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異種族趣味の管理者【アドミニストレータ】  作者: てんとん
3章 正式サービス:魔法界
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23話 歪な家族への奇跡

2章14話、15話を見てから読むことを強くお勧めします。

シリアスでございます。

「ガォ、ガゥ。どこへ行く?その者らは魔法使いか?」


"大樹の天蓋(てんがい)"の最北端。

"獣王の森(ガルドフォレスタ)"最深部への連絡橋れんらくきょうにて、俺らの前に灰色の狼が立ち塞がった。

知性の光をその目に宿し、辛うじて言語と認識できるしわがれた声を発する。

体は魔物。

声帯は人語を紡げるようにはできていなかった。

しわがれた発声は、彼の魔法使いへの理解と、友好に見られるための努力の証左だろう。

狼の首にかけられた金属のネックレスが、蛍のやわらかい光を受けて鈍く光った。


全員が一瞬武器を構え、即座に下ろした。

ミニマップに映るその存在が指し示す色は黄色。


"突然変異種(イレギュラー)"だ。


「がぉ、お父さん。」

「がぅ、魔法使いも、いる。」


ガォとガゥが前に出て、四足歩行の彼に向かって話しかける。

そんな姿を、誰もいびつだとは思わない。


「・・・まだ魔法使いを信じられるのか?自分たちがなぜこの森で暮らしていたのかを思い出してみるといい。」


言いながら狼がガォとガゥの後ろに立つ俺らを睨みつける。


「がぉ、確かに、僕らは魔法使いに仲間外れにされた。」

「がぅ、お母さんが死んだのは、魔法使いのせい。」


「だったら」


「「でもね」」


続くはずの言葉を、感情の発露はつろがせき止める。

二人の突然変異種が、信頼を持って振り向いた。

後ろに立つのは異種族の仲間たち。


「がぉ、ご飯一緒に食べないかって言われた!」

「がぅ、種族なんてどうでもいいって、一緒にいようって!」


尻尾をブンブンと千切れんばかりに左右に振り、年相応の幼子の笑顔を咲かせる。

それは、ひどく当たり前の光景。

ただ子供が、新しくできた友達を自慢しているだけの、ありふれた。



狼の父ガリュードは当たり前を知らなかった。

自分の子供がこんな風に他者の事を考えて笑うのを。

見てきたのは、差別という名の暴力に耐える悲しげな表情ばかり。

一時は、自分がいるからこの子たちは阻害されると思い込み、家を飛び出した。

俺の見てくれは、魔物だからと。

だが幸いにも二人は二足歩行でき、言語も自在じざいだ。

魔法だって、並みの子供よりできる。

魔物の俺が姿を消せば、きっと。


だがあてもなく逃げるように旅をして、この森に迷い込んだ自身の子供を見て痛感した。

魔法使いとは、暮らせない。

こちらがいくら理解しようと、歩み寄ろうと、向こうにその気がないのだと。

俺たちは、彼らにとって、敵。

理解の対象外の魔物・・

俺がこの子たちの母、サミュと出会ったのは一度限りの奇跡だったのだ。

同じ奇跡が、子供にも訪れるなどという虫のいい話はありはしない。

--だったら、魔物でいいじゃないか。

辛い思いをするよりは、寂しいほうがずっといいんだ。


俺が、こんな姿だったから。

家族を苦しませてしまった。

済まない・・・、サミュ。

ガォ、ガゥ、寂しいだろうけど、我慢してほしい。

--魔物でいるほうが、俺たちは幸せなんだ。



『あなたは魔物なのに、優しいのね?』


初めて聞いた言葉。


同胞が魔法使いの少女を襲うのを、なぜか俺は黙って見ていられなかった。

力は並みの奴らより優れていたので、一声吠えると同胞は散っていく。

灰色の髪を持つ少女は、発声した。

その声は高く、小さく、か細い。

弱者がこの森に何をしに来たというのか?

きょうを無くしたので、背を向けて去ろうとする。


「待ってよ!!」


少女はそういうと、あろうことか俺の尻尾を鷲掴わしづかみにした!

たまらず跳躍し、距離を取る。

俺は威嚇のつもりで一声、怒声を浴びせた。

パタリ・・・。

少女は気絶したのか倒れて動かなくなった。

このまま放置しては、また同胞の餌食えじきだ。

何のために助けたのか、自分の行動に意味がなくなる気がして、その場にとどまった。


少女がしきりに何か声を上げる。

同胞の声ならば何を思っているか理解できるが、こいつは何を言いたいのか全く分からない。

同胞の言葉を理解したところで、「食いたい」としか言っていないが。

少し興味が出て、しばらく聞きふけった。

不意にすっくと腰を上げ、少女が歩き出す。

俺はとどまる意味を無くしたので、その場から去ろうとする。

また、声がした。


「ついてきて?」


手を招き、少女が何事か伝えようとする。

分からないので、とりあえずついていくことにした。


やってきたのは、食べると清涼感せいりょうかんを与えてくる葉の群生地。

それを器用に手で摘んで、かごの中に詰める。

なるほど、これを取りに来たのか。


「ありがとね、助けてくれて。」


葉を摘み終わると、少女は笑って、自らの首に掛かっている金属の首飾りを差し出した。


「お礼。」


輪のような金属を広げ、ゆっくりと俺に少女が迫る。

危害を加えられるのを危惧して、俺は距離を取った。

少女が頬を膨らませて声を上げる。


「受け取ってくれてもいいのに。」


暫くそのまま少女は俺を見つめると、


「また来るからね。」


言葉を発し、顔を少しゆがめて去っていった。


少女は何度も葉の群生地にやってきては、俺に何かを話しかけた。

一定の動きと顔のゆがめ方から、何を思って、何を言っているのかだんだんと分かってくる。

密会の最後に、彼女はいつも首飾りを俺に差し向けた。


俺が彼女にそれをかけるのを許したとき、俺は彼女が何を思い、何を言っているのか理解していた。


「私、サミュ・フランチャルダ。あなたは?」


弱ったな、名前などないのだが。

それにどうやって答えればいいというのだ。

もはややけくそ、俺は一声、ガォーーン!!と声を上げた。


ガリュードという名前は、サミュが付けてくれた。

響きが似ていて、意味のある言葉を選んでくれたらしい。

「ガリュード」とは寓話ぐうわに出てくる、心優しき獣。

俺にぴったりだと、サミュは顔を歪めた。


その時には、彼女の歪めた顔が喜びを表す笑顔だと分かっていた。



チャリ・・・。

ガォとガゥの言葉に喜びを示すように、ガリュードの首飾りが小さく音を鳴らす。


「サミュ・・・。君の言うことは、正しかった。」


獣の目に涙が浮かぶ。

サミュの言葉が蘇る。


『いつかこの子たちを理解してくれる者がきっといるわ。』


--ああ、本当だったよ。

この子たちはこんなにも今、幸せそうだ。


父親が子供たちに自らの体をこすりつける。

それは手を用いない獣の抱擁ほうよう

泣き声すらうまく上げられない狼の、不器用な咆哮ほうこうが響き渡った。



「がぉ、お父さん泣いてる?」

「がぅ、どうしたの?」

「なんでもないさ・・・。おい、そこの。」


狼が俺を見据え、声をかける。


「は、はい?」

「名はなんという?」

青木あおき たくむと言います!・・・お父さん?」


彼は目を見開き、グルルと喉を震わせた。

やばい、お父さんとか調子乗りすぎたか?


「がぉ、泣いたり笑ったり、変なの。」


ガォが父親を見て言う。

グルルって笑ってんのかよ・・・。

威嚇いかくかなんかだと思ったぞ。


「ああすまない、俺は笑う時喉を震わすのだ。あははと笑ってみたいが、如何せん喉の作りが違う。・・・『お父さん』と呼ばれたことが、家族を置いて他に無かったから愉快ゆかいだったのだ。許せ。」

「改めて、俺の名前はガリュード。ガォとガゥの父親だ。・・・よくもまあ子供たちをたぶらかしてくれたものだな。」


「は、はい!すみません!」


やばい、そりゃ怒るよな・・・。

勝手に人の子供連れ出してたんだから。


「優しくしたのなら責任を取れ。・・・これからもこの子たちの良き友であってくれ、どうか、頼む。」


グルルと喉を鳴らしておどけた後、ガリュードは体を伏せて俺に懇願こんがんした。


「こちらからお願いしたい位ですよ・・・。俺らもガォとガゥと一緒にいるのが楽しいんです。」


俺のほうも頭を下げる。

魔物と人間が頭を下げあっている状況がおかしいのか、ガリュードさんがグルルと声を上げ、体を震わせ始めた。

俺のほうもなんか可笑しくなってきて、笑いをこらえられない。


しばらくの間、魔物と人間の楽しく笑いあう声が響いた。

戦闘シーンの途中ですが、どうしても挟んでおきたい話でした。

次から"獣王の森"最終戦です。

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