第96階層
私は見た!
イースさんは宇宙人なんかじゃなかった!
あれは、そう、あれこそは、ダンジョン人だ!
ハーキャットさんやメイクィースさんと同じ、ダンジョンが人型を取ったモノだったのだ!!
だって本来、触れられるはずのない、メイクィースさんの手を取っていた。
そして手を取っている間、イースさんの体も、メイクィースさん同じ様に半透明に透き通っていた。
そうだ! 考えれば当たり前の事!!
ダンジョンの事を誰よりも知っている。
ダンジョンと意思疎通が可能。
ダンジョンは何ができて、どうすれば成長するのかを知っている。
そりゃ当然だ、だって自分も同じダンジョンなのだから。
なんて事だ……
彼は、ダンジョンを養殖していると言っていたそうだ。
そうして安全にダンジョンを飼って行こうと。
だが、実際は逆だ!
われわれ人間こそがダンジョンに養殖されているのだ!
今まではダンジョン同士が手を取りあう事などなかった。
エサである人を取り合う事はあっても、団結して行動する事などありえなかった。
だが、モンスターだって手を取りあう事はある。
ならば、ダンジョン同士が手を取り合う事だって起こり得ない現象ではない!
そしてダンジョンは知能の高い存在だ。
モンスター同士が協力し合って、大きな暴力になるのに対し、ダンジョン同士が協力して、人を優にこえる知能を手にした。
そうして人間を使い、ダンジョンを拡張していく。
その先には、一体、何が待っていると言うのか?
先ほど、チラッと見えた、地球を取り巻く円環。
アレは宇宙からこの地球――――大地にある全てを支配する計画の一環ではないのだろうか?
養殖した人間を使って自らの養分を集めさす。
気に入らないダンジョンも人間達を使って攻め滅ぼし、そこが溜め込んでいた魔力を自分に貢がせる。
同じ人間同士ですら、貴族だ平民だと言ってやっている事だ。
ダンジョンが真似しないと、どうして言えようか。
私は…………とんでもない真実を知ってしまった。
さっそく、その事をアクレイシス女王に伝えてみる。
「アッハッハ! いやあ、その発想はなかったよ! やるね君!!」
などと言って笑い飛ばされる。
そんな……アクレイシス女王なら分かってくれると思っていたのに。
やはり色ボケ女王では駄目だったか。
まさか、それを狙って、真っ先に女王陛下を落としていたのか……!?
クソッ、なんたる智謀。
私は危険を承知で、イースさんを護衛しているファリスさんに真実を伝えてみる。
「なるほど、そうなりましたか。いや、焚き付けたのは私なんですが…………どうしたもんでしょうかね」
などと言って、相手にしてくれない。
そ、そうだ、イースチルドレンと呼ばれている、ダンジョンの教師陣なら!
彼らは頭が良い、私の言葉で自分たちが実は騙されている事に、きっと気づくはず。
私は彼らを束ねているガーネットさんの元へ赴く。
それを彼女に伝えると、手を止めてジロッと私の方を睨み、
「ふむ…………まさか、気づいてしまわれましたか」
などと、彼女は呟く。
それは一体、どういう意味~……?
えっ、もしかして、ガーネットさん――――ガー様は、全てを知っていたと言うのか!?
知っていて、彼をサポートしていたと!
眼鏡を外した彼女は立ち上がり、私の方へにじり寄って来る。
「世の中、知らない方が幸せ、と言うのはそこそこありましてよ」
ズイッと近づけられたその顔に思わず尻餅をついて、後ずさってしまう。
「ひ……ヒィイイ~~……」
「あら、言い間違いましたわ。イース様は何者でもない、ただの人ですわ」
そうでしょ、と言って人差し指で私の顎を撫でる。
「ひ……ヒィイイ~~……ごもっともでございます~~」
「ですから、あまり妙な事を言いふらすのは感心いたしませんわね」
あなたと、あなたの大事な人のためにも。と続ける。
私は只管コクコクと頷く。
な、なんて事だ、もはや止めようのない所まで侵食している!
あの神学という学問も、この布石だったに違いない。
ああ、恐ろしい、なんという事を私は知ってしまったのだ!
好奇心は猫を殺すとも言うが、まさしくその通り。
私は生涯、この秘密をしょって生きていかなければならない。
ああ、本当の皇子様は無くなっていると言うのですら重荷なのに!
◇◆◇◆◇◆◇◆
トボトボと肩を落として、通路の向こうへ去って行くクレスフィズ皇子を見やる。
「最近、イース様の悪口を言っているそうなので、少しお灸を据える程度でしたのに……」
少々、薬が効きすぎましたかね?
しかし、イース様の正体がダンジョンですか。
あながち、的外れ、とも言い切れないんですよね。
少なくとも、なんらかの繋がりはある。
「とはいえ、イース様がどの様な存在であるかなど関係がありません、彼、いや、彼女にも分かってくれれば宜しいのですが」
それにしても、どうして女王陛下や皇子様まで、私の事を様付けで呼ぶのでしょうかね? 他の人には付けないのに。




