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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第三章・正義の亡霊

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【08】

 前の長官が帰ったあと、会話を口に出しながら、オルタナと並んで歩く。


「そういえば、メヤスバコってなんだ?」

「適当に話を合わせてたのかよ」

「お前が知ってそうだからな、エリニュス」


 適当だな……と思いつつ、目安箱について簡単に説明をする。


「再調査を匿名で依頼して、冤罪なら無料で調査してくれる仕組みか」


 機関に情報が入ってこなかった明確な理由は知らないが……たぶん、長官が怒り狂うから一切噂しなかったんだろう。

 下手に「やってるんだ」なんて噂して、長官直属の部下たちの耳に入って、そこから……きっとそうだな。

 侯爵に積極的に協力はできないが、彼女の活動を邪魔するつもりもなかったんだろう、カラブリア人たちは。


 私たちが知ったら? 多分、そのままにしておく。精々わたしが「吉宗!!」と内心で叫ぶ程度だろうな。


「刑が確定して、刑期も満了しているのなら、こっちが口を出す義理もないからな。それらの拾い上げということか」


 この世界にも、もちろん再審請求はあるのだが、庶民が新しい証拠を見つけ出すのは非常に難しい。だからプロ……実際はプロじゃないんだけど、プロとされている侯爵に頼むのが最も現実的だ。


「そこに持ち込まれた依頼の中に、再調査されたら困ることがあった……殺害理由にはなるが、その場合は身内が犯人の確率があがるな。もともと、犯人は身近な奴だと考えられているが」


 再調査依頼を知ることができる立場って、侯爵の身内しかない。身内だがもちろん肉親は含まれていない。


「可能性としては低いけど、再調査を依頼したことを知っただけ。要するに依頼を持ち込んだ依頼人と知り合いで、持ち込んだことを知り、調査されると困るから殺害した」

「持ち込んだ知り合いを殺害しても、すでに持ち込まれているなら、侯爵を殺害するしかない……あり得ないわけではないが、邸内で殺害を決行しているからな。顔見知りじゃなけりゃ、外だろう」


 侯爵の邸は庶民の「玄関を開けたら室内が全部見える」ような家じゃない。内部に入ってたどり着く必要がある。

 だから邸内を知っていて、歩いていても見咎められない知り合いってことになる。


 ……ん?


「なあ、オルタナ」

「なんだ」

「ヨトラコル伯爵が”元王女は従者を連れ歩かないことが、往々にしてあった”って言ってたよな」

「ああ、言っていたな。クアルバーグ参事官も似たようなことを言っていた」

「身近にいる奴らなら、侯爵が従者を伴わないことを知っているよな」

「そうだな。ああ、身近なヤツほど外で殺害する機会を得られるって訳か……だが、邸内に入り込むのも身近なヤツしか無理だろ。どちらにしても、身近なヤツだろうな」

「そうじゃなくて、犯人側”が”邸内で殺さなくてはならない理由があったんじゃないか」

「犯人側か……例えば?」



「犯人がカラブリア貴族なら、従者を連れて歩かなけりゃ不自然だよな。最低でも二人」



 オルタナが小首を傾げ、


「カラブリア貴族が犯人なのは、ほぼ確定だろうし……そういえば身元不明の遺体も二つだな」


 二体の出所の理由にもなるな……と。


「侯爵は外でも従者を二名連れて歩いたりしないことがあった。となれば、邸内ではほぼ伴わなかったんじゃないか。侯爵家の使用人たちはそれを是とし、他の貴族が従者を二名連れていなくても違和感を覚えない状態だった……というのはどうだろう」


 使用人たちに事情聴取しているだろうが、来客の従者の動きなんて気にしていないし、聞き取りしている調査官も「常識」として流している可能性がある。


「ありそうだな」

「それは侯爵邸をよく訪れる貴族の従者にとっても、常識になっていた。邸内に入ったら一人一人別行動しても、気にならない。どうだ?」


 別々の場所で見つかっているから、貴族の従者という選択肢が除外されているのではないだろうか?


「盲信させる、あるいは口封じ魔法を使うより、犯人自身が侯爵の元を訪れたことを知る従者を殺害したほうが確実か……クアルバーグ参事官やカラブリア人調査官は、邸内で従者が別行動を取るなんてのは、常識として思い浮かばないだろうからな。犯人側の理由で邸内で殺害か、いい線かも知れない」


 きっと侯爵は邸内では、パーソナルスペースを大事にしていたと思うんだ。前世が一般人なら、ずっと人と一緒ってのは辛いからな。それが邸内にも及び――


「ところで、オルタナ。わたしになんの調査をさせようとしているのかな」

「おまえの推測を聞いた後に言うのもなんだが、犯人の目星をつけるためには、侵入経路を探す必要がある」

「まだそこで躓いてるのか?」

「だから行き詰まってるって言っただろ」

「言ってた……かもな? 監視カメラの映像に、なにも映っていない……と」


 侵入はあの裏口”らしい”――そして裏口から、殺害現場までの通路には監視カメラがついている。

 ただし、それほど数は多くなかったらしい。


「殺害された部屋へと通じる廊下を撮影していた監視カメラは、庭の風車が動力源だったそうだ」

「あの風車、なにに使ってるのかと思ったら」

「もちろん小麦も挽いていたそうだが」


 エネルギーを無駄なく使用していた模様。


「風車が停止していて、撮影できなかったとか?」

「風車は今のところ動力源の一つでしかなく、動かない場合や動力が足りない場合は、魔石が使われる仕組みになっていている。過去に何度か実験し、撮影が途切れることはないようになっているそうだ」

「なんでまた、そんなことを」


 魔石でいいじゃないか。環境にも配慮したエネルギー……かどうか、ちょっと分からんなー。気にしたことないから。あ、でもモノによっては、魔力がない人が近づいたら死ぬような魔石もあるから、風車のほうがいいのか。


「貧しい街にも、普及させたかったらしい」

「魔石は盗まれる可能性があるからか……でも監視カメラ本体もまだまだ高価だよな」

「今はな。そのうち、安価で転売しても割に合わない素材で作る予定だったそうだ」

「いろいろとやりたいことが、あったんだな」


 残念ながら叶わなかったが。


「撮影はされているけれど、何も映っていないということは、細工されているのでは?」

「そうかも知れないが、事件当時、建物内にいた人間は全員怪しいということで、映像調査に関して調査協力を持ちかけられないから」

「ソレは別に侯爵の事件じゃなくても……だよな。長官が許すわけないよなあ」

「たしかに長官が正しいな。それで、監視カメラといえばお前だろ」

「わたしは監視カメラではなく千里眼魔法だ、原理とか全く違う……と思うぞ」

「映像の判別は得意だろ」

「勝手に得意にしないでいただきたい……まあ、オルタナよりは得意だろうけど。わたしも見たいと思ってたから、引き受けるよ」


 それに前世の記憶があるんで、どうにかなるだろ……ならなくても、気にしないけど。


「副参事官……あっ、エリニュス主幹を捕まえてくださったんですね」


 動画解析室書かれた紙が、ドアに貼り付けられただけの部屋につれて行かれた。動画は機関の正式な証拠として採用されていないので、急遽誂えられただけの部屋だというのが、よく分かる作りだ。


「おう。こいつなら、なにか見つけてくれるだろう」


 期待値を上げんな。監視カメラの映像を確認していた、調査員たちの、画像見すぎて血走り、徹夜続きで瞳孔どころか、なにか違う世界の扉が開きかけた瞳で見つめられても困る。


「白骨も用意しておいた」

「別に用意しなくても」


 白骨をベースに分体を作るのは、クラフトというか丁寧な暮らしっていうか、バベルの塔にいっぱい転がってたから再利用精神というか、子供の頃の遊び道具というか……ただ出来ることを、好き勝手していただけなんで。


 なにもないところから、分体を作るなんて余裕ですよ。知ってるくせに、こういうことするんだよなあ、オルタナって。


 動画再生用機の操作方法を習い――パソコンに近い操作方法だったから、わりと簡単だった。

 わたしが侯爵の立場だとしても、パソコンに近い操作感覚にすると思うよ。


『俺はヴェデリオン・パールス事件の資料を探してみる』

『わかった』


 心の中で中指を立ててオルクスを見送り、再生用パソコンのタッチパッドとおぼしき四角いところに指を伸ばして、カーソルの動きを確認してから、監視カメラの映像を凝視し続けていた捜査員たちに仮眠を与え――まったくの余談なんだが、捜査員というのは分かり易く言うと「下級」で、調査官は「上級」を指す。

 上級は捜査に関わる全ての権能を使えるが、下級は制限がある。

 上級に上がるためには、数々の試験をクリアしなくてはならない。わたし? 最初から上級だった。魔法でごり押し。バビロンって他の国よりも、魔法を使う頻度が高いから、魔法を使うが得意なのさ。


 白骨を使う必要を感じなかったので、室内で白骨とともに一人寂しく、注意深く映像を見ていたら、


「……ん?」


 おや? 影の動きが……気のせいか? 戻して……いま画像がおかしかった。廊下の窓に入り込んでいる、風車の陰の動きがおかしい。一定のリズムを保っていた陰が、急におかしな動きを……


 録画画像の一部が切り取られ、そこに画像を貼り付けてるんだ!


 コピペじゃないか!

 なんでこの不自然さに、みんな気づかないんだよ!

 いや、動画資料黎明期……どころか、まだ始まってもいないような時期だから、気づかなくてもおかしくないな。

 わたしのように、動画を見慣れている人間なら、すぐに気づけるけど、この世界の人は違うからな。

 千里眼は……ちょっと仕組みが違うから、現時点では、これは前世の世界の動画を見慣れている人じゃないと、気づかないかもしれない。


 というか、編集機材にコピペ機能を付けちゃったの?

 悪用されちゃうよ? 実際もう悪用されてるし。


 これ、見られたくない部分を切り抜いて、見られてもいい部分をコピーして貼り付けたんだろうけど、影まで気付かなかったんだろうな。


 黎明期あるあるだよね。


 でも、切り取るのは分かるけど、貼り付けはどうしてだ?

 みんな初心者だから、切り取っただけで事足りるというか……仕方ないので、録画再生機の説明書を読む。最初から読んでおけよ? わたし困った時にしか、説明書読まないタイプなんで。フィーリングで動くうちは、そのまま使い続ける流儀。


 ぺらぺら……と説明書を捲っていたら、


「録画は一日単位。録画が一日の時間に満たない場合は警告音が鳴る……」


 そっか! カットして繋ぐだけだと、一日の録画時間が足りなくなって、エラー音が鳴り響くのか。

 ちなみに14:00で一日カウントリセット。

 深夜の24:00に一日の録画映像が間違っていないかどうか? するよりかは、昼間にすぐ調査できるようにしていたほうが、効率はいいもんな。


 記録映像をカットして改竄されるのを防ぐつもりだったのか、侯爵は。……でも、なんでコピペ機能を搭載したん?

 なければ画像を改竄されることはなかったのに。それとも、後で改竄機能を持った再生機を作られるくらいなら、最初から作って、対処方法を広めようとしたのか……当人が殺害されたから、聞くことはできないけれど。


「説明書のどこかに、コピペについて書いてないか……どこだ? あれか? 契約書の大事なことはフォントサイズ最少で、みたいな作りなのか?」


 ぶつぶつ言いながら説明書を読み進めていたら、普通に書いてた…………最初から読んでいたら、カットされたとかコピーされたとか、すぐに気付いたのに。わたしの馬鹿!



 この失敗を経たことで、説明書を最初に読む……ということはない!



 なんにせよ誰かが機材に触れて、記録映像に手を加えたということだ。そしてこの映像は、わたしが現場に駆けつけて結界を張って以来、あの邸では誰も映像に手を加えていない。


 ……微かに残っていた血液はそういうこと(・・・・・・)か。


「あー。何となく分かってきた……が、残念だ。退庁時間目前だ」


 成果だけ報告して帰ろう――急拵えの映像解析室を出るとともに封印をしてオルタナの元へ。



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