第56階層 平和だなって思ったら気をつけろ
「イース様、またファミュ将軍から、急いで王宮に来るようにお達しがありましたよ」
あれからオキクさんもベッドに忍び込む事もなく、ファリスさんも余計なちょっかいを出して来ない。
ただ、少々、女王様の方がウザがらみして来る様になったぐらい。
今日も平和だなと思っていた所に、そんなお達しが飛んでくる。
「平和だなって思ったら気をつけろ、ですか……」
「なんの事ですか?」
「いえ、昔の偉い人が言った言葉ですよ」
とりあえず、急いで王宮に向かう。
「我が国へ向かって数百人規模の武装した勢力が向かって来ているそうだ」
ハァ~……それは例の頭のおかしい国からですか?
「その通りだ」
その頭のおかしい国、グランサード帝国という。
前世で数百人規模なら少ない方だろうが、こっちの世界では、それだけの規模を動かせる国はほとんどない。
ただ、戦争を始めようとするなら全然足りない。
昔と違って各国の防衛力も上がっている。
「もうすぐ、そこまで来ているそうだ」
「という事は……書簡の発送と、ほぼ同時に出発されている事になりますね」
こっちは返信すらしていない訳だし。
「まあ、向こうも返答が来るとは考えてみなかったんだろう、だから人も寄越した」
「いやな予感がしますねえ」
その予感は当たったようで、その軍勢はとある物を運んでいた。
そのとある物とは、直径2メーター以上はあろうかと言う、とんでもなく巨大なダンジョンコア。
どっかのバカが、強大なる魔力を秘めたダンジョンコアと引き換えに、リニアでその国までの直通通路を引く事をお約束しているらしい。
そしてそれは当然、グランサード帝国さんにも適用される訳で。
そして作った以上は書簡も無視できない訳でありまして。
「へえ……凄いね、さすが世界の中心と豪語するだけの事はある」
と、言う事でやって来ました、グランサード帝国首都、グランファーゲン。
宮殿から見える町並みは、真夜中だと言うのに明かりが灯り、幻想的な雰囲気を醸し出している。
町並みの規模も我が国の王都の数倍はあるだろう。
さらに町並みを照らす灯りは、揺らめく炎の明かりではない。
まるで電灯の明かりの様に一定の光源を放っている。
「魔道具でしょうかね、あの灯り」
「これだけの魔道具をダンジョンから産出するのはまず無理、という事は、作っているのか魔道具を……」
「旦那が育てた子供達だって色々作っているんだ、他に出来る奴が居ないとも言いきれねえだろ」
この世界、脳筋しか居ないと思っていたのだが、さすがに超大国ともなれば、そんな奴ばかりでも無いと言う事か。
街の発展の度合いが、先進国と原始人ぐらいの差がある。
目を凝らすと、街中に鉄道らしき物も走っている。
どうりでリニアモンスターカーにさほど驚かなかった訳だ。
原理は似たような物だからな。
ただ、輸送量には感心していた。
さすがに数百人を一気にとはいかないが、2回も往復すれば全員運べる。
ここに物資まで乗せれば、これまでの戦略が大幅に変わる事は間違いない。
そりゃ欲しがる訳ですわ。
しかし、穀物の輸出を停止しろって言うのはなんなんだろな?
これだけの技術力があれば、平地で生産も可能ではないだろうか。
それとも他にオレの知らない、何か出来ない理由があるのだろうか?
そのうち、オレとアクレイシス女王は護衛と引き離されて二人だけで大広間に案内される。
奥の方には少し高くなった場所に一つの椅子が用意されている。
多分ここは謁見の間であると思われる。
何の事前知識もないのだが、いきなりこんな場所へ呼ばれても困るぞ。
暫くするとニコニコした顔で人の良さそうな王冠を被った老人が現れる。
左右に衛兵らしき兵士を引き連れて王座らしき場所へ座るその老人。
そうして口を開く。
「まずはカーラード王国の女王即位を祝おうではないか」
その老人がそう言うと、左右からどこからともなく多数の人が現れて、あれよあれよと言う間に、大広間に机を設置して料理を並べていく。
「さあ、思う存分、召し上がると良い」
しかし、見事に肉料理ばかりだな。
穀物どころか野菜の一切れすらない。
なんか裏がありそうだなこの料理。
何の挨拶も無しにいきなり始まった上に、たった二人に対して用意する量でもない。
「どうした、食べないのかね?」
相変わらずニコニコとした人の良さそうな顔でそう言ってくる。
あの顔もなんか胡散臭い。
アクレイシス女王も手を出さず、眺めているだけだ。
コイツも何かを感じているのか?
(イース君、私、リニアの中でつまみ食いしてお腹いっぱいなんだけど、どうしよう)
違ったな、うん、通常運転だったわ。
「ふ~む……ならば、こちらはどうかね?」
老人がそう言うと、別の机が運ばれてくる。
そこには色とりどりな季節のお野菜が並んでいた。
だが、そこに乗っているのは、ほんの少量。一人一皿程度。
アクレイシス女王がこれぐらいならと言って手を伸ばそうとする。
「やはり、カーラード王国は肉が人の害となっている事を知っているか」
ふと見ると、さっきまでの人の良さそうなニコニコ顔はどこへやら。
まるで極悪非道の限りを尽くしたかのような、とても恐ろしい形相でこちらを睨み付けてくる、その老人。
えっ、何? 秘密を知ったからにゃあ、帰さねえぜって事?




