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 アーティと三人の令嬢はすっかり仲良くなりました。

 養子縁組先の皆様方との合格祝いを兼ねたディナー、そしてお見送りを済ませると、玄関ホールでアーティが私を見つめます。


「この屋敷に来たばかりの頃の私の態度って酷かったですよね。あのときは、誰の顔も悪魔に見えたから……」

「その感情は過去のものになったということかしら?」


 私が問いかけると、アーティは大きくうなずきました。彼女の目はきらきらしています。


「はい、今は信頼しています。特にイブリン様を! だって、言われたとおりにすることが正しいことだってわかったからっ!」


 アーティはうっとりと私を見つめています。


(こんな風に私を全面的に信頼してくれるなら、もっと上を目指せるかもしれないわね。せいぜい上手く利用することにしましょう)


 そんなことを考えながら、私は優しく微笑んで見せました。誰かを全面的に信頼するなんて、無邪気で微笑ましいですね。今の私には到底できません。


「明日のサビナ通りでの買い物体験は、ドレスショップ『マダム・ディバ』と宝石店『ジョー・ハワード』を貸し切ることになっているわ」

「わ、私のために、わざわざお店を貸し切りに?」

「子爵令嬢になったのですもの、立場に相応しいものに変えないとね。自分に似合う服が選べるようになるまで、どれだけ時間をかけてもいいわ。『あなたのお友達』が最後まで付き合ってくれるから」


 私の言葉を聞いたアーティが、喜びと困惑が入り混じったような複雑な表情を見せます。

 

「嬉しいけれど……お金を出すのはテイラー公爵家で、バーナード様のお金が減るんですよね?」

「金額を気にしてはいけないわ。それではバーナード様が甲斐性なしと言っているようなものよ。八大公爵家の当主になる方ですもの、あなたに毎日でも新しいドレスを着てほしいはずよ」


「そうなのですか。八大公爵家って、やっぱり凄いんですね」

「あなたも今のうちから慣れておかなくては。母親から引き継ぐ宝石がないのだから、宝石店を丸ごと買うくらいの勢いが必要よ」


「ま、丸ごとだなんて」

「アーティがおねだり上手になれば、バーナード様は喜ぶに違いないわ。貴族の男性にとって、妻にお金をかけることはステイタスですもの」

「心が浮き立ちます。私、綺麗な物って大好きなんです」


 アーティの目は爛々と輝き、頬はすっかり紅潮しています。

 明日のアーティが買い物に夢中になって我を忘れても、令嬢たちが親友・取り巻き・監視役の三役を上手に担ってくれるでしょう。


「さあ、あなたは明日に備えて休まなくてはね」

「はい。イブリン様も疲れたでしょう?」

「私はまだやることがあるわ。ドレスのデザイナーと打ち合わせよ」

「ええ、もう夜遅いのに?」

「やるべきことがあまりにも多いのだから仕方ないわ」


 私はアーティと共に廊下を歩き始め、大階段へと向かいます。エドモンド様の見送りを済ませたレイクンもついてきました。


「イブリン様には専属のデザイナーがいるんですよね。新しいドレスを作るんですか?」

「作ってもらうのは、あなたの妊娠を誰にも気づかせないためのドレスよ。いくらお腹が目立たない体質でも、さすがに結婚式を挙げる頃には隠し通すのが難しくなるから」


 私の言葉に、後ろを歩くレイクンが答えます。


「まあ確かに、妊婦のためのドレスはあっても、妊娠を隠し通すためのドレスなんてないもんな」


 アーティの体質は有利に働くけれど、変化がまったくないわけではない。普通のドレスでは隠し通せるのはあと一か月半が限度でしょう。侯爵令嬢として社交界デビューする頃には、特別なドレスが必要になります。


「妊娠を隠し通せなければ、ミルバーン公爵家もテイラー公爵家も面目丸つぶれよ。だから特別なドレスが必要なの。王都での結婚式さえ無事に終われば、あなたはテイラー公爵領で出産に備えることになるわ。月足らずの出産などよくあることだから、秘密が暴かれることはない」


 私は階段をのぼりながら言いました。


「国一番のデザイナーだから、独創的かつ斬新なアイデアを出してくれるわ。ドレスが一件キャンセルになったから、スケジュールがちょうど空いているの」


 キャンセルになったのは──私が結婚式で着るはずだったウエディングドレスです。

 結婚式は二か月半後、ぱっと見には妊娠しているとわからないドレスを作ってもらわなくてはなりません。


「わ、私、すごいドレスが着られるんですか?」


 アーティが興奮した声を出します。国一番のデザイナーという肩書が気に入ったようですね。

 私は苦笑しました。アーティの声も表情も雰囲気も、子爵令嬢というより平民寄りに戻ってしまっています。


「アーティ。特別なドレスを最初に着るのは、あなたではなく私よ」


 浮かれすぎてはいけないとアーティを戒めるために、私は少し低い声で言いました。


「ええ、どうしてですか!?」

「あなたが目新しいドレスを着て、いきなり社交界に飛び込むことは避けたいの。だって悪目立ちしてしまうでしょう? 事前に新たなスタイルとして、社交界で広く知られるようにしておかなくちゃ」


 私の言葉に、レイクンがはっとしたような表情になります。


「なるほど。独創性に富んだデザインのドレスを、社交界のファッションリーダーであるイブリンが先に着る。そしてたちまち流行を作り出す……」

「その通りよ。『私を象徴するドレス』にしておくために、事は急を要するの。令嬢たちがこぞって同じデザインのドレスを欲しがれば、どこの仕立て屋も右に倣うわ」

「社交界デビューしたアーティが単に流行に乗っかっているだけなら、悪目立ちすることはない。凄い計画じゃないか、やっぱりイブリンは天才だ!」


 レイクンが感嘆の声を上げます。


「本当ですね、イブリン様は凄い人!」


 アーティの言葉に、レイクンは驚いた顔をしました。アーティの口からこんな言葉が飛び出してくるとは、予想もしていなかったのでしょう。


「お前が駄々をこねないなんて気持ち悪いな」

「もうそんなことしません。私、やっと目が覚めたんです。これからは、イブリン様の言うことを忠実に守ります。よけいなことは何も考えずに!」


 そう言い切るアーティの顔は、私への称賛と感謝の気持ちであふれています。


「へえ、すっかり調教されたんだ。さすがイブリンだな、どんなに難しい馬でも飼いならす」

「私は馬じゃありません!」


 レイクンとアーティの会話を聞きながら、私はふっと笑いました。

 どうやら私は、鞭を使わずにアーティの精神を支配できたようですね。それなりの満足感はありますが、まだまだ足りない気もします。


「おやすみなさい、アーティ」

「おやすみなさい、イブリン様。明日も私を正しい方向へ導いてくださいね!」


 二階の私室前まで送ると、私を崇拝しきった顔でアーティが言います。

 私からアーティを受け渡された総侍女長のシェンダが、驚いたように彼女を見ていました。



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― 新着の感想 ―
最初から妙に憎めなかったんだけど、だんだんアーティに情が湧いてきてしまった…… あんまり酷い目にあわないといいなぁ……
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