かに。神様からの贈り物だと思っておきましょう」
「『ここで金を稼いで酒を買うがいい』って言ってるのよね!」
ゆかりがそう言って拳を突き上げ、「さすがにそれは違うと思う」と巽が突っ込んだ。
丘の麓まで移動した巽達が散開して草むらに身を隠し、しのぶもまた「隠形」の固有スキルを行使した。やがて丘までやってきてそれを乗り越えたオークの群れがしのぶの鼻先を通り過ぎていくが、オークはしのぶの存在に気付きもしない。しのぶは姿を隠したまま、送り狼のように群れの後方を追尾した。
ゆかりは固有魔法で全員の配置と状況を掌握している。全ての準備が整ったことを確認し、
「わたしの酒代となりなさい! 炎爆!」
ゆかりが戦いの号砲を撃ち放った。
「Byubyubyubyubyu!!」
攻撃魔法が群れの真ん中に叩き込まれ、汚い悲鳴を上げながらオークが逃げ惑う。その彼等の前に巽達四人が死神のように立ちはだかった。
オークが逃げ道としてまず選んだのは人間の姿がない方向、元来た道を引き返すことだった。だがそうしようとした何匹ものオークが不意に目を潰され、喉を裂かれ、足を断ち切られ、誰にやられたのかも判らないまま死んでいく。同胞の死に様に恐怖したオークが方向転換し、与しやすいと見られた美咲の方向へと殺到した。だが、
「我が剣閃は冥府の月光――月読の太刀!」
美咲が剣を振るう度に複数のオークがまとめて輪切りとなっていく。オークは全員恐慌状態となった。さらにオークの集団が方向転換し、一塊となって熊野のいる場所へと突っ込んでくる。
「でええいいっっ!!」
熊野は暴風のようにハルバードを振る舞わし、当たるを幸いオークをなぎ払った。固有スキル「筋城鉄壁」は使うまでもない。オークの剣も棍棒も熊野には届かず、一方的に蹴散らされていく。
「Byubyubyubyubyu!!」
最後にオークが向かったのは巽がいる場所だったが、あるいはここで死んだオークが一番不幸だったかもしれない。
「『百手の巨人』! 『隠形』! 『月読の太刀』! 『疾風迅雷』! 『空中疾走』! 『剛力招来』!」
巽は「こんな機会は滅多にない」と使える固有スキルを全部使い、あらゆる手段でオークを殺していた。あるオークは宙に浮いた剣に刺され、あるオークは見えない敵に切り裂かれた。あるオークは横薙ぎの剣戟に腹を割かれ、またあるオークは高速移動した巽の蹴りで頭部を潰された。別のあるオークは頭上からの襲撃で串刺しとなり、さらにあるオークは巽に投げ飛ばされている。オークに知能があったならあまりの理不尽さに憤死していたことだろう。
五人の冒険者は五〇匹近いオークの群れを包囲し、殲滅しようとしていた。それは一見、三百の自軍で五千の敵軍を包囲殲滅するかのような、でたらめな作戦に思えただろう。だがオークのレベルは二〇からせいぜい三〇なのに対し、巽達の適正レベルは既に五〇を超えているのだ。それは一〇倍程度などものの数ではない、圧倒的で絶望的な力の差だった。
(もう少し前に出て包囲を縮めて――クマやんの横から三匹逃げた! 巽君お願い!)
ゆかりは丘の上から状況を俯瞰し、全員に指示を飛ばしている。ゆかりの指示を受けて巽は、
「空中疾走!」
見えない階段を駆け上がるようにして数メートル上までジャンプした巽は逃げ出したオークを発見、「疾風迅雷」を使って数秒でそのオークに追いつき、
「月読の太刀!」
巽の長剣から放たれた斬撃は数メートル先のオークの背中を切り裂き、三匹のオークが同時に絶命した。そのオークが吐き出した三つの魔核を巽の長剣が回収する。
巽は大急ぎで包囲網へと戻るが、狩りはもう終わるところだった。巽の抜けた場所にはゆかりがいて、残った数匹のオークがゆかりへと向かって突貫する。ゆかりは杖を高々と掲げ、
「雷撃!」
天より飛来した雷が残ったオークを一撃で焼き払った。黒こげとなったオークが崩れ落ち、全てのオークが死んだオークとなる。
「……はあ」
ゆかりが微笑みとともに安堵のため息を漏らし、狩りは終わりを告げた。
「おつかれさまです。大収穫ですね」
「おつかれさま。大漁旗だな」
ゆかりの下に集まる美咲と巽がそう言って笑い合っている。
「低めに見積もっても一〇〇〇メルクは軽く超えているだろうな」
「やっぱり雑魚の群れは美味しいですね」
と熊野やしのぶも笑っていた。思いがけない収穫に五人は顔をほころばせ、意気揚々と帰路に就く。
「毎回こんなのだったら楽ちんでいいのにねー」
と浮かれたゆかりがバトントワラーのように杖を振り回している。
「どうします? 来週もこういうのを狙って、第二一七開拓地に行ってみるとか」
しのぶの提案に巽は「んー」と少し考え、「いや」と首を横に振った。
「こんな手頃な規模の群れとぶつかる機会がそうそうあるとは、ちょっと思えない。今日は運が良かっただけで」
そうだな、と熊野も巽に同意した。
「それに、適正レベルより大幅に下のモンスターを狙うのは、禁止されているわけじゃないが誉められたことじゃない。力の差にものを言わせて低順位の連中の獲物を横取りするようなものだからな」
「確かにそうですね」
としのぶも納得し、ゆかりが笑いながら肩をすくめた。
「ま、今回は状況が状況だから文句を言われる筋合いはないだろうけどね」
「縄張りを外れたオークがひよっこを襲っていたかもしれないし」
と巽。さらに美咲が続けた。
「仮に手頃な規模の群れを狙って捕まえられるとしても、わたしはオークなどよりもっと手応えのあるモンスターを狩りたいです」
「オーク相手に無双できたところで自慢にはならないよな。もっと上のモンスターを狩れるようにならないと」
と巽が拳を握り締める。美咲としのぶが無言のまま強く頷き、巽に同意した。
「千夜子が言っていたことだけど、カルマの獲得が目的ならたくさんの雑魚より一匹の大物なんだって」
ゆかりの説明に「へえ」と巽が感心する。
「感覚的には判りますけど、やっぱりそうなんですか」
「信頼に足るデータが揃っているわけじゃない、とは言っていたけどね。でもゴブリン百匹潰すのとハルピュイア一匹倒すのとで仮にゴブリン百匹の方が上だって言われても、どう考えても『いや、そんなわけないでしょ』ってなるじゃない」
ゆかりの言葉に四人は一様に首を縦に振った。
「高レベルモンスターはカルマもまた高純度であるために吸収効率が良いんじゃないか……ってことらしいけどね」
「上に行くなら多少の背伸びはしないと、ってことかな。もちろん『生命を大事に』は大原則だけど」
そんな話をしているうちにベースキャンプの木製の柵が視界に入ってくる。時刻はもう夕方となり、日差しは大分傾いていた。
冒険者・紫野ゆかりの朝は遅い。
「うぐ……うるさい……」
耳元で発せられる騒音にゆかりは寝ぼけたまま抗議の声を上げた。騒音の発生源は掃除機で、美咲がそれで居間の掃除をしている。昨晩居間で酒盛りをしてそのまま寝落ちしたゆかりが居間の真ん中で大の字になって惰眠を貪っていて、
「ゆかりさん、掃除の邪魔ですから退いてください」
その要請に対する返答が「うるさい」の一言だったのだ。美咲の言葉はゆかりの耳には届かなかったのだが美咲にはそこまで判らなかったし、仮に判っても次の行動は同じだっただろう。
「ふががががが!」
美咲が掃除機の吸い込み口をゆかりの顔面へと押し当て、何往復かさせている。さすがのゆかりも目を覚ましたようだった。
「もー、何するのよ美咲ちゃん!」
ゆかりの抗議を美咲は意に介さなかった。邪魔ですから退いてください、とゆかりを居間から追い立て、掃除を続ける。ゆかりは「ぶー」と顔を膨らませながら洗面所へと向かった。
……それからしばらくの後。シェアハウスの居間ではゆかり・美咲・しのぶが集まり昼食をとっている。その日の昼食はインスタントラーメンで、三人はそれぞれそれをすすっていた。
「もー、判ってないなーしのぶちゃんは。こんなのが酒のアテになると思ってるの?」
「お湯で戻さなかったらおつまみっぽくなるかもしれませんよ」
としのぶもゆかりの抗議を聞き流している。ゆかりはぶつくさ言いながらもそのラーメンを完食した。
そして昼食の後、
「梅田まで買い物に行かない?」
ゆかりの提案に美咲としのぶは顔を見合わせた。
「今必要なものは特にありませんが……」
「今日やることも特にありませんしね」
女性一般がそうであるように、美咲やしのぶも買い物やウィンドウショッピングは嫌いではない。三人は外出着に着替え、買い物へと出発した。
JRの駅まで歩いていき、普通電車に揺られること三〇分。ゆかり達三人は大阪梅田へと到着した。そして地下街や阪急百貨店、衣料店や本屋や雑貨屋等を見て回り、立ち飲み屋に入ろうとするゆかりを二人がかりで引きずっていく。楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、夕方。ゆかり達三人はJRを使っての帰路に就いていた。
「しのぶちゃん、どうしたの?」
しのぶは狩りのときのように後方を警戒している。しのぶはやや神経を尖らせて答えた。
「少し前から尾行されているような気がして」
「本当に? どの人ですか」
「この車両にはいないです。降りていなかったら隣の車両に」
気のせいかもしれませんけど、とも付け加えるが、メルクリアではしのぶの索敵にこれまで何度も生命を助けられているのだ。しのぶの警戒を二人が笑い飛ばすことはあり得なかった。美咲が嫌悪感をあらわにして言う。
「去年の写真拡散でわたし達の顔を覚えた人間でしょうか」
「そいつがわたし達と同じ駅で降りたならもう決まりじゃない?」
はい、としのぶが頷く。ほどなくして電車はいつもの駅に到着し、ゆかり達はそこで下車した。
「どう? しのぶちゃん」
「……降りてきています」
表情を硬くしてしのぶが言い、美咲とゆかりも警戒レベルを二段階ほど引き上げた。
「どうしますか?」
「タクシー使いましょ。それで少し遠回りして」
三人は駅前で客待ちをしていたタクシーに素早く乗り込み、タクシーは速やかに走り出す。ゆかりがバックミラーで後方を確認すると、白いスーツを着崩したチンピラ風の男が地団駄を踏んでいるところだった。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
美咲の問いにゆかりは「何でもない何でもない」と大急ぎで首を振る。タクシーは山の中へと入っていってぐるっと回って元の場所へと戻ってくる。ゆかり達が我が家へと帰宅したのは十数分後のことだった。……この日はこれで終わったのだが。
「ストーカー?」
ゆかりの一言を美咲が問い返し、ゆかりが頷く。ときはある週末の夜で巽がやってくる前、場所はシェアハウスの居間。ゆかりが美咲としのぶをそこに集め、とある相談をしているところだった。
「冒険者になる前に勤めていた会社にちょっと仲良くしてた男の子がいたんだけど、その子が今日突然出てきてねー。駅前を歩いていたらその子にいきなり腕を掴まれて『話がある』って何かすごい勢いで迫ってくるから、振り払って逃げてきちゃった」
「危ないところでしたね」
ゆかりは努めて軽い口調を保っているようだがしのぶや美咲は心配そうな表情だ。
「付き合っていたんですか? その人と」
「んにゃ。『飲みに行きませんか』って下心満載で誘ってくるから毎回酔い潰してた」
ゆかりの言葉にしのぶは「はあ」と冷や汗を流した。
「でも毎晩のようにそうしていたから、向こうは『付き合っている』って思い込んでいたかも」
「会社を辞めてもう一年近くで、その間ずっと縁が切れていたのでしょう? それなのにそんな迫り方をするなんて、まだゆかりさんに未練があるのは間違いありません。あるいは『まだ恋人同士だ』と思い込んでいることも……」
「その人の写真とかありますか?」
しのぶの問いにゆかりは「えーっとね」とスマートフォンを取り出して、
「あ、あった。この人」
スマートフォンで自撮りされているのはどこかの居酒屋で飲んでいるゆかりとその男の姿だった。ゆかりはご機嫌な様子でグラスを手にし、その横で酔い潰された男が突っ伏している。画像で判るのはその男の後頭部だけである。
「同期入社だけど、わたしは短大卒で向こうは四大卒だから二歳上かな。わたしは二ヶ月でクビになっちゃったけど、向こうも何か問題起こしてもう会社を辞めているって聞いている」
「ますます心配ですね」
と美咲が眉を顰めた。
「いっそ痛い目を見せて追い払えればいいんですけど」
「冒険者がそんなことやっちゃダメでしょ」
しのぶの短絡的な考えをゆかりがたしなめるが、
「いえ、それが一番効果的かもしれません」
と美咲が賛同した。
「もちろん本当に暴力を振るうわけではありませんが、相手が『何をされるか判らない』と思い込むのは勝手というものでしょう? つまり――」
美咲がとあるアイディアを披露し、ゆかりが「それいいわね!」と賛成。しのぶは、
「そんなに上手くいくかな……?」
と首を傾げていたが他に良案があるわけではなく、結局美咲のアイディアが採用されることとなった。そして次の日。
「ふむ、思ったよりも悪くないですね」
「本気で言ってますか……?」
美咲としのぶが着込んでいるのは、ドピンクの生地に難読漢字を一面に刺繍した改造つなぎ。女子暴走族が着ている特攻服だ。さらに顔の半分を隠すくらいの大きなマスクをし、それぞれ木刀を手に持っている。なおマスクと木刀は持参だが特攻服はファミリーレストランの同僚からの借り物である。
ただし美咲は背筋の伸びたきれいな姿勢に違和感があるし、しのぶは服のサイズが合わず手足の袖がかなりだぶついている。本職のレディースやヤンキーには程遠く、どう見てもそれはただのコスプレだった。
「似合ってる……似合ってるよ二人とも……」
笑いを無理矢理堪えたゆかりが腹を抱えながら目に涙を溜めている。しのぶは木刀でぶん殴りたい衝動を何とか抑え込んだ。
そのとき、家の呼び鈴が鳴らされる。「はい」とゆかりが玄関に向かうが、すぐに慌てて戻ってきた。
「来た! あいつが家まで! ど、どうしよう」
狼狽えるゆかりに対し美咲がきびきびと指示を飛ばす。
「落ち着いてください。ゆかりさんはここにいて、外に出ないように。わたしとしのぶ先輩で応対します」
「う、うん。お願いね」
ゆかりをその場に残し、美咲としのぶが玄関へと向かう。勢いよく引き戸を開くと、そこに立っているのは線の細い、神経質そうな、眼鏡を掛けた二〇代前半の青年だった。
「何の用です……なんだぜ」
美咲が鋭く男に問うが、ヤンキーの演技が難しいのか言葉遣いがおかしなことになっている。そのフォローをするようにしのぶが「なんだ、こら」とか言っているが、どちらにしてもその育ちの良さはあからさまなままだった。
「な、何なんだ君達は」
「質問したのはこちらですよ……こっちなんだぜ」
「上等だぜ」
美咲としのぶが軽く木刀を振り回す。こちらはさすがに様になっていて男は怯えた様子を見せた。だがそれでも男は二人に立ち向かわんとする。
「こ、こちらに紫野ゆかりという人がいるはずだ。彼女と話がしたい、岩倉と言ってもらえれば判るはずだ」
「ゆかりさんはあなたと話すことは何もないと言っています……言ってるぜ」
「夜露死苦、って言ってたぜ」
「彼女にはなくても僕にはあるんだ!」
岩倉氏はそう言って前に進もうとするが、二人が木刀で地面を叩くと「ひっ!」と数十センチメートル飛び上がって後退った。
「ま、また来るぞー! このままじゃ済まさないからなー!」
と岩倉氏は脱兎のごとく逃げていく。美咲達はちょっと唖然としてそれを見送った。
「まさかこの程度で逃げ出すなんて」
「びっくりするくらいのヘタレですね」
家の中に戻ってきた美咲としのぶをゆかりが出迎え、二人を抱きしめた。
「二人とも、ありがとー!」
ゆかりの豊満な胸に埋もれて窒息しそうになり、二人は何とかゆかりの腕から抜け出した。
「礼には及びませんが、ただ」
「あの分だとまた来るかもしれません」
二人にそう言われ、ゆかりは指を顎に当てて「んー」と少し考え込んだ。
「……別の方法も考えとかないといけないかもね」
それから少しして、美咲としのぶはアルバイトに出勤する時間となる。
「それじゃわたし達は行きますけど、一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、一人じゃないから」
そう言って手を振るゆかり。
「巽君に来てくれるようにお願いしてるの。もう来る頃だと思う」
「そうですか、それなら安心ですね」
しのぶ達はそう言って「行ってきます」と外出する。それと入れ替わりのように呼び鈴が鳴らされ、
「こんにちは、ゆかりさん」
巽が姿を現した。




