辿り着いたら、其処だった
その日、私は求人雑誌をぱらり、ぱらりと捲りまくっていた。
◎女性の活躍に期待ができる職場です。
ぱっと、見た縦5に横が10程の枠組みの中に綴られる文字に少し心を踊らせてしまった。
業務内容は軽作業。時給は――。
出されるご飯と仕事を拒まず。言葉にすれば大袈裟だけどそれでも私は手繰り寄せられるように、その電話番号を携帯電話に入力していった。
わずか1コールで社名を告げる女性の綺麗な声がして、私は少しだけ身体をひくりと、させてしまう。
電話は苦手だった。相手の顔が見えない会話は言葉を選ぶのに苦労する。それでも勇気を振り絞り要件を伝えると、即日面接を受け付けると告げられる。持参するのは履歴書と筆記用具でよいと言うことだった。
『それではお待ち致します』
親切で安心感がある声色に安堵しながら「宜しくお願いします」と言って通話を終了させた。
ふんっと、鼻息を吹かせ白いブラウスに黒のパンツに着替え、薄化粧を施し、肩にかかる髪を黒のヘアゴムでひとしばりする。
それから、面接を受ける会社へと足を向ける。
ちんまりと掲載される現地までの地図を手がかりに、私は路線バスに乗車して、途中乗り換えて其処へと到着する。
梅雨が明けたばかりだからなのか陽射しが強く視界も眩しく、化粧が落ちるのではないのかと心配になるほど暑かった。かなりふっくらとして厚化粧と茶色い髪の従業員の女性に事務所までの案内をされ、その扉を開いた。
「あの、先程貴社に求人の件で問い合わせをした浅田と申します――」
少し、声が震えてるのも自分でも判ってた。
――こちらにどうぞ。
私は事務の女性に、更にその奥の部屋へと案内された。
深呼吸をして扉を二回ノックして「失礼します」と一礼をする。
「こんにちは」と、座席に腰をかける半袖のワイシャツとスラックスを身に纏うまつ毛が長い男の人が優しそうに笑みを湛えた。
「浅田志帆です」と私は自分の名前を告げて、用意されている椅子に腰をおろした。
鞄から封筒に入ってる履歴書を取りだしその人に提出すると、即開封され、その内容をじっと目を凝らしている。その姿を私はひたすら見つめていた。
「あなた、出身校は女子校なんだ?」
――はい?
私は、その人の女性を意識したような言葉に少しばかり困惑してしまった。
「ふん、ふん、情報処理の科目も受けていた……」
「え――、でも卒業して畑違いの職に就きましたから、あまり経験的には……」
その人の誘導尋問する面談攻撃(?)は更に続きその度に私は躊躇うように、返答していった。
この会社を受ける前に尽く、他の企業の面談で落ちました――。
とっさとはいえ口を滑らせてしまって、胸の内で後悔していると
「そして此処に辿り着いたという訳でですね! 」
あっけらかんと、その明るい言葉に私は呆然となってしまった。
「此処はおばちゃんばかりだから、キミみたいなおっとりしてる人にはどうかな?」
「いえ、むしろ闘争心を燃やします!」
目を丸くさせてその人は、私をじっと見つめる。
「……僕は、岡村と、言います。宜しくお願いします」
深々と一礼をするその人はぱっと顔をあげると、椅子より腰をあげた。
「社内を案内してあげるからついてきなさい」
その人……岡村さんは、私を手招きすると社内のあちこちを見学させる。
一通り見学が済み「ありがとうございました」と私は一礼をした。
通路に足を踏みしめ靴をならし始める私に「頑張って」と岡村さんは眼差しを穏やかにさせて言葉を柔く囁いた。
それから3日が過ぎた。自宅で昼食を摂っていると床に置いていた携帯電話から着信音が鳴った。
『ーー明後日から、おいで』
面接先から、あの時の岡村さんの声が耳に翳している携帯電話から聴こえて、思わず頬が熱くなってしまったーー。




