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風、薫る  作者: 鈴藤美咲
19/23

風は囁く

今回の話は、別サイトの短編を改稿してます。

タイトルもそのままです。

クリスマスが近いのに、季節は夏ですけど……。それっぽい表現を含ませてます。

 指定休日の土曜日。私は街のカフェでキリマンジャロの珈琲を味わっていた。


 ーーー茜幻想ーーー


 あの人からの隠密の文字が私の携帯電話に着信する。

 


 ーーー碧は生まれるーーー

 

私はメールを送信して待ち合わせの場所に向かう。



 〈あの人〉は岡村さん。


 夜の帳が降りて、今が見頃という場所で星空と蛍を一緒に見て感動を覚える。人がぞろぞろといる中で、岡村さんは私にキスをした。


 そして、彼がアクセルを踏み続けた先にある処に辿り着く。


 《マウントグリン》

 其処が私達の秘密の場所。緑のカーテンを潜り抜け、満天の星を彷彿させる屋根の下に停車する。入口で花束を抱える女神の石膏像が微笑んで迎えていた。


 あの人が部屋の扉を開く。その同時にふわりと、薔薇の香りが鼻をひくつかせる。


 ーー志帆。


 呼ぶ声に、私は身体を震えさせる。握り締められる手が解れて、ベージュのシーツが敷かれるベッドの上に押し込められていく。


 口付けは、長く、深く注がれる。腕と脚は絡み合い、お互いの存在を確かめるように続く。


 甘い吐息を溢して、私達は抱擁を止める。


バスルームからお湯が張られる飛沫の音に耳を澄ませ、テーブルに持ち込んだ食品、缶ビールと赤ワインの瓶。そして、グラスを二つ並べていく。


「お風呂溜まった筈だ」

と、岡村さんはその蛇口を止めにいく為に脚を運ぶ。その間にグラスにビールを注ぎ入れ、彼が戻ると同時に乾杯をした。

「はー、最初の一杯がたまらない!」

 岡村さんは、グラスの中のビールを、一気に飲み干していく。


 ーーーお泊まりするから、俺も呑むーーー


 岡村さんはそんなメールを送っていた。


 一年勤務のお祝いをしよう。も、言ってくれていた。


「今日は仕事の話は無しだぞ」

 私に釘を刺してサンドイッチをぱくりと、口に入れる。


 骨付きのチキン、フライドポテト、ポタージュスープ、生ハムが乗るサラダを食べ終わると、スイーツを皿に並べる。私はラズベリーが乗るケーキ、岡村さんはカスタードプディングを完食させる。

 もう、お腹が一杯で眠気までが襲い来ていた私に、岡村さんが被さっていく。

「お風呂がまだです」

「このまま、一緒に入るぞ」

岡村さんの私の服を剥ぎ取る手が止まらない。剥き出す肌に唇と指先の感触が心地好くて、堪らず吐息とともに声まで洩らしてしまう。



 ーー志帆。おまえ、良すぎる………。


 バスルームの立ち込める湯気に私達のロマンスの息が溶けていく。浴槽のお湯は温めの筈なのに、全身が熱くて堪らない。


押し寄せる波に揉まれてゆらゆらと漂う水草が絡むような岡村さんの指先を漸く止めて、私は水面を飛び跳ねる魚のように浴槽を後にする。

 


 天井のランプは桜の花びらを象らせ、淡く茜色に室内が染まっている。壁に聖母のステンドグラス、部屋の隅に置かれる造花が差し込む陶器の花瓶を見つめていると、岡村さんがグラスに並並と注がれる赤ワインを差し出した。


「思いっきり乱れてくれ」

「私だけですか? 不公平です」


ーーそんなことはない………。


ーーならば、声だけを受け止めて。


 部屋の音は私達から吹かれる吐息と囁き。

 ベッドの上で深く、抱き締め合う。


 肌にキスをされる度、全身は震える。深く、深くと私は幻想な空間に堕ちていく。


 岡村さんの唇がゆっくり私の肌を這っていく。指先は私の膨らみを掻き回す。


 岡村さんは一度私から離れてベッドの棚に置くグラスに赤ワインを注ぎ、飲み干していく。


 私の息も既に深呼吸をしないといけないくらいに、強く吹いていた。


「何だ? そんな顔をして」

「誰がさせたのですか?」

「欲しくて、欲しくて堪らない。俺をずっとそう、見ていた」

「あなたが……でしょ?」

「ああ、そうだ。何処でもこうしておまえにキスをして、触れたい!」

「い……や」

「な、外でもこうしていっぱいキスをしよう」

「場はわきまえて」


 岡村さんの息が私の顔に吹き込まれる。赤ワインの薫りを含ませて繰り返される。


私は岡村さんを身体中で受け止める。目の前がぱっと、茜色になり、波は満ちては引くを……繰り返してた。


「潰れてしまいます」

「待て、もう少しだけだ」


 ずっしりとする岡村さんの重みに堪えきれず、肘を使って離れていると、床に食事の際に出た紙屑が落ちている事に気付き、手を伸ばして拾う。

「俺によこせ」

と、岡村さんが言う。

ゴミ箱に捨てる。つもりが、側に置く口が開きっぱなしの鞄の中にぽんっと、入っていくのが見えた。

 思わず笑みを湛えると、岡村さんは唇を尖らせる。


「おまえ、笑いすぎ」

「そう、させたのは誰ですか?」

「はい、ごめんなさい」


 今度は二人でグラスの赤ワインを呑む。

 瓶が空になってもう一本、スクリューキャップを外す。


「沢山呑んだら明日が大変では?」

「心配するな。その為に連休にしてる」

「私も同じです」


 一晩中こうしていられる。と、岡村さんは私を抱き締めていく。


 土曜日の長くて束の間の夜。


 私の中に風が囁く。


 愛おしいと、時々強く吹き込まれる。


 その眼差し柔らかく、優しさを含ませる。


 夏の日の夜。


 あの人と一番愛し合ったあの日。


 目蓋の裏に瞬く星と蛍を浮かべて、肌の温もりをひたすら刻ませていった。





 

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