表を繕う
仕事は大変だけど充実していた。職場の人達はおばちゃん、おじちゃん、お母さんをしてるなど歳隔てなく一緒に業務を遂行していた。
あれから、二週間が経った。
私は会議室で岡村さんと面談を受けることになった。何を言われてしまうのだろうと緊張をしていた。
「笑ってごらん!」
岡村さんは満面の笑みを湛える。見た瞬間、太陽の光のような暖かさと眩しさを覚えてしまう。安堵感が溢れてしまい、強張る頬が緩む。
「正式な採用になるから書類の提出してもらうよ。総務課の金本さんに渡してね」
岡村さんの穏やかさを含ませた声色と、凛々しくする目元に戸惑いながら書類を受け取って椅子から腰を上げる。
一礼をして会議室の扉を潜り抜ける一歩手前で「浅田さん、ちょっと待って」と、呼び止められた。
「正社員になりたいと言ってたけど、残念ながら今の会社の体制では難しいんだ」
「それでも、私は諦めません!」
正直に言葉にしたとはいえ、何処か後ろめたい気持ちをしていた。
「厳しいけど、実績を積んで貰うことになるよ」
岡村さんは笑っていた。
私の感情的な態度なんて気にしていない。駄々を捏ねる子供を相手にしているようなものだと、余裕綽々の様子だった。
「今度こそ業務に戻っていいよ。また、後でね」
岡村さんの手を振る仕草が愉快で堪らない。
会議室を出ると同時に「ほうっ!」と、頬に溜める息を一気に吐く。
声にして笑いたかった。
しかし、そんな気持ちはあっという間に掻き消されてしまう。
「浅田さん、面談随分長かったね?」
班長の女の子が、興味津々の面持ちで訊く。
「いえ、此れからも頑張りますと、お伝えしただけです」
「今日の積み込み分、そろそろ用意してね!」
私が言うだろうの言葉に期待外れしたらしく、班長はご機嫌斜めの様子だった。
気を使う。そんな本音を胸の内にしまい込み、言われるがままに業務をこなしていった。
――更に、日々は過ぎて、季節は夏が終わろうとしていた。
「お疲れさまーっ」と、麻奈ちゃん達といつものように、業務終了後の雑談をして、帰宅するためにバス停に向かおうとしたときに、麻奈ちゃんが呼び止める。
「岡村さん、最近矢鱈と志帆ちゃんに声掛けてるみたいだけど?」
何のことかと、返答に困ってしまった。私がごまかすように、麻奈ちゃんに思わずこう、言ってしまった。
「仕事、もうちょっと手を早くしろとか、注意を受けてるだけ」
「へえ。てっきり志帆ちゃんに気があると思っていた」
ほっとしているような顔で麻奈ちゃんはそう言うと、自転車のペダルをおもいきり踏みしめて、私に手を振りながら走り出していった。
びっくりした。私があんなことを訊かれるのは――。
でも、何処の会社でもこんなのは付きものの筈。
まるで、物語の中にいるような恋心を私がするわけない。
次の日もまたその次の日も、岡村さんは、私に声を掛ける。
『浅田!』
心地よさを覚える。笑みを湛えながらの岡村さんの声や仕草が、いつの間にか待ち遠しくなっていた。
『好き』そんな、感情が沸き上がっていた。
こっそりと蓋を閉めるように、吸い込む息と一緒に呑み込んでいった。




