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異種族趣味の管理者【アドミニストレータ】  作者: てんとん
3章 正式サービス:魔法界
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19話 攻略:獣王の森①

俺らは、再び"獣王の森(ガルドフォレスタ)"深部に足を運んでいた。

ガォとガゥの住処すみかからさらに北、ミニマップが示すその地の名称は"静寂せいじゃくの密林"。

これまでは高い木が乱立し、その間隔は箒で飛行できるほどに広かった。

だが、静寂の密林の木は、あまり高いわけではなく、密集している。

見通しが悪い上に、ここからは出てくる魔物の気色が変わる。


緑と同系色の魔物が『擬態(ミミック)』の魔法で同化していた草木から飛び出してきた。

その背中から尻尾にかけてにびっしりと生えるのは、攻守の役割を担うとげ

『アナザ・ワールド』による表記名を"有棘蜥蜴(スパインリザード)"。

全長2mのトカゲの魔物、いやむしろその姿は小型の恐竜を思わせる。


「おわっ!?」


『擬態』という魔法で、ミニマップ上に表示されなかった有棘蜥蜴がタックルを仕掛けてきた。

無数のとげが、先端をこちらに向けて迫る!


「がぉ、僕に任せる!」


嗅覚でその存在を感じ取っていたガォが動く。

蜥蜴と俺を結んだ直線状に、その小さな体躯たいくを割り込ませた。

灰色の毛並みがなびく。

割り込んだ直後、自分の体と同程度の巨大なを掲げた!


ガスッ!!ガスッ!!と鈍い音がして、木製の盾に無数の棘が刺さる。

だが分厚いそれを貫通させるには到底至らない。

少し勢いに押されながらも、蜥蜴の突撃は止まった。

俺の剣では棘の射程に入ってしまうので、魔法での対処を考えた、その時!


「がぅ、あたしがやる!」


俺の少し後ろに陣取っていたガゥがを携え、疾駆する!

その動きを予期していたかのように、ガォが盾攻撃シールドバッシュで蜥蜴を盾から突き放し、ひるませる。


「がぅ、『乱突ディスアレイスピア』!!」


飛び上がりながら、頭、胴、足、尻尾と槍を乱れ打つ!

最後に、跳躍の勢いを乗せた一突きが蜥蜴の喉元に吸い込まれた。

ガゥが素早く槍を引き抜き、距離を取る。

蜥蜴はしばらく痙攣けいれんしていたが、やがて動きを止めた。


「がぅ、勝ち!」

「がぉ、ご主人、怪我なし?」

「あ、ああ、大丈夫だ。ありがとう。」


槍を携えたガゥと、盾を持ったガォが近づいてきた。

なんというかこっちで出会う連中はだれしも戦闘に慣れすぎていると思うのだ、俺は。

魔物が出るから、それが正常とは分かってるんだけどなぁ。



ふと後ろを見ると、ナタリーとミカも同様に蜥蜴に襲われていた!

ミカの頭上のHPバーが少し減少している。

それもそのはず、棘を持つ蜥蜴相手に肉弾戦を仕掛けていた。

どうやらナタリーの魔法行使までの時間を稼いでいるようだ。


「ナタリーちゃん、まだぁ!?このトカゲ殴ると棘が刺さってすっごい痛いんだけど!!」

「もうちょっとだから頑張って耐えてほしいのです!!」

「くぅぅ!!こんのトカゲくんめぇぇええ!!」


ミカが棘の生えていない腹部分を狙って前蹴りを繰り出す!

蜥蜴は身を丸めて防御姿勢を取った。


「ひぃ!?」


ミカが前蹴りを途中で中断し、上げた足をそのまま振り上げバク宙で後ろに距離を取る。

それを見越していたかのように、蜥蜴が防御を解いて前進。

牙を剥いて噛みつきにかかる!


「あぶないっ・・・なあっ!!」


眼前に迫る蜥蜴の下あごを両手でつかみ、勢いを殺すことなく後ろへ倒れる。

ミカは仰向けにならながらも、蜥蜴の腹を空へ向かって蹴り上げる!

巴投げよろしく蜥蜴が宙へ吹っ飛んだ。


「ミカ、いくですよ!!」

「りょうかい!!よろしく頼むよ!!」


魔法付与(マジックエンチャント):『風刃(シルフブレイダ)』!!」


ナタリーが魔法使いの長杖ロッドをミカに向け、魔法を紡ぐ。

風の刃がミカの両手両足を包み込んだ。


「お待たせです!これで棘があろうが気兼ねなく殺れるです。」

「そうだねぇ・・・。」


防戦に回り鬱憤うっぷんを溜めたナタリーとミカが、にやりと笑う。

飛ばされて起き上がってきた蜥蜴は、勘弁してくれとばかりに後ずさったように見えた。

その後はまあ、虐殺であった。

ミカが拳を振るうたび、その延長線上にある棘や体は切り刻まれた。

棘をすべて半ばで切られたただの蜥蜴が出来上がる。


「じゃあ、さよなら♪」


--ミカの上段蹴りが、満身創痍の蜥蜴の頭を捉え、吹き飛ばした。



「お前らはオーバーキルという言葉を知らないの??」

「だって、チクチクチクチクと腹が立つよ!!」

「蜥蜴の動きが早いのでナタリーはあまり前に出れないです。闇雲に魔法ぶっぱしても躱されるですし。」


一旦全員でまとまってその場に座り、作戦会議だ。

戦闘を見る限り、肉薄してないと攻撃できん俺の剣とミカは蜥蜴との相性が良くない。

逆にガォの盾、ガゥの槍は相性がいい。

槍は棘が届かない程度の中距離から攻撃でき、盾は素早い突進を止めてくれる。


ガォとガゥはこっちに転移したと同時に、メニュー画面の説明を受けた後ジョブを選んだ。

ガォが『盾使い(ガードマン)』で、ガゥが『槍使い(ランサー)』だ。


こちらの世界では魔法使いという種族が主に台頭だいとうして来ているから、魔法を使ってでしか魔物を狩らないと思っていた。

それはどうやら大きな間違いであったみたいだ。

ガォもガゥも剣、槍、弓、盾を修練していた時期があったらしい。

魔物との闘いが割と日常化してきているこの世界では、接近される=死という図式を無くすために皆ある程度、武器での戦闘を訓練するみたいだ。

中には魔法よりも近接戦闘に長ける魔法使いもいるみたいだ。


肉弾戦ができる魔法使いとか何それ怖い。

人間でも達人と呼ばれる人がいるくらいだから、いても不思議ではないんだけどな。

もう少し魔法使いというアイデンティティを大切にしてくれ。


『オーバーキルをすると獲得経験値が増加します!よって戦闘に余裕がある時は推奨です!』


例の水色部屋にいるアーティからグループ通話でアドバイスが飛んできた。

獲得経験値は特にログとかには表示されず、レベルが上がったむねの報告だけがログに上がる。

だからあまり気にしていなかったが、そうか。


「ほら、アーティちゃんも推奨だって!」

「・・・余裕ないときは控えてくれな?」

「りょ~かいだよ~!」


ああ、ミカの笑顔が恐ろしや。

さて、そろそろ隊列フォーメーションとかを考えたほうがいいな。

タイプの違う魔物が複数出てきたときに、役割を決めておかないと各々(おのおの)の動きがから回るからな。


「今後はミカとガォが前に出てくれるか?」

「がぉ、いいけど、どうして?」


「ガォは盾持ちだから、敵の注意をひきつけて守りに専念してほしいんだ。守っているうちにミカの打撃やガゥの槍、ナタリーの魔法が敵に向かうようにしたいんだ。」

「ミカが前衛の理由は単純にHPがほかの皆より高いからだ。確か格闘家(ファイター)はHPボーナスがかなり大きい。肉薄して戦闘しないといけないからまあ妥当だが。」


「う~ん、なんか肉壁っぽいね。でもさっきの戦闘でレベルが上がって、新しい戦技せんぎ覚えたからたぶん遅れは取らないよ~?」


ふふふとミカが笑う。

これ以上強くなってどうするつもりなのかと思うが、素直に新しい技を見てみたい気持ちもある。


「ガゥと俺は中衛だ。俺は魔法使うからたまに後衛に行くかもしれないが。槍で前衛のサポートをよろしく頼む。」

「がぅ、わかた。」


「ナタリーは後衛な。魔法で攻撃してくれ。くれぐれも後方注意で頼むな、ガゥが中衛にいるうちは感知できるけど、前衛に集中してたら後ろが疎かになりがちだ。気を付けないと後ろからザックリいかれるぞ?」

「うっ・・・わかったです。後ろから来たらきちんと援護してくださいね?」

「状況によるけど、指示は出すから安心してくれ。」


よし、こんなもんかな。


「じゃあ進むか!!目標は三日以内にこの森の攻略だ!!」


おー!!と皆で手を挙げて作戦会議兼休息を終えた。



"獣王の森(ガルドフォレスタ)"最深部、接近する者どもの存在を感知したのか、"獣王"は目を開けた。

周囲に平伏するのは通常の灰色の毛並みとは異なった、白の毛並みを持つ飢餓狼(ガル)

彼らを従えるのは、ただ一匹の"冠名(ネームド)"と呼ばれる個体。

王は気怠けだるそうに体を起こし、グルル・・・。と一声、唸りを上げた。

ステータス更新


タクム lv6  種族:人間

 ジョブ:建築家(アーキテクター)lv7

 サブジョブⅱ:剣士(ソードマン)lv3


ナタリー lv7 種族:魔法使い

 ジョブ:魔法使い(マジックキャスター)lv7


『魔法付与』:対象に付与可能な魔法を付与。詠唱時間1分、間隙2分


ミカ lv7  種族:unknown

 ジョブ:格闘家(ファイター)lv7


ガォ lv3  種族:狼人

 ジョブ:盾使い(ガードマン)lv5


ガゥ lv3  種族:狼人

 ジョブ:槍使い(ランサー)lv5


 戦技:『乱突』


魔物


有棘蜥蜴(スパインリザード)


背中から尻尾にかけて棘を持つ蜥蜴。

突進による攻撃、背中を向けて丸まり防御を行う。

『擬態』の魔法でミニマップに映らない。

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