#8 湊の過去
小学校の頃からずっと、湊には友達なんか居なかった。
こんな性格だから、友達になろうとする人は少ない。
つくろうともしなかったし、欲しいとも思わなかった。
友達なんて、面倒なだけだし、信じられる気がしない。
湊はいつも教室の窓際の席で窓の外をボーっと眺めて過ごしていた。
ここに、自分の居場所は無い。
だけど、湊が唯一信じていた存在。
それは、家族だった。
両親2人はいつも仲が良く、にこにこと湊を見守ってくれていた。
だけど所詮それは表向きの姿。
本当は、湊の見ていないところではいつも喧嘩をするほどだったのだ。
そして、中学校の1年生の頃。
突然、湊のお母さんは殺された。・・・湊のお父さんに。
『・・・ころされた?』
リビングの机に向かい合って座りながら湊は過去の事を話してくれた。
その後、お父さんは当然警察行きとなったらしい。
『それで寮に・・・』
「・・・あんた確か俺が喧嘩する理由聞いたよね」
『あ、うん・・・』
祐菜は、水を一口飲んだ。
「探してたんだと思う。自分の居場所ってのを」
『・・・?』
「俺は此処にいていいんだって、思えた気がして」
『そんなのっ・・・』
祐菜は思わず立ち上がったが、湊は相変わらず冷静だった。
「勿論、そんなわけないって、わかってる」
『・・・』
「最初から、俺の居場所なんて存在しなかった。皆俺のこと嫌いだから」
『そんなこと無いっ!!!』
祐菜は残っていた水を一気に飲み干して叫んだ。
さすがの湊も、驚いて顔を上げた。
驚いたまま、じっと祐菜を見つめている。
祐菜は手をきゅっと握り締めて湊を見つめた。
『湊君はここにいていいんだよ!私も、ここの皆も湊君のこと大好きだからっ!!』
「・・・」
湊はコーヒーを飲み干してカップを片付け始める。
『みんな、ともだちでしょ?湊君のこと嫌いなわけないっ!』
すると、湊は少し寂しそうな表情で、笑った。
その表情を、祐菜は一生忘れることは出来ないだろう。
始めてみる湊の笑った表情は、今にも泣き出しそうな、寂しそうなつくり笑顔だった。
「・・・言ったでしょ。友達なんか欲しいと思わないって」
『あ・・・』
何と言えばいいのかわからない。
何を言ってあげればいいのか。
『でもっ、好きだからね!湊君のこと!!』
つい口から出たその言葉は湊に届いていたのかはわからない。
湊は無言で2階へと上がって行った。




