第49階層
「なあイース」
「何でしょう?」
「俺はいったい、いつ婚約したんだ?」
あの後すぐですよ?
態々、フォースレア王国まで行ってきちんと挨拶して来たんですから。
兄上は居ませんでしたけど。
彼女の父親であるフォースレア国王は、大体うちのカーラード前国王と同じぐらいの年齢であった。
だったらまだまだ若い、とりあえず、米をおかゆにして、塩と卵でかき混ぜる。
その上、ちょっとベーコンを刻んで入れて、止めは焼き肉のタレを少量たらす。
すると見る見るうちに元気になっていく国王様。
凄いな、ダンジョン産のバフ付きお米。
そりゃ取り合いにもなるわ。
これほど良くして頂いて何も返さない訳にはいかない。
それに、今まで無理させてきた娘の我がままだ、是非とも叶えてあげたい。
よろしければ、この子を貰って頂けまいか。
等と言うので、その場で婚約手続きをする事になった。
また、元気になった王様に地上での小麦栽培のプレゼンもする。
こないだ自販機にうどんのダシが追加されていたので、地上で採れた小麦でうどんを打って差し上げる
麺類にすれば多少の不味さも誤魔化しが効く。
モチっとして、ツルっと食べられて、あっさり風味。
それが病み上がりのお体にジャストフィット。
すっかりお気に召されたご様子。
そこで、コレをこの国で栽培しませんか? ノウハウもお教えしますよ。等と言った所、ぜひこの、うどんと言う食べ物を我が国の特産品にしたいと言い出す。
うどん県ならぬ、うどん国が誕生したかもしれない。
「女王が穀物を融通するなら、別に俺は婚約しなくても良かったんじゃないか?」
兄上も往生際が悪いですね。
「そんなにご不満ですか?」
「不満と言うのはちょっと違うな……なんというか、俺がな、善き夫、善き父になれるような想像がつかないんだわ」
戦闘になると無茶ばかりするのに、それ以外では意外に繊細なんですねえ。
「そうですね……子を作らなければ善き父にならずに済みますし、パートナーと思って付き合えば善き夫に拘らずとも良いですよ」
「お前は偶にそういうドライな事を言うな」
そう言ってため息をつく、ボルヴェイン兄上。
騎士になるだけあって、根は真面目なんだろうね。
「逆に聞きますが、兄上は善き夫、善き父になりたいと思っていますか?」
「なれるなら、それに越した事はないだろう」
「ならば、一番高く、難しいハードルは超えていますよ」
「ふむ……」
何事も、まずは成りたい自分を想像し、そう成りたいと願う事。
実はそれが一番難しく、一番大切な事なんだ。
周りから求められてそうなった自分では、いつかどこかで破綻する。
自分からこうなりたい、そう思った上で行動すれば、自ずと結果は付いてくる。良いか悪いかは別としても。
「別にやり直しが効かないモノでもありませんし、まずは一緒に暮らしてみて、互いを知って行けば良いのではありませんか」
「そうだな……それに父上と母上があれだけ喜んでくれているのも無下には出来んし」
父上など、まさか3人共に嫁が見つかるだなんて思ってもみなかった!
この世代でクライセス家は終わりかと思っていた!
良かった、本当に良かった。などと言って号泣していた。
そんなに心配させていましたかねえ。
いや心配にもなるか。
方や芸術にかぶれて女には見向きもしない。
方や自分の筋肉を鍛えるのに夢中で女など眼中にもない。
方や……アレ? オレはなんで見限られていたんだ? おかしい、納得がいかないぞ。
確かに、今まで女の影など全く無かったのは確かなんだが。
結婚出来ないと思われるような変態行動は……無いよな?
オレがそう問うと、残念な子を見るような目で言われる。
「我ら兄弟の中でお前が一番の問題児だぞ、自覚が無かったのか?」
なんでだよ!
「そもそもお前、他人の事など木か石ころぐらいにしか思っていないだろ」
誰に対しても態度が同じで、必要最小限の事しか話そうとしない。
サロンや夜会に参加しないのはもちろんの事、ちょっとそこまでお茶しな~い、ですら断っている。
子供の時から協調性がまったくなく、親しい友人の一人も居ないだろう。などと言われる。
ぐうの音も出ませんわ。
いや言い訳させてもらうとですね、ほら、自分、前世の記憶があったりするでしょ?
幼少時は子供達と意見が合わないし、学園に入る頃には前世知識で色々やって忙しかったから、それでどころじゃなかったんですよ。
あと、ちょっとそこまでお茶しな~い、は普通に断ると思うんだ。
「まあそう憤るな。ほら着いたぞ、バーセルク兄上は一体何を振る舞ってくれるんだろうな」
辿り着いた先は、バーセルク兄上のアトリエにある食堂。
兄弟全員に嫁が見つかったという事で、何かお祝いをしようと父上が言い出した。
そこでバーセルク兄上が、ならば、我が妻の自慢の料理をぜひ皆で食べようと提案されたのだ。
オレ達二人以外は、先に席についてスタンバイされている。
「さあ、どうぞこちらへ、私もお手伝いしましたよ!」
そう言って、満面の笑みで椅子を引くシオンさん。
「それにしてもキャロウェイ様は、凄く手際が良くて尊敬致します。私も頑張りますので宜しくお願い致します!」
「ん、ああ……? ん、シオン殿が料理をするのか?」
ボルヴェイン兄上が頭にハテナを浮かべている。
まあ、貴族の女性、しかも元王族、料理なんて普通はやらせようとは思わない。
ごく1名を除いてだが。




