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異種族趣味の管理者【アドミニストレータ】  作者: てんとん
3章 正式サービス:魔法界
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21話 攻略:獣王の森③

隊列を組みつつ、敵を示す赤い光点に向かって前進していく。

"静寂の密林"を抜け、ミニマップが新たな名称を表示した。

"大樹の天蓋てんがい" 中心に恐ろしく巨大な大樹がそびえ立ち、頂点から伸びる枝葉えだはが放射状に緑のアーチを描く。

それはまるで巨大なドーム状の天蓋てんがいだ。

ドームの中は陽があたらない代わりに、淡い水色に輝くキノコがあたりをぼんやりと照らしている。

この場所だけの固有種なのか、辺りをふわふわと発光体が飛び回っていた。

蛍に似たそれが先頭を歩くガォの鼻に止まり、顔を照らした。


「がぉ、くしゅん!」


くすぐったかったのか、ガォがくしゃみをする。

蛍は飛び上がり、群れに戻っていった。

天蓋の中は、太陽の光が作り出す空間の温かさとは違う、静謐せいひつな雰囲気を纏っている。

生物や植物が放つ柔らかな光を、草木がぼうっと反射して淡く周囲を照らす。

見上げれば満天の蛍のプラネタリウムが、俺らの心を熱くした。


「こりゃまた、すごいな・・・。」

「奇麗なのです・・・。」

「がぉ、しんぴてき。」

「がぅ、ここは来たことなかった。」

「ワタシ、もうちょっと地上に降りていればよかったよ・・・!」

『風景をスクリーンショットとして保存しました!情報ライブラリに書き込んでおきますね!』


各々がそれぞれの口調で自然の奇跡に称賛を送った。



"大樹の天蓋てんがい"は半径2km程度の円状のドームで、敵を示す赤い光点は中央に集まっている。

今だその姿が見えないのが不気味だ。


「ナタリー、この景色を壊すのはもったいないけど『光源ルクス』で天蓋部分を照らしてくれないか?」

「分かったです。」


紡がれた詠唱により、ナタリーの持つ杖の先端から光球が飛び出す。

ふわふわと浮遊しながら天井へと接近し、この空間内における空を照らし出した。


--キチキチ・・・。


「ひっ!?」


ナタリーが細い悲鳴を上げる。

見上げると、おぞましい程の矢毒蜂(トキシンホネット)が大樹に寄り集まっていた。

おびただしいHP表示の中に、一匹だけ赤いドットで"種族名"が表示されている。

矢毒蜂に囲まれて全体像ははっきりと見えないが倍以上は巨大な個体の様だ。


『皆様、"矢毒女王蜂トキシンホネット・クイーン"にはご注意を。適正レベルをオーバーしております!』


アーティから通話ボイスチャットが入る。

直後、俺らは毒矢の雨に襲われた。



緑のドームに、毒々しい紫色の雨が降る。

傷を負えば行動不能の麻痺毒が回るため、掠り傷さえ許されない。

どう回避したものかと針を逃れながら疾駆していたところ、ガォが突然制動を掛け、俺らを背に盾を構えた!


「がぉ、『攻撃誘導アタック・インダクション』!!」


--ギィィィィイ!!

群れの威嚇音がドーム内に響き渡った。

侵入者を狩らんと毒針を飛ばしていた矢毒蜂が一斉に羽音を響かせガォに迫る。

狙い(ターゲット)がガォのみに向いた。

盾を持っているとはいえ、数百を超える大群にまれてはひとたまりもないだろう。

ガォの狙いは蜂を一斉に集めての殲滅か!

俺は『魔法剣士(ソードキャスター)』のジョブ名に"魔法"がある所以ゆえんを行使する。

その場で足を踏み込み、蜂の群れが迫る方向に虚空こくういだ。


「『空断アトモスフェダー』!!」


戦技の威力をそのまま風魔法に乗せて飛ばす魔法剣士の専用(ユニーク)技。

魔法と戦技両方の行使により、MPが相応量の減少を見せる。

断絶の威力を秘めた斬撃が、ガォに向かう矢毒蜂の群れに激突した!

群れの半ばまで蜂を両断したところで、斬撃が止まり、消滅する。

くそ、やはり数が多すぎるか!


「がぅ、『投槍ジャベリン』!!」


進軍を再開せんと蜂どもが羽音を強める。

その僅かな間隙かんげきに、鈍い赤色の光を穂先に纏った槍のミサイルが群れに着弾した!

槍そのものを投げても2,3匹貫くのが限界であるが、戦技によって纏われる魔力により矢毒蜂の硬い殻を突貫していく。

空を架ける彗星の如く、群れの中央を貫いた。

さて、俺とガゥで時間は稼げた。

後ろを見ると、頼もしい幾何きか模様を杖の前に描いた、銀髪の魔法使いが矢毒蜂どもを見据えていた。



「『水散弾ショットガンドロップ』!!」


魔法陣が一際青く輝き、ナタリーは銀髪を翻らせ、砲声。

圧縮された水の散弾が、数多の蜂を地に落とした。


「まだいくです!!二重詠唱ダブルスペル:『鎌鼬ストームブレイダ』!!」


風が起こるはずのない天蓋の下を、突風が駆け抜けた。

--一匹の蜂が、風によって崩れた飛行姿勢を建て直すため、はねを振るわせんとする。

空気を叩くべきその翅は、すでに風によって運ばれた後であった。


時間が止まったかのような一瞬の静止の後、蜂の群れの残党を、鎌鼬かまいたちが撫で切りにした。



矢毒蜂を一通り狩り終え、少し気を緩めてしまっただろうか?

俺らは失念していた。

果たして、ガォの『攻撃誘導アタック・インダクション』に引き寄せられたのは女王を守る尖兵だけだったのだろうか、という疑問を。


エンジン音のような羽音を震わせて、女王が君臨くんりんする。

その体躯は見る者をひるみ上がらせる暗赤の警戒色。

致死の毒を打ち込む毒針。

極めつけにその顎は、首程度の太さなら両断してしまうだろう。


そのおぞましさに一瞬、全員の体が硬直した。

--瞬間、戦闘機もかくやというスピードで女王が驀進ばくしんを掛ける!


「がぅ、ガォ!!」

「うぐぅ!?」


盾を持ったガォが吹き飛ばされ、HPが残り6割まで減少する!

盾には、銃弾痕の如き毒針の刺突跡が凄惨せいさんに刻まれていた。


聞くものに恐怖を呼び起こす羽音が腹に響く。

視点を女王に戻すと、

--目と鼻の先に、かおが広がった。



死んだなと、俺は人生二度目にそう思った。

思えばナタリーが落ちてきたとき、俺はもう死んでいて、都合のいい夢を見ていたのかもしれない。

一瞬でそんな考えが浮かんでは、消えた。

致死の針が迫る。

手に持った剣は、ピクリとも動かなかった。


「『捌き』」


停滞した時間の中で、赤い獣を見た。

深紅の髪を翻し、女王蜂の腹に右手を添え、毒針の軌道を逸らす。


「ふうっっ!!」


そのまま向かってくる矢毒女王蜂の眼球に向けて、魔力を纏った拳を振るった。


「『一本拳』」


握った左手の拳、その人差し指の第二関節だけを少し浮かせ、魔力を針状に尖らせる。

その魔力の色は、しくも女王のそれと同じ赤。

狙いすました一撃が、女王の右目を撃砕した。


「タクムくん、大丈夫かい!?」


彼女が振り返らずに声をかけてくる。


「ミカさん、マジカッコいいっす!!」


助かった安堵からか、俺はそう言い放った。

出来ればあと2話で攻略を終えます。

3話使ってしまうかもしれない。

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