第115階層 神様と呼ばれる人々
よくよく話を聞いてみると、彼らは皆、バーセルク兄上に弟子入りを希望していた人たちのようだった。
そこで兄上が、弟子入りしたいのであれば、俺様を唸らず様なマンガを描いて持って来い、などと仰ったらしい。
そしてマンガとは何ぞや、と言う話になり、マンガに付いて知りたいのなら、イースに聞いてくれば良い、と言う話になったらしい。
ちょっと兄上~、何でオレを巻き込むの?
マンガとは何ぞや、と聞かれても困りますよ。
あと、根本的に漫画と美術は違う。
イラストですら畑違いな部分がある。
マンガは娯楽作品だ。
芸術品として見られるかどうかは……はっきりいって厳しい。
芸術家である君たちにマンガを説明したとして、マンガは馬鹿が見る作品だ、などと言われても書き続ける自信があるかね?
「覚悟無き者に続けられる様な物ではありませんよ?」
オレがそう言うと、皆、一様に押し黙る。
良いか、マンガとはな、人を楽しませるために存在するモノなんだよ。
君たちの様に自分が満足するために描く様な物ではない。
どんなに美しい絵であろうとも、ストーリーが良くなければ売れないんですよ。
逆に言えば、ストーリーさえ良ければ、絵が下手でも成立する。
「絵が下手でも……ですか……」
後ろの方に居る少年がそう呟く。
「ええ、マンガに大切な物はストーリー、そして舞台なのです」
小説の世界は文字で構成される。
文字で構成されるが為に、背景が少ない。
どうしても世界が狭くなる、文字だけでは伝えきれない物が出てしまう。
だが、マンガは違う。
背景が必要だ。
そこに壁があるのなら、物語に関係がなくとも壁を描かなければならない。
そこに道があるのなら、通らない道であっても道を描かなければならない。
顔も髪も服装ですら、何一つ手を抜く訳にはいかない。
一面だけではない、横から、後ろから、さらには上下から、立体的に物を作り出し、描く必要がある。
ただの紐一本ですら、360度、どこからでも描く必要があり、人が動けば、紐も動かさなければならない。
ある意味、芸術よりも遥かに高度な技術が必要なのだ。
さらにだ、マンガと言うのは空想上の世界だ。
人は基本、自らが体験した事、目で見た物、それを元に何かを作り出す。
見たこともない、体験した事もない、そんなモノを生み出せる人間は極僅かだ。
そして、未だこの世界にマンガは存在しない。
存在しないという事は一から作り上げなければならない。
木一本、石ころ一つ、それらを最初から君たちが作りださなければならない。
さらにそこに人を作る。
そして街をつくる。
街を作れば必然、主人公達以外も描かなければならない。
当然、全ての人が同じ顔であってはならないし、同じ服装であってもならない。
街をまるごと一つ、いや、世界をまるごと一つ作り上げなければならないのだ。
それはまるで――――――神様になるがごとき。
神となり、世界を作り出す。
人を物を、空気さえも。
どうだ、YOU達にそれが出来るかな?
「また無自覚に煽っているよこの人」
「そんな事をするから変人が増えるんですよね」
「無自覚ってぇのが、特に手に負えないわな」
煩いぞ外野。
別にオレは煽っている訳じゃない。
芸術家にマンガは向いていないと説いているだけだろ?
えっ、目の前の連中の瞳を見てみろって?
ふむ…………何やら燃え上がっているような瞳をしていらっしゃる。
「不思議ですね?」
不思議なのはお前の頭だよ、などと、いつになく、辛辣な言葉を吐き出すファリスさん。
そして何やら瞳に火のついた少年少女たちに質問攻めにされる。
えっ、絵がうまくないけど本当に大丈夫かだって?
大丈夫だ、前世で最も流行ったマンガだって、絵は微妙だったぞ。
人を楽しませることが出来たなら、たとえ棒立ちの絵であったとしても、成功なのが漫画の世界だ。
えっ、ストーリーを思いつかない?
だったら原作者を付ければ良い。
なんだったら、売れている小説を原作者の許可を得て、漫画化しても良い。
えっ、世界を作り出せる自信がない?
だったら諦めな、漫画だけが世界の全てではない。
だが、自信がなくとも挑戦するのは自由だぜ。
あとお前ら、誰も技法について聞いて来ないだが大丈夫なんか?
えっ、技術なら持っているって?
甘いなおめえら。
良いか、漫画ってのはな、人の向く方向、吹き出しの位置、目や口の動かしかた一つで伝えられるものが変わる。
唯の線で驚きを表現し、陰の加え方一つで感情を変える。
YOU達は、本当にそれが出来ると確信されているのかね?
などと説教をしていたら、何やらオレが一つ、お手本の漫画を描くことになってしまった。
えっ、なんで?




