第120階層 恋するサラサフィル・グランサードの反逆
皆、ひどいんじゃな~い、私をのけ者にしてさ。
アクレイシス女王は親友だと思っていたのにさ~、こんな仕打ちはないんじゃない?
女王陛下とならイースさんを共有しても良いと思っていたのに。
当の女王陛下は独り占めしようとしているなんて思いもよらなかったよ。
そんなの許せる理由がある~?
ええ、好きですよ。
イースさんの事は大好きですよ。
最初は胡散臭くて近寄るつもりなんてなかったけどさ。
どうしてこうなったんだろうね?
そもそもさ、ファリスさんの責任が重いんじゃないかなあ。
ファリスさんがあんな事を言わなければ今も、コイツ胡散くせえ、で終わっていた話。
ガー様から脅されることもなかっただろうし、イースさんの秘密を知る事もなかった。
そして…………私、サラサフィルの唯一の理解者になる事もなかった。
両親を除けば、サラサフィルとして接する事ができる唯一の人。
話してみると意外に楽しい人。
私の話を聞いてくれて、相談にも乗ってくれる。
どんなくだらない悩みにでも、悩みにくだらない物はないと言って聞いてくれる人。
そんな人だと知れたのもまた、ファリスさんのおかげなんだけどね。
知らなければ良かった、とは、とても思えない。
でもまあ、好きだって自覚したのは、ついさっきだったりするけど。
アクレイシス女王が死んだ事にして、私は自由の身になる。
じゃあ、私はその後はどうなるの?
皇子様として余生を過ごすの?
誰か、事情の知っている女性でも妻に迎えて?
それとも、私も死を偽装して一人の女の子に戻る?
ただ、いずれにせよ、そこにイースさんは居ないんだろうな、って思ったら胸が締め付けられた。
嫌だなあと思った。
私の今後の世界にイースさんが居ないのは耐えられない。
その時、ああ、コレが恋なんだな。って自覚した。
そう思ったら止まらなかった。
私は部屋に入り、とある提案を立ち上げる。
アクレイシス女王が居なくなれば――――――までは思わない。
でも、私にもチャンスがあっても良いんじゃない?
アクレイシス女王が仮死状態になってから、それを打ち明けるまでの空白期間。
その間に体でもなんでも使って迫ってみる。
ファリスさんに頼み込んで、一度だけチャンスをもらう。
女王の仮死状態が実は演技だと打ち明ける前に一度だけ。
そんな事を考えながら、仮死状態にする方法を探していたら悪魔がささやいた。
この実を食べると仮死状態、いや、その者の時間を止める。
妊婦でもある訳だし、仮死状態にするよりぐっと安全だ。
ただ、一つだけ欠陥があってな…………魔法が解ける時間が不確定なのだ。
まあ、不確定と言えども、いつかは戻る。
戻った時は、時間が止まっていたので、どれだけ時が経とうとも歳をとっていない。
まさしく、眠る前と遜色のない状態で蘇る、そう、何年経とうともな。
少しだけ、少しだけボーナスタイムが伸びるだけだ。そう、少しだけな……
そんな悪魔のささやきに負けて私はそれをアクレイシス女王に手渡す。
何年経っても、と聞いた言葉を聞かなかった事にして。
かつて、その実を食べた者がどれほど眠っていたかも聞かず。
「発動条件はこの実を食べるだけだよ」
復活条件は目が覚めれば起きるよ、とだけ告げる。
その目が覚めるのが、いつになるかは分からないのに。
その実を手に取った女王陛下は何故か私の顔をジッと見つめる。
「まあ、これも身から出た錆びかね」
そう呟くと、その実にかぶりつく。
えっ、と思った時にはもう遅い。
そのまま眠る様に横たわる。
どれだけ揺さぶっても起きようとしない。
本当は、誰かが止めてくると思っていたんだ。
ファリスさんでもガー様でも、コレを見たら怪しいと思ってくれると。
それなのに、誰にも相談せずに女王様はそれを口にした。
まるで、私の恋心を分かっていたかの様に。
私は慌てて悪魔の元へ駆け寄る。
どうやったら元に戻るのかを問いかける。
悪魔は答える。
「大丈夫、大丈夫だよ。ほんの少し眠っているだけだ、いつかは起きる」
どれだけ眠っていても体は変わらないから。
ああ、ああ……この人は悪魔だ。
そして私は、悪魔の血を引いている。
このままイースさんに迫って、子供をもらおう。
それをアクレイシス女王が生んだ事にすれば、親子ともども幸せに暮らせる。
そう思った。
そう思ってイースさんの元へ向かった。
だけどダメだった。
イースさんの――――――何事にも無関心そうだけど、心の中では一生懸命、皆が幸せになれる方法を考えている、そんな表情を見ると、駄目だったんだ。
この人を騙したら駄目だって。
騙そうと思っても、騙せるような人じゃないんだって。
きっと真実に気づく。
真実に気づいても騙された様に装う。
誰も傷つかない、誰もが笑顔になれる方法をそこから探し出そうとする。
相手が例えどんな悪人だろうと、彼はきっと、諦める事はないだろう。
例え私が、彼の愛しい人を手にかけたとしても、彼は私を責めない。
そんな私をも笑顔にしようと手を尽くそうとする。
そんな人を騙しちゃ駄目なんだって。
だって、私はずっと観察していたんだ。
彼の履歴も調べ上げたうえで、彼の気持ちを知る事ができた。
だから言える、そう確信できる。
真実を告げよう。
私の想いと共に。
それが私に出来るせめても贖罪だ。
その上で、罰を受けよう。
どうかそれが、優しくない罰でありますように。
次回、最終話となります。
ここまで読んでくださった皆様、大変ありがとうございました。
明日の朝に投稿予定でございます




