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風、薫る  作者: 鈴藤美咲
14/23

嘴が黄色い

 季節は廻る。桜は散り、ぽつぽつとつつじが蕾をつける。

 麻奈ちゃんが正式に正社員と辞令を受けて二週間が過ぎた。

 私と言えば今の配置で相変わらず由香ちゃんと業務を遂行している。


「新規で今日からこの取引先が入るので呉々も慎重に扱ってください」

 部署の皆を集めての打ち合わせで、由香ちゃんはそう、連絡事項を述べる。その側にいる麻奈ちゃんといえばーー。


 まるで自分には関係ない。口を尖らせ今にも何処かに行くように、そわそわと落ち着かない様子だった。


「ごめん、浅田さん。今からP部署の応援にお願い!」

 其々の配置に行く皆に付いて行きかける私を呼び止めて指示したのは由香ちゃんだった。


 掌を合わせて、申し訳なさそうに何度も頭を下げる彼女に

「由香ちゃん独りで業務をするの?」と、訊く。

「岡村さんが麻奈ちゃんに私達の配置の業務をさせてみろと言ったの。嫌な顔したら『業務命令だ!』なんて、怒鳴りつけ返されちゃった」


 先日の由香ちゃんと岡村さんの口論の記憶はくっきりと、私に残ったままだった。


 岡村さんなら考える筈だという臆測をする。

 麻奈ちゃんをひとつの部署を纏める事を習わせる。副班長の役職付きの正社員であれば尚更だとーー。


 

******


 会社の生産部門は合わせて4つに分かれている。取り扱う製品が異なるとはいえ、気は抜けない。


 仕事だから。


 しかし、指示に従い作業をしていると合間を突くかのように、ある事を訊かれる。


 ーー麻奈ちゃん、岡村さんと付き合ってるの?


 ーー同棲中の彼氏の目を盗んで外でこっそり会ってるらしいよ。


 ーー街で二人が手を繋いで歩いていたの見ちゃった!


 ワイドショーを楽しむような内容ばかり。正直に言えば全部返答に困ってしまった。


業務が終わって岡村さんに携帯電話でメールを送った。


 ーー今日は帰りますーー


 着信されたメールの返信の文字。

 即、消去させて会社近くのコンビニエンスストアで炭酸水を購入するとバス停に向かって行く。


 外は夕暮れ。西の方角に大きく見える太陽が雲の間に入り込んでいた。


 ベンチに座っていると横断歩道を渡る人が誰かに似ている事に気付く。そして、居酒屋に向かって歩いていた。ほぼ、同時にやはり見覚えがあるしかも、ちょっと赤い髪の色した人が同じ方向に行く。


 到着した路線バスに二人の姿を阻まれ、私は仕方なく乗車する。


 学生が席を埋めていたので、私は吊り革に掴まって立っていた。するとーー。


「何だか具合悪そうですね? よかったらどうぞ」

 一人掛けの座席に私を促す女の子。今どきのお洒落な服を身に纏い、鞄の隙間からちょこっと、ルーズリーフが覗かせていた。


「ご親切にありがとうございます」

と、肘を支えられながら私は空く座席に座る。


 バスは途中駅前に停車する。発車の最中にさっきの親切な女の子と窓を挟んで目が合いお互い会釈をする。


 会社近くのバス停で見たあの二人を思い出す。

 今日応援した部署の人が次々に私に訊く言葉もだった。


 居酒屋だったらお祝いを兼ねての上層部に御披露目。きっと、そうに違いない。飲み会は頻繁にあると岡村さんも言っていた。


 でも、でもーー。


 私に嘘のメールを送信する程岡村さんが内緒事をしている?


 麻奈ちゃんとの関係は?


 頭がいっぱいになってしまう。


 岡村さん、お願い。



 ーー私に岡村さんをずっと好きと想わせて下さいーーーー。


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