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風、薫る  作者: 鈴藤美咲
16/23

比翼連理

 5月の大型連休。テレビのニュースでは挙ってその情報が紹介されている。しかしーー。


「テーマパークに行くため有給取っただなんて、羨ましいね」

「井口さんでしょ? 年末年始もそうやって一週間休みを決まって取りたがるじゃない」


 昼休みの食堂で嫌味混じりの会話が耳に入る。

 

それもその筈だと思う。

 どんなに世の中が休みだ、イベントだと和気藹々としていても私達の会社は関係なかった。

 

毎月のシフトを決めるとき、由香ちゃんが頭を抱えていた。会社が個人事に休日を入れてもこの日に変更したいと部署の人達にぞろぞろと言い寄られてはその調整をする。


「仕事よりこっちが大変よ」

 溜息とシフト表を確認しながら言う由香ちゃん。今日も突然休みを取りたいと申し出た部署のおばちゃんの為に、私の休日と交換してと頭を下げられてしまった。

「後で休日変更の届出をお願いね。本当に迷惑をかけてごめんなさい」

「平気よ。吉田さん、娘さんとお孫さんが連休に帰ってくるて、この前聞いてるから」


 由香ちゃんは間を置いて、更に顔をきつくさせる。

「その人、会社を休む為の口実を色々と付ける常習者なの」

 その言葉に私は唖然となってしまった。

「この時期は稼働時間も短くされてしまうから、わざと休む人もいるの。昨日もあなたを含めてパートタイマーははや上がりと、会社が指示してるのも有るわ」


 午後の稼働が始まる前に「今日も3時迄でお願いします」と、皆に連絡する由香ちゃん。


 私は他の部署の応援に入る事になっていた。また、あの部署だったけどーー。


「今日、どっちも休みみたいだよ」

「麻奈ちゃんと岡村さんでしょ? よく、休みが一緒になるよね!」

 くすくすと、作業の最中に雑談がする。


 複雑な気持ちを抑えて私は黙々と手を動かしていく。


 出来れば聞きたくなかった。

 麻奈ちゃんが正社員になって日に日に〈噂〉が広間っていた。


 あの日の二人を目撃したこともまだ、覚えている。


「浅田さん手つきがいいわね。この部署にいっそのこと、異動して欲しいくらいだわ!」

 その声に振り向くと笑みを湛えるP部署の班長さんがいた。

「折角のお言葉申し訳ありませんけど、私ーー」

「あなた、真面目ね! 冗談を真に受けてたら色々と振り回されてしまうわよ」


 こっちに来てこの作業手伝って! と、班長さんは私を手招きする。


「そうそう、この品物を使う取引先は箱に詰める時に慎重にして欲しいと要望があるからね!」


 そっと、ゆっくりと、仕上がった製品を収めて蓋をする。


「バッチリよ! ありがとう」

「ありがとうございます」

 誉められて嬉しさの余り、声を弾ませる。


「あらら、ベルが鳴っちゃった。あなたの部署今日もはや上がりだったのよね?」

 残念そうに班長さんは言う。

「ごめんなさい。もう少し、お手伝いしたいところなのですが」

「十分よ! よかったらまた、こうして応援して貰ってくれるかしら?」

「はい」と、私は頷くと班長さんは安堵を含めた眼差しを向ける。

「あなたの部署のリーダーさん達は若いけど、まだ未熟なところがあるの。特に竹岡さんはね」

「えーと」

「浜田千賀子よ! ハマさんて、皆から呼ばれてるからあなたも呼んでくれたら嬉しいけど?」

「さすがに、それは……」

「そんな、困った顔をしないで!」


 ーー長長と、呼び止めてごめんね。ぼやぼやしてるとあなたが児嶋さんに怒られるから行きなさい。


 あっけらかんとした性格。浜田さんのおかげでこの部署は、纏まっている。その証拠に作業に於いて、きっちりと誰もが忠実に遂行していた。


 私は「お疲れ様です」と、一礼をして一度自分の部署に戻り、由香ちゃんに声を掛けて帰宅する準備をした。


 ふと、浜田さんの言葉を思い出す。


 振り回される事と由香ちゃんと麻奈ちゃんがまだ、未熟。


 浜田さんがこの会社で勤務している中で色んな人を見て、感じて培った経験の証。仕事をするのにはやはり、人と人との繋がりも必要だ。と、教わったように捉えられる。


 そして、岡村さんの事も考える。


 あの人が皆に慕われる理由。

 人柄もそうだが、現場に入り込んで皆と一緒に作業をしてお昼ご飯を食堂で食べる。

 一方で厳しい一面も覗かせたり、そしてーー。


 全てが岡村さん。


 私も目指すものは、変わらず胸の内。


 欲張りなことかもしれない。


 恋と仕事、どっちも疎かにしたくないと刷り込ませていった。

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