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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第三章・正義の亡霊

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【06】

「その覚書が見つかったのはこちらです」


 次は侯爵の寝室へ……布団だった。絨毯が敷かれた床に、綿が詰まった布団を敷くタイプの寝具。

 聞けば最初、機関調査員はここが何の部屋か分からなかったそうだ。

 この世界はベッドがスタンダードだから、そりゃ吃驚するよな。床に直接寝具を置くとか、貧乏人のそれだ。

 まさか金持ちが家で野宿スタイルとか、想像もしねえよ。

 万年床ではなく、布団は畳まれていたが、頭側の両サイドと思しき床に、書類の束が詰まれていた。


「ほとんど、事件に関係ない、商品開発や内政関連だな。有意義な覚書とか、残ってない……よな」


 あったら、オルタナが渡してくるだろうからなあ。第一室と第二室が担当しているんだから、見落としはないよな。


「ないですね」


 やっぱり。

 とりあえず、この十年前の感電死やその他の情報が、どうやって集まったのかは分かった。

 目安箱か告解室スタイルかの、どちらかで情報を集めて十件集まった。それらを精査した結果が三件。


 精査方法は機関の資料室から……他に方法がないのは分かるし、違法じゃないらしいから、文句は言えないけど。


「それにしても、どうして侯爵の邸に入り込んで、殺害しようとしたんだろうな」

「それが一番の謎ですよね」


 侯爵の邸は、防犯意識が高い――殺されてしまった侯爵に対しての嫌味などではなく、本当に防犯意識は高いし、関連の魔道具も揃っている。


「侯爵が邸から一歩も出ない人なら分かるが、頻繁に街に出てカフェに立ち寄ったりしている。殺害するなら、外のほうが余程簡単だ。逃亡に関しても」


 物取りなら分かるけど、金は盗まれてはいない。宝飾品に関しては「転生者、キラキラしたものキライ」をしっかりと踏襲していて、ほとんど持っていなかった。


 わたしは、キラキラしたものが好きなので、転生者としては失格だと思う。


 侯爵の部屋には、設計図はあったと技術者が証言しているが、現場検証ではみつからなかった。ただ爆発で失われているか、盗まれたかのかは分からない。


「邸に侵入したのだから、なにか盗みたいものがあったの……のか? なにか盗まれていたのか?」

「最近開発していて、ほぼ完成した魔道具は、盗まれていなかったそうです」

「なんだ?」

「超小型の映像録画機です」


 小型カメラがついに魔道具になったのか! わたしは自分の視覚記憶を、自分の分体に保存できるから、特に必要ないけど、この世界でついに実現化させたのか!


「どこにあったんだ?」

「ユセリラルダ侯爵が殺害された部屋にありました」

「へえ。もしかして犯人、見逃した?」

「そうかもしれません。部屋の棚に置かれたオブジェに、小型録画機が隠されていました」

「それは確認しておくか……あれ、もしかして小型録画機って動いてた?」

「それは分かりません」

「そっか。稼働していたら、犯人が撮影されていたかも知れないな」

「犯人が映っていたら、捜査()楽になりますね」

「まあな。それを長官が証拠として、採用してくれるかどうかは分からないが」

「…………」

「いい表情だ」


 侯爵の邸をあとにして、本部に戻り――


***********


 調査機関本部戻ると、オルタナが待ち構えていた。


「エリニュス、良いところに来た」

「調査は終わりだ、帰る」

「まだ終業時間まで、時間あるだろうが」

「残念ながらあるなー」

「次の仕事だが」

「今日の一件、まだ全然片付いてないから。案件を複数抱えさせないよう仕事を割り振りするのが、上官の仕事ってもんだろ」


 本当に片付いてないんでね!


「お前にやって欲しいのは」

「話聞いてねえな、こいつ」


 わたしは帰って星空を眺めながら、酒を飲むんだ!


「副参事官、お客さまよ。あら? エリニュスちゃん、お帰りなさい」

「ただ今帰りましたとも! ほら、客だって」

「客って誰だ?」

「ヨトラコル伯爵シャサイアさまよ」


 ん……ヨトラコル伯爵シャサイアって、機関の前長官じゃないか!


「へえ……珍しいな」

「ほんとよねえ。そのヨトラコル伯爵が、副参事官に会いたいんだって」


 冤罪事件の責任とって引責辞任して以来、機関に関わらないようにしているって聞いたんだけど、侯爵が死んだ一件で黙ってられなくなったのかな。


「お前も来るか、エリニュス」

「喜んで!」

「珍しいな」

「ちょっと聞きたいことも、あったんで」

「そうか。会わせてやるから、その後に仕事を引き受けろよ」

「それとこれは、関係ねぇなあ」


 そんなことをグダグダと言いながら、オルタナの後をついて小さな会議室へ。殺風景でなにもない部屋にいたのは、


「久しぶりだな、タナトス」

「お久しぶりです」


 佇まいが貴族以外の何物でもない人物が立っていた――その両サイドにはお付きが二人。

 カラブリア貴族は、常時お付きを最低でも二人伴うという決まりがある。基本貴族というのは、お付きがいるけど、カラブリア貴族は最低二人という慣習があって、それを守らないと「あそこのお家、なってないわ」と噂されるらしいよ。


「お座りください」


 オルタナが座るように促し――


「そちらは?」

「これが以前話した、リビティーナーリウスのエリニュスです」

「……ああ、あの迷宮喰いと呼ばれる、一流の冒険者か」

「ばらしたのか」

「隠していることじゃないだろう」

「ここでは、か弱いエリニュスちゃんする予定だったんだぞ」

「それは無理があるだろ」

「お前さえいなければ!」


 オルタナがいるのは、本当に予想外だったんだよ。オルタナのこと占えば分かったのでは? なんでオルタナのことを占わなけりゃならんのだ。

 こいつ自体に興味は……ないとは言わないが、本人がどこにいるかなんて、興味ないんだよ。


 わたしがこいつに対してある興味は、どうしたら殺せるのかな? だけだ。あ、断っておくけど、恨んでるわけじゃないから。殺意もないよ。ただ、こいつを殺せたら、地上の生物は全部殺せると思い研究していた……のだけれど、長官見たんで少し方向転換しているところです。


 長官とかなんの冗談だよ。世界は広いな、大きいな、神秘だな。


「初めまして。ヨトラコル伯爵シャサイアという」


 要らないことを考えていたら、ヨトラコル伯爵から挨拶が。ここは公的機関勤めの社会人として、挨拶を返すべきだ。


「初めまして。リビティーナーリウスのエリニュスです。ファンタズマとも呼ばれます」

「オルクスも勝てないという、ファンタズマか」

「別に勝負したことは、ありませんよ」

「本体同士ではな。分体じゃあ、しょっちゅうやるじゃないか」

「それは、お前がわたしの攻略の邪魔をしているから、すり潰しただけだ……あとは、分かるな?」


 攻略の邪魔以外で分体をつぶしたのは、三年前にカラブリアに来たとき。勝手にコスパ・ジタンをばらしていた腹いせに、バベルの塔でサルコファガス(技名)しただけだ。


「文句なく強いんですよ。本人は認めませんが」

「わたしはバベルの塔に特化しているだけですから。塔の外では、こいつとはまったく勝負になりません」

「自分をよく理解しているのも、才能です」


 まじでバベルの塔外ではこいつに勝てんのよ。わたしのサルコファガスって術は、バベルの塔を使う術だから――こいつの分体を一つ壊すには、そのくらいのエネルギーが必要なんで。


 ちなみにサルコファガスは迷宮のエネルギーを使って、敵を圧死させる技で、どんな迷宮でも使えるし、圧死ギリギリにすることもできる。ドロクローの迷宮でも使ったけどね。


「こいつは、塔だろうが外だろうが、同じ成果を出せます。竜への備えなら、断然こいつです。なんで本体を招いたのかは、知りませんけど」


 竜を殺すだけならオルタナの分体で充分だと思うんだけどな――と思ったんだが”なんで本体を招いたのかは、知りませんけど”と言ったら、ヨトラコル伯爵は困ったような表情を浮かべた。


 あ、これ、伯爵が本体を希望したんじゃないんだ。分体料金で、これ(本体)が来たんだ。


 それはそれで、絶望だな……。この話題は触れないでおこう。


「領地に帰っていたのだ」


 それでヨトラコル伯爵のが訪問した理由を語り始めた。

 ヨトラコル伯爵は普段、王都の一角にある小さな邸に住んでいるが、領地を所有しているので、そちらにも足を運ばなくてはならないのだとか。

 貴族って大変だね。


「実は半年ほど前に、殿下……ユセリラルダ侯爵閣下からとある事件について、情報提供を求められたのだ」

「は?」

「ほ?」


 ヨトラコル伯爵の言葉は意外なものだった。前の長官が調査関係から、一切手を引いていることは、わたしでも知っている。

 侯爵だって知っていたはずだ。

 それなのに、わざわざヨトラコル伯爵に尋ねるということは、それなりの理由があるってことだよね。


「わたしの自宅を訪れた。それも単身で」


 先ほどから続く「困った表情」


「いきなりやってきた? のですか?」

「そうだ。わたしが長官だった頃にも、何度か単身で訪れたことがあった」

「貴族の慣習を守らないお方なんですね」


 「お方」なんて、バビロンじゃあバカにするときしか使わないけどな……あ、もしかしてバカにしてるのか? オルタナ。

 弱いやつがお供もなしに出歩くって、バカのすることだよね。

 でも護衛いても、殺されちゃったけど。


「まあな。理由はいろいろとあったようだが、貴族らしくないといえば貴族らしくないな」

「王族は人を連れて歩かないとか?」

「王族の頃は、冷遇されていたので、召使もろくにいなかったそうだから、そのころの名残なのかもな」


 それもあるとは思うけど、間違いなく前世の記憶のせいだと思うよ。


 ヨトラコル伯爵はいきなりやってきた侯爵を、門前払いせず――


「元王女殿下を門前払いするなど、できるわけがない」


 ”元”だから、門前払いしてもいいような気もするけど、まともな貴族ならそういうことしないんだろな。侯爵の元婚約者とかは、当時の王女相手にしでかしてたけどな!


 なんで知ってるのかって? そりゃ、小説にもなってるからね。


 ”真実の愛とはなんでしょうか?”というタイトルで出版されていて、カラブリア王国ではベストセラーだよ。人気作家は転生者ムーヴの基本だからね! 他国でも購入可能。ユセリラルダ侯爵の商会で取り扱っているよ! わたしも買ったよ! 


「ユセリラルダさまが訪問した理由は、とある事件について。三十年ほど前に起こった事件で、わたしも詳しいことは知らない一件だった」


 魔力が高い人は容姿に出ないので、見た目で年齢を判断するのは実に難しい。そして目の前にいるヨトラコル伯爵は、かなり魔力が高い。

 わたしの記憶では、この人の不肖の弟が、かつてカラブリア王国ではもっとも魔力が高かったはず。


 なんで不肖の弟かって? そりゃあ、ユセリラルダ侯爵を断罪した愚かな男五人衆のうちの一人だからだよ。

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