【02】
そんな話をしながら、所員や調査官たちが目をそらすなか、長官室に連れ込まれた。長官の部屋は、いかにも王侯らしい部屋で、ぴっかぴっかのギラギラで絵画飾りまくりである。
説明を放り投げているようで申し訳ないのだが、実際そうなんで。追加でいうと、カーテンはドレープがドレープして、ドレープしまくってる。
そんな豪華な部屋で、長官が魔法を解き、椅子に腰かける。
ん? おや、ぴっかぴっかの部屋に似つかわしくない、シンプルな包装紙に包まれた四角いやつが、ぎっちぎちに陶器が並んでいる棚に乗ってる。
「エリニュス、お前は相当細かく結界の設定ができるそうだな……ん? どうした」
「あの四角いの、長官の部屋には似合わないなと思いまして?」
指さすと、長官が「思い出させるな、馬鹿者が」としか表現できない表情になった。
あれ? わたし、なんかしちゃいました?
「あれは、ユセリラルダ侯爵から送られてきたものだ」
「はあ……そりゃあ……」
そういう表情になるよね。長官室にいた筆頭秘書官の表情は変わらないけど。この人、本当に表情変わらない人だよなあ。
よくよく見たら、荷物受け取り係の封印が、そのまま残ってる。
「……お前なら未開封印をそのままにしたまま、中身がなにか分かるか?」
長官もできるんだろうが、この人が検索したら、受け取り封印(魔力微弱)も解けるんだよなあ。いや、解けてもよさそうだけど。
「中身が気になるのなら、開けたらどうですか?」
「開封するつもりはない……いや、なかった」
「ではどうするおつもりで?」
「判断を迷っているところだ」
親族に返すにも、侯爵の親族はアレだからなあ、アレだからなあ、真実の愛だからなあ。
「殺害された三日後に、わたしと会談する予定だった」
「へぇー、なにか、大きな冤罪事件でも持ち込まれるつもりだったんでしょうか?」
「さあな。間を取り持ったクアルバーグも、詳細は知らんようだ」
侯爵がダイレクトに長官との会談やりとりはないよな。間にクアルバーグ参事官が入るのは当然か。でも会談内容は知らない……と。
「そうなんですか? 手土産を先に送ったってことですかね?」
「それは手土産ではなかろう。これはただの荷物だ」
持参するのが手土産だから、たしかに違うな。
「それはそうですね……中身ですけれど、魔道具っぽいですよ」
「っぽいとは?」
「見たことない形なんで」
長官には見たことない形と言ったが、前世で似たような形状は見たことがある。サッカーのワールドカップトロフィーに酷似してる。でも説明のしようがない。
まじでトロフィー……ってことはないよな。
「魔道具ではないかとは思っていたが」
「そうですよね。魔力の動き、ありますもんね」
魔石が用いられている。おそらく荷物の受け取りの際に、魔石が同封されている旨は記載されているだろう。機関では魔石は許可なく持ち込めないようになっているので。
「よく封印を解かずに、そこまで視れるものだな」
「魔力を絞るのは得意なんで」
「それについても、オルクスから聞いているが」
あいつ、わたしについて、べらべら喋ってくれるな。こっちは、めったにお前のこと、話さないってのに。
「聞いてるんですか」
「そうだ。ところで、お前はどうして、少量の魔力で魔法を使うとするのだ?」
魔力の絶対勝者からしたら、不思議だよなあ。
前世の記憶でついついコスパを意識してしまい……あと、なんか魔力切れを起こしても、強い魔法を使えると恰好いいような気がしたんです。
前世を思い出した奴の数十名に一人が陥る、中二病の極みってやつですよ。こじらせる前に離脱できて良かった! ……できたと思いたい。
「どこまで少量の魔力でやれるか? を試してみたくて」
もちろん、そんな説明はできない。
「変わり者だな」
「そうですね」
「こんど詳しく説明してもらう」
なんで! 長官興味あるの?
「このような結界を張れるか?」
そして当初の目的、結界についてルミルレットーバ首席秘書官から仕様書を受け取り目を通す。
えっと、長官と参事官、副参事官に首席秘書官は証拠品を持ち出すことが出来るが、その他の調査に携わっている調査官は、上記の四人のうち二名から許可を取る必要がある。
証拠品保存庫で火災、氷結、水害、放電等、証拠品の破損が起こらないように組む。
事件担当者以外は、立ち入り禁止は当たり前。
「できるか?」
「できますけど。一応対処できる分は対処しておきますが、なにがあるか分からないので、千里眼をおいておきますね。長官が見たい時に見られるようにしましょうか?」
「作れるのであれば」
「はい。あとはルミルレットーバ首席秘書官には、異変があった場合は通知が届くようにしときますね。通知は音がいいですか? 光がいいですか? それとも振動にしますか?」
「全部は可能か?」
「大丈夫ですよ。ではそのように設定します」
「全てを希望しておきながら聞くのもおかしいが、どのように通知が届くのだ?」
「どちらも魔石を細工して、簡易的な魔道具にします。千里眼のほうは魔石に長官が魔力を注げば、画面が空中に展開して見られるようにします。ルミルレットーバ首席秘書官のほうは、魔石が光って音を出して震えるようにします。警告光は何色がいいですか?」
魔石を調達してーと思っていたら、ルミルレットーバ首席秘書官が胸元のポケットから、純聖石のペンダントを取り出してきた。
純聖石って魔石の中でも高ランクで、ルミルレットーバ首席秘書官が取り出したのは質もよい。
「エルトハルト長官用の細工はこちらに」
「あ、はい」
ルミルレットーバ筆頭秘書官なら、純聖石で問題ないが、長官はどうだろう……。
「エリニュス。わたしとルミルレットーバ、両者が見られるようにはできないのか?」
「できますけど」
「ではそのように。それと、警告光も組み込めるか」
「これだけ質の良い純聖石なら、やってできないこともありませんが、長官の魔力に耐えられず壊れる場合も考慮して、別にするべきですよ」
普通は壊れないけどね。
純聖石に魔力流して壊すのはできるけど、それはやろうと思ってのことだから。魔道具として使用する際に魔力を流したら吹っ飛ぶとか、そうそうないからな! でも長官の魔力なら、その恐れも考慮しなくてはならない。
「それに関しては、わたしもエリニュスと同意見です」
さすが長官の魔力について詳しいルミルレットーバ首席秘書官。
魔力を流さずとも見られるようにはできないのか? 魔石がベースだから出来るけど、固有魔力を流す仕組みは、スマホの指紋承認みたいなもの。魔石の魔力で誰でも見られたら、証拠品保管庫封印の意味がない。
指紋にしたら? 機関の制服は手袋が標準装備なので、咄嗟に使えないのは最初から却下だな。
「そうか。では、別々にそして予備も幾つか作れ」
「はい」
業務内のことなので、ルミルレットーバ首席秘書官が持っていた自前の純聖石の他は、機関の備品を使用し――証拠品保管庫を覗ける仕組みの魔石を長官用に五個作ったが、その日のうちに二個壊れてしまった。
報告はないけれど、壊れたらわたしに通知がくるようにしてたから。もうちょっと、こう、魔力の流し方を優しく……いや、優しくした結果がこれだな。
長官がユセリラルダ侯爵の魔道具にまったく興味を示さないわけだ。
ユセリラルダ侯爵の商会が扱っている商品は、ほとんどが魔力が低い人でも使えるというもの。
もちろん高魔力の人も使えるようには作られているが、長官はその設定から完全に外れている。
わたしも商会の魔道具を一つ購入して確認したが、メインターゲットの魔力は数値的に10前後。そして高魔力は億くらいを想定していた。あくまでも私的数値換算だけど。
それで長官の魔力なんだけど、破壊された先ほどの魔石を、簡易的に調べたけど、加減しても阿僧祇くらいはあるな(私的換算)
本人が魔力が高いことを自覚している場合、魔道具に触る時は絞るものなんだが……それで那由他の一歩手前という無法さ。
そんな長官が使用する魔道具は、当然ならが全て職人の一点ものである。
大変そうに思えるかもしれないが、最初から低魔力(一般的高魔力含む)回路を排除して作るので、意外と作りやすい。
わたしも高魔力所有者向けの魔道具を作るから分かるんだ。ちなみに、一点もの高魔力所有者の魔道具を作っていることがバレているので、こうして長官やルミルレットーバ筆頭秘書官から、調査に必要な魔道具作成を命じられるわけ。
バラしたやつ? オルタナ以外に居るはずがない。まったく、あいつときたら。
ちなみにバビロンで展開している、ユセリラルダ侯爵の商会だが長官と同じく魔力の問題で、バビロンのクラン団員たちには浸透しない。
あいつらも長官には劣るとは言え、ふざけた魔力の持ち主だ。
ユセリラルダ侯爵の商会の魔道具は、あいつらにかかれば大蚊の足よりも脆い。わたしはそんな奴ら相手に魔道具を作って、交換条件でいろいろと欲しいものを入手している。
バビロン在住、クランに対し圧倒的な信頼と実績を持つ特級魔道具師コスパ・ジタンとはわたしのことだ……あーもう! コスパと時短を念頭に置いて作って、口癖のように言っていた結果「魔道具師の時に名乗ってる」と誤解されてしまった。ああ! もう! 前世の記憶!!
……というわけで? わたしは高魔力所有者の魔道具作りに慣れているんだが、長官の前には無力だった。
いつも作ってるのに、壊れるのか?
いつもは長官から命令があって、ルミルレットーバ筆頭秘書官が使用という流れだったんだが――長官本人も魔道具破壊の達人であることは、理解しているらしい――今回は長官直々に使用ってことになったから、魔道具がボコボコにされてしまった
すっごいなあ、長官。でも、長官の最低限の魔力の最低量が分かったので、次回は……最低でも十個は作ろう。魔石も高純度の天金翼石を使って。




