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過日の亡霊――転生冒険者と死亡した転生元王女。ただし転生冒険者は現在副業中  作者: 剣崎月
第三章・正義の亡霊

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【03】

 証拠保管庫に結界を張るという一仕事してから所属の第四室に顔を出す。


「帰還したよ。はい報告書」


 報告書は帰りの魔道列車でまとめてきた。

 行きと同じく帰りの魔道列車も、似たようなところで停車したよ――巨大生物との激突での遅延は、前世も含めて慣れたものだけど。


 前世のわたしは田舎に住んでたから。ちょくちょく鹿とか猪とか熊とかぶつかって、電車が停車していたんだよ。


 そんな遠い過去を思い出しながら、秘書官に報告書を手渡す。


「お疲れさま、エリニュスちゃん。そしてオルクス副参事が第三室に来るようにって」

「えー命令?」

「そう、命令なのよ。行ってくれる?」

「行ってくる」


 オネエ秘書官を困らせるつもりはないので――いやいや第三室のドアを開けると、中二階の個室ではなく共有フロアにオルタナがいた。


「ご苦労。次は隣国との国境付近の……あー、おまえ、来週から休暇か」


 新しい仕事を振ろうとしたが、壁に貼られている、部下たちの勤務表と照らし合わせて、


「そうだ」


 国境近くに送るには時間が足りないと判断された。

 エルトハルト長官の働き方改革で、休みは必ず取らなくてはならなくなった。休みを取らないと、懲罰対象になる。


 うちの長官は性格はアレで融通はきかないけど、働き方そのものに対しては休みを重視するタイプで、さらに決まりごとは遵守する人なので――


「じゃあ、王都内の案件にするか」

「遠くでもいいぞ。出張先で休暇に入って、休暇終わったあとに調査続けるぞ」


 書類を見たら、出張先は風光明媚な保養地だから、きっと空が綺麗だ。いいよね青空って。雲一つ無い青空もいいけれど、所々に白い雲があるのも。その雲が薄かったり濃かったり、陰翳もいいし、もちろん分厚い雲から光が差し込む、天使降臨みたいなのも最高だよな。


「公費で旅行するんじゃねえ」

「不可抗力ってやつだ」


 往復の旅費が浮くと、ちょっとリッチな旅ができる。金持ってないのか? いや、あるにはあるよ。


「誰が許可するか」


 オルタナは書類を戻した。


「副参事官もやってるよなあ」

「それはそうだが」


 お前もやってるじゃないか、オルクス・バベル・ウィルトゥース・タナトスよ!


「お前にも、ユセリラルダ侯爵の調査に関わってもらう」

「え? 第一室と第二室がやってるんよな? 人が多けりゃいいってもんでもないだろ」


 人海戦術が正義な場合もあるが、今回はそうじゃないと思うんだ。


「場所を移動する。ついてこい」


 こうして共有フロアからオルタナの個人スペースにつれて行かれ――わざとらしいな、おい。最初から侯爵の事件振ること確定してたんだろうが。


「ちなみに、犯人の目星は?」

「目星というほどではないが、怪しいやつが一人、捜査線上に浮かんではいる」


 犯人にまったくたどり着けないなんてことは、ないだろうから……でも「怪しいやつ」ってなんだ?


「怪しいだけ?」

「そうだ」

「監視カメラの映像解析してないのか? もしかして、邸の監視カメラは形だけ(ダミー)だったのか?」


 オルタナは頭を振る。


「偽物ではなかった。だが映像に映っていなかった」

「あ……まあ、死角をつく程度の頭脳はあったか。それって内部犯って可能性を高めるだけだけどな」


 やっぱり対策してたか。

 まあな、わざわざ邸に入り込んでまで殺害するくらいだ。殺害計画の一環として綿密な侵入計画くらいあっただろう。


「第一室と第二室は犯人を探しているわけだが」

「当たり前のことを言いだしたけど、大丈夫か?」


 殺人犯を捜すのが、機関の調査官の仕事なので。


「明確な証拠が見つかっていないこの時点で、調査対象を絞り込むのは、冤罪を生む恐れがある」

「ただでさえ、冤罪を引き起こしやすい土壌だもんなあ、カラブリアは」

「そうだ。だから、長官はほかの角度からも、調査をしたいと考え、視点が貴族でもなければ、カラブリア人でもない俺たちに目を付けた」


 たしかに、長官から先ほども言われたが。視点がそんなに違うのか? あまり感じたことはないけれど。


「腕に覚えはあるな?」

「唐突になに? 覚えなんてないですよ。南と一緒にすんな。わたしは平和な北出身です」

「決まりとして聞いただけだ。リビティーナーリウス一家(クラン)に、腕に覚えがない奴なんて、いるわけないだろが」

「ウィルトゥース一家(クラン)に言われるのは。うちはあくまでも葬儀屋だ」


 わたしが所属しているのは、バベルの塔で死体を回収して葬儀を出すのがメインのクランだが、オルタナが所属しているウィルトゥースはバベルの塔攻略がメインのクランで、戦闘力がそれはもう高い。

 一人で一国の軍みたいなのが、ごろごろ。そりゃもうごろごろ。無造作に掴んでも一国の軍を相手取れるわ、勝てるわ。


「好きにほざいてろ。侯爵の殺害方法程度(・・)なら”かわせる”な?」

「あの程度で死んでたら、バベルの塔の第一階層も攻略できないだろうが」


 迷宮都市バビロンに存在するクランに入る条件はただ一つ。単身でバベルの塔の二百階層を踏破。一応わたしも二百階層は単身でクリアしているので、あの程度の爆破なら……まあ。


 冒険者目線で言えば「あの程度で死ぬとか、冗談だろう」としか。普通の人目線で言えば「魔力が低いから死んでも仕方ないか」だけど。


「まあな。ただ敵の実力が分からない以上、絶対の実力を持ってる奴に、単独任務を振りたい」


 敵とか言っちゃってる。ここで言うなら、被疑者とか犯人とかだよ。敵だと殺す相手だよ。根が冒険者だから、ついつい言っちゃうのは分かるけど。


「分かった。それで?」


 オルタナが机の書類を差し出してきたので、手に取って目を通す。


「十年前の街灯整備不良による感電死。…………これのどこに問題が?」


 今から十年前、雨の日の夜に王都のやや外れを、独りで歩いていた男性が感電死した。

 原因は街灯の整備不良――整備魔道師は、執行猶予六ヶ月が言い渡された。


 報告書に目を通しても、どこにも違和感はない。


「正直分からん」

「分からないとは?」

「なにもかもだ」

「…………上官にいう台詞じゃないけど、説明もできない仕事振るとか、頭大丈夫か? 必要なら脳を作ってはめ込んでやるぞ」

「お前が作った脳とか、それはもう、ただのお前だろうが。本体を乗っ取られるだけだろうが」

「で、これに関しても、何も分からないのか?」

「ああ」

「よく真顔で言えるな。美形だからって、なんでも許されると思うなよ、オルクス・バベル・ウィルトゥース・タナトス」


 わたしは知っている。

 こいつ、機関の女性職員にもてていることを! こいつだけは止めておけと思うのだが、みんな「わたしだけには優しいや〇ざ」状態で騙されてる。

 こいつは優しくはない。いや、優しいさ。ほんとや〇ざそのもので、自分に利をもたらすなら、幾らでも優しい言葉を吐くし寝るし、目が覚めたらベッドにいなくて、良い香りがしてきて、朝食作って最高の朝を演出する男であることも!



 朝食作るとか、ほんと、人間に擬態するの巧いな! 一応人間だけどさ!



 でもこいつ、本当に! 本当に! やめとけ! ……まあ良いけどね。いやー、機関にやってきた当初、忠告したら恨み買ってさあ、その女性職員から嫌がらせされちゃって。以来、ほっといてる。


 嫌がらせにどう対処したか? そりゃあ、オルタナに「お前の情婦の一人、どうにかしろよ」って――その後は知らないけど、退職したなあ。


 何したんだろうなあ、オルタナ。いや、まあ知らんけど。知る気もないけど。


「お前も上官相手に、よく言うな。優秀じゃなかったら、とっくに降格だぞ」


 なんでオルタナが女に優しいところを知ってるのかって? そりゃあ、ウィルトゥースの面々が話してたからだよ。あいつらと組むこともあるんで。

 朝食については、カラブリアに来てから知った。要らない知識だけど。


 そのうち、オルタナが女をだましているところ、覗いてみようと思ってる。ちょっと命がけだけど。


「降格されても、とくに問題はないな」

「だろうな。長官ですら、お前のその口のきき方を許してるんだから、仕方ねえなあ」

「長官、許してたんか」

「許してるだろう……話を戻すが、ユセリラルダ侯爵の寝室に残っていた覚書だ」


 すっと差し出されたメモ。本当に一枚の覚書だった。


「寝室に事件関連の覚書があったから、なにか手がかりになるかもしれない……ということで?」

「そうだ」

「これだけ?」

「いいや、他に二件の覚書があった。溺死と爆死だ。どちらも魔道具の暴発」

「魔道具の暴発、多いな」

「そうだな。どの事件も十年ほど昔のものだが、侯爵には調査できる”あて”があったんだろう。カラブリアという国は、そういう所が緩いからな」


 貴族なら調査機関にも簡単に出入りできて、情報も入手できるような状況だった。その結果が、大多数の貴族が犯罪に関与して……カラブリアの調査機関は大打撃。とくに国際社会から「お前のところの調査って、調査じゃないだろ」と。


 国際社会から散々叩かれ――前の機関長官は一切悪いことをしていなかったのだが、冤罪を作っていた構造のトップということで、本人が責任を取って辞任。

 新しい長官をどうするか? となったとき、他国が「お前の国の貴族をトップに据えるな」と言い出した。

 内政干渉? と思われそうだが、この世界は「犯罪を犯した国で裁かれる」仕組みになっている。外国の人でも、容赦なく裁けるのだが、カラブリア王国は目も当てられないほどに、国内貴族の罪を外国の人になすりつけていた。


 国際法の悪用極まれり――


 それでこの国の人間は信頼できないとなり、国際社会が選んだ長官がエシュヌンナ王国のラッカンネール・エルトハルト。


 世界中が「こいつの辞書に融通などない」と認めた長官。

 当然ながらカラブリア王国の闇を曝いた英雄であるユセリラルダ侯爵に対しても、一切考慮せず。


 でも協力しちゃう奴がいるらしい……機関の所員ではない。

 カラブリア出身の所員たちは、自分たちがいつも疑われることを理解しているので襟を正しているし、それ以外の王国出身者はカラブリア人をやや疑って見ている。


「カラブリアの英雄がどこから情報を入手していたか? を調べるのも必要になりそうだな」

「そうだな」


「…………」

「…………」


 口頭で命令は出さないが、調べろと――


「それでは調査しに行ってきます」

「周りに気を付けろよ」

「餌としての役割も忘れぬよう、外回りしてきます」

「お前も俺同様、餌にはならねえよ。怪しい奴を見かけたら、分体で追えって言ってんだよ」


 いや、そんなことはない。わたしは、か弱い女性にしか見えないはずだ、カラブリア王国では。

 故郷では言われなき強さで語られているが。わたしは強くない、強くない――おまえらが弱いだけだ。

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