最深部
オレは女王陛下が齧ったと言う実を手に取る。
ああ、コレはアレだ、アレだなあ。
その手には齧りかけの真っ赤なリンゴが握られている。
サラサフィルさんの言う事には、いつ起きるか分からないとは言うが、たぶんこれ、どっかの王子様のキスで目覚めるんじゃね?
それこそ、クレスフィズ皇子がぶっちゅ~ってすれば済むような気がする。
オレがそう言うと、なぜかファリスさんの怒りに火をつけてしまった。
「イース様、いい加減にしてください! さすがにソレはあんまりですよ!」
そう言うとオレについて来いと言ってとある部屋に案内される。
その部屋に着いたかと思うと、おもむろに服を脱ぎだし始める。
えっ、ちょっと、と慌てて出ようとすると、そこでジッと見ていてください! と怒られる。
何? これから何が始まるのぉ?
素っ裸になったファリスさんは、とある服を手にする。
その服を装い、とある道具を手にする。
するとだ、髪の色が黒く染まり、目の色まで黒く変わる。
最後に、髪を整えてこちらを振り返る。
そこには――――――オキクさんとそっくりな女性が立っていた。
「まっ、まさか、オキクさんの正体は、ファリスさんだったのですか!?」
ファリスさんはちょっと首をかしげて、それも悪くありませんか、などと呟いた後に答える。
「そんなはずはありませんよ。私とオキクさんは何度も一緒に居たでしょうに」
おなかを叩いて、妊娠だってしていないですし。などと仰る。
いや、そうだけど。
じゃあなに、その姿?
「心当たりはありませんか? オキクさんと同時に存在した事がない人を。オキクさんと同じ時期にお子さんを身ごもった人を」
「………………」
オレは考え込む。
近くに居た女性でオキクさんと同時に存在した事がない人は大勢居る。
だが、同じ時期にお子さんを身ごもった人となると限られる。
最近、身ごもった人と言えば、シオンさんとキャロウェイさん、そしてアクレイシス女王。
シオンさんはオキクさんと一緒に居た事があるし、キャロウェイさんが兄上以外に興味を持つとは思えない。
残る一名は…………今、思えば不審な点もいくつかある。
オキクさんが部屋にいる日は大抵、アクレイシス女王は不在であった。
不在なのはいつものことだと思ってはいたが……一度も居た事がないというは確かにおかしい。
女王が忙しくなったロケット開発と同時に、オキクさんもあまり部屋に来なくなった。
さらに言えば、オキクさんが妊娠したあと、アクレイシス女王はいつも何かを言いたげにしていた。
「オキクさんの正体はアクレイシス女王だと……」
目の前のオキクさんに変装したファリスさんが頷く。
「どうして、こんな事に……」
意味が分からないよ?
どうして女王陛下はオキクさんに化けて居たんだ?
ただのいたずら、にしては、手が凝り過ぎている。
しかもだ、同衾までしている訳だ。
冗談で済まされるレベルをこえている。
「その答えは私から申し上げてもよろしいですが、できれば、イース様がご自身で導きだして欲しい所ですね」
「そうですね、たぶん答えは、私が自分で探さなければならない事だと思います」
オレはファリスさんが元の服装に戻るのを待って、女王陛下が眠る場所へ向かう。
その女王陛下が眠るベッドに腰かける。
そっとその唇に手を這わす。
ここにキスをすれば目覚めるのでしょうか。と小さく呟く。
「本当に問題ばかり起こす女王様ですね」
さすがに今回の事は冗談じゃ済まされない。
下手をすれば本当に命を失っていたかもしれない。
それでなくとも、本当に今後、目を覚まさない恐れだってある。
「何かするなら事前に、とお話していたはずですがね」
少しだけ、アクレイシス女王の眉が寄せられている様な気がする。
いつもいつも無茶ばかりして、暴走して、周りを巻き込んで。
とんでもない発想をしたかと思うと、責任も取らずに逃げて行く。
まったく、後始末をするこっちの身にもなってほしい。
「ただですね、そんな破天荒で、行動力のあるあなたを、好ましく思っていたのも事実なのですよ」
少しだけ、アクレイシス女王の顔が晴れた気がする。
あなたの傍でいると退屈だけはしない。
いつだって新しい風を運んできてくれる。
これまでどんなに忙しくても、充実した毎日だったと、そう思える。
「そして自分でも意外なのですが、どうやら私は――――――あなたを愛していたようです」
少しだけ、アクレイシス女王の鼻が膨らんだ気がする。
クレスフィズ皇子にとられたくない。
今なら、はっきりとそう言える。
いつからかは分からないけど、あなたと共に過ごし、共に生きて行きたいと、そう思えるようになっていた。
「私は王子様ではありませんが、今だけは、あなたの王子様にしてくれませんか?」
そう言って、顔を近づける。
なんだか、キスまで要らないような気がしてきたが、ここまで来たら止めるのは無粋だろう。
そっと、その唇に口付ける。
その時だった、ガバッと女王陛下に抱きしめられてベッドに引き込められる。
あとの事は、想像にお任せいたします。
◇◆◇◆◇◆◇◆
私は、ソッと扉を閉めて部屋の外に出る。
あれ絶対、起きていましたよね?
多分、イース様が最初に唇に手で触れた時に。
最後の方なんて、むっちゃ唇を突き出していましたし。
まあ、イース様も気づいていたでしょうが、仕方がありませんよね。
意地でもキスしないと起きないぞ、って言う気概も感じました。
転んでも唯では起きませんよね、ほんと、あの女王陛下。
私は扉の傍で蹲っているクレスフィズ皇子の元へ向かいます。
「まあ、初恋は実らないと言いますし」
「どうして初恋だなんて分かるのさ、それを言うなら、あっちだって一緒でしょ」
「あのお方は、結局、良い所だけを持って行かれるのですよ」
そんなの不公平じゃな~い。と口を尖らせています。
ええ、その通りですよ。
世の中に公平な物など存在しません。
共産主義などと言う物を掲げても決して公平になりはしません。
どこかで誰かが泣き、どこかで誰かが笑う。
産業に共産主義を導入し、その差を縮める事はできても、恋愛に共産主義を導入する事はできません。
人の行動は制限できても、人の心は制限できません。
ですから、どこまでも不公平は続いていくのです。
まあ不公平の筆頭である皇子様が、それを口に出すのもどうかと思いますがね。
それから数日後、またしても私たちは女王陛下に呼び出される。
もうお悩み相談室は終わったのでは?
最後の締めでもするのでしょうか。
「君たちのおかげで全ての誤解は解けたよ、ありがとう、礼を言うよ」
どうやら悩みも晴れて、スッキリされているご様子。
「じゃあ今日でこの会も解散かね」
と、ウドゥが問いかけます。
「なんで? まだオキクさんと同一人物疑惑が残っているよ?」
「えっ、まだ、伝えていませんの?」
「実はそうなんだよ、それにさ、なんて言うかさ、ほら、一粒で二度美味しいとも言うしさ」
ああ、この女王陛下、まったく懲りていませんねえ。
ガー様が訝しそうな表情をして私を見てくる。
私は口パクで、伝えました、と答える。
良いんじゃありませんか、コスプレみたいで。
イース様も見た目はオキクさんの方が好みでしょうし。
呆れた表情でガー様もアクレイシス女王を見やる。
まあ、本人が幸せならそれで良いんでしょうね、などと呟かれます。
本当にねぇ。
そう言えばあの後、どうされたんでしょうね?
おなかにお子が居ますし、さすがに燃え上がったりはしなかったでしょうし。
ただ、その、少しお尻を押さえていたのが気になりますが。
まさかねぇ…………
◇◆◇◆◇◆◇◆
と、落ちがついたところで終わりたかったのですが……
「ねえ、ファリスさん、ちょっとで良いからイースさんと私の逢引を手伝ってくれないかな」
「………………」
諦められたのではないのでしょうか?
「フフッ、私はあの悪魔の子供だよ、そう簡単に逃れられると思ったら大間違い」
ねえ、ファリスさん、こうなったのもあなたの責任でしょ?
だったら少しぐらい手伝ってくれも良いんじゃな~い?
ニコニコとしたその笑顔はまさしく、御父上とそっくりで……
アイタタタ…………私の胃痛は暫くは収まらないようです。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました!
今後の参考になりますので、是非、評価など頂ければ嬉しく思います。
また、新作も上げています。
貞操観念が逆転した世界に転生した主人公が、いきなり顔に濡れたタオルを被されて間引かれそうになるところから始まるコメディです。
ええ、コメディですよ? コメディのはず?
その名も『ハードモード貞操逆転世界で傾国の美男になる(らしいですよ)』です。
注)主人公は美男でも美男子でもありません。
よろしければ、是非、読んていってください!
https://book1.adouzi.eu.org/n1483iv/




