第55階層
「鉄面皮はともかく、無口キャラは失敗だったのではなかろうか?」
だってアレだよ?
話しかける事が出来ないから、会話が弾まない。
会話が弾まないから親密度も上がらない。
「そうは言ってもおめえ、喋り出したら一発でバレるだろ?」
ウドゥがそんな事を言う。
「いいか、口が駄目なら体を使え、女に迫られたら大抵の男は耐えられん。散々やられた俺が保障してやる」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ある日、ベットに入ろうとしたら先客が居た。
「…………何をしているのですかオキクさん」
「…………お世話に来ました」
何の?
いや、分かる、たぶんアレだろう。
きっとファリスさんか誰かに吹き込まれたのかもしれない。
しかし……布団をめくったら無表情のお菊人形が横たわっていたらホラーでしかない。
黒目、黒髪、そして和装。
もしかして、前世の日本と関わりがあるのでは、とは思ったのだが、こっちの世界の魔道具を使いこなしている様を見ると、そうでもなさそう。
この世界にも、よくあるラノベの様に和風ステージがあるのかも知れない。
記憶喪失との事だが、あまり喋らないのでその真偽もよく分からない。
まあ、問題があるようなら、ファリスさん達が止めるだろう。
しかしコレ、どうするか?
直立不動の体制で横たわっている。
そういう事もした事はなさそう。
とりあえず、そのお世話は必要が無い事を伝える。
「私には愛する妻がおります、ですので、そういったお世話は必要ありません」
そう言うとなにやらベッドの辺りで大きな音がする。
見てみると、ベッドからオキクさんが消えている。
と、ベッドの向こうから無表情のお菊人形が顔を出して立ち上がる。こわっ。
そのお菊人形はペコリとお辞儀をしたかと思うと、速足で部屋の外へ出て行った。
分かってくれたのかな?
表情が変わらないから今一感情が読み取れない。
まあ大丈夫だろう、悪い人でもなさそうだし。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうされましたか?」
今日の護衛は私ことファリスが当番だ。
なので、アクレイシス女王、もといオキク様をイース様の寝室にぶち込んでいたのだが。
その本人が部屋から出てくるなり、座り込んで顔を覆っている。
顔を近づけてみると、イース君が私の事を、ふへ、フヘヘ……と気持ち悪い笑みを浮かべている。
これはうまくいったのだろうか? いってないのだろうか? 判断の分かれる所ですね。
「ところで、ベッドの中で待っているように言ったのですが、もしかしてそのままの服装で?」
「えっ、そりゃそうだけど?」
「何やっているんですか、マッパとは言わないまでも、もう少し肌を出しませんと」
そ、そんな事を言っても、肌を露出するなんて恥ずかしいじゃないか。などと言う。
コレはアレですかね……男装生活が長すぎた弊害かも知れませんね。
この和装というのも露出が少ない服装ですし。
もっとこう、攻める服装が必要かも知れません。
◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日、朝起きて食堂に行くと、今まで和装だったオキクさんが、露出多めのメイド服を着ていらっしゃる。
なんの罰ゲーム?
オレが隣のファリスさんに目配せをすると、
「暫くはこれで訓練です」
等と言う。
なんの訓練?
オキクさんは無表情ではあるが、なんだかプルプル震えている気がする。
イジメはダメですよ?
「そんな事より昨夜の件です。イース様、覚悟を決めた女性を追い出すなど、紳士としてあるまじき行為ですよ」
そんな事を言われましても、こっちはもう妻帯者ですよ?
一夫多妻制もあるにはあるが、王配となればまた別の話だろう。
女王様の旦那が浮気する訳にもいくめえ。
「そうとも言えませんよ、イース様はカーラード王国女王の配偶者であると同時に、クライセス家の当主でもあります」
なので、クライセス家の世継ぎを作る必要があるとかなんとか。
そう言ったファリスさんを、オキクさんが、えっ、そんなの聞いてないよ、みたいな凄い形相で見たような気がするが、気の所為かな?
すぐに無表情に戻ったからきっと気の所為だね。
「別に養子をとっても良いのですが、できるなら実子の方が良いでしょう」
ただし、大っぴらに作る事は出来ない。
さすがに女王の配偶者と言う立場、やるならこっそりと。
ですので、メイドに子供でも作らせて養子にするのをお勧めします。などと言う。
「いや、その必要は無い。私は女王を裏切るつもりもないし、女王以外と契りを交わすつもりもない」
クライセス家については、女王との子供が複数生まれれば、その何れかに引き継げば良い。
その場合は家格や家名も変わるかもしれないが、クライセスの名前に拘る必要も無いだろう。
別に兄上達の子供へ引き継いでも良い。
だから、そう言うのは止めてね?
これぐらい言っとけば、ファリスさんも諦めるだろう。
なにやら隣のオキクさんは後ろを向いて震えているが。
それを横目でチラッと見たファリスさんは、
「まあ、今日はこれぐらいで良しとしますか」
そう言って、オキクさんを連れて部屋を出て行く。
まだ諦めてなさそうな雰囲気だ。
ファリスさんがクライセス家の未来を憂うとは、雨でも降らなければ良いが。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「聞いたかね、キミィ! 私以外と契る気は無い様だよ! なんだ、イース君も口に出さないだけで、そんなに私の事を大事に思ってくれていたんだ……」
どうですかねえ……アレ絶対、その場しのぎで言っている気がしますよ。
あと、あなた、男として育てられた所為か力が強いので、バンバン背中を叩くのは止めてくれませんかね?
しばらく之が続くかと思うと、多少うんざりしてきました。
「もう止めますかソレ?」
「いや、彼の口からこんな事が聞けるだけでもやる価値があるよ!」
もっと追い詰めて色々と聞き出してやる。と意気込んでいますが、藪蛇にならなければ良いんですがねえ。




