第111階層 ファリス・アイリーンその2
皆さん、遊園地に行った事がありますか?
朝早くから起きて、入場口に並び、夜遅くまでさまざまな遊具を回り、終わるころには精も根も尽き果てていたりした事はありませんか?
普通なら数キロ歩けばバテるはずの人も、数十キロを優にこえる距離を歩き回わったりしていませんか?
本来なら出せるはずのない絶叫を叫び、死ぬような思いをする様な器具に乗る。
ダンジョンが人を呼び寄せ、その人から何かを吸い取っている物。
命懸けでモンスターと戦わせ、そこから吸い上げている物。
人が限界をこえた際に、あふれ出す、気力、エネルギー。
それがダンジョンの経験値となる。
人が限界をこえるほどの気力・体力・エネルギーを放出される場所。
人は苦しい時に得体の知れない限界以上の力を発揮するが、楽しい時でも得体の知れない限界以上の力を発揮するのだ。
それが遊園地には備わっている。
そう、思った以上に効果が高かった模様。
しかも入場者数も膨大な数に上る。
ちまちまダンジョンで冒険者を虐めているよりも圧倒的に効率が良い。
ハーキャットさんがそれを知ってなにやら落ち込んでいる。
もう遊園地だけあったらダンジョンは要らないんじゃないか?
そう思うほど高い効率で経験値の様な物が稼げる。
今までの苦労はいったい、と思う気持ちも分かる。
メイクィースさんから『プライド、モテヨ』と励まされていたほどだ。
ただまあ、この状況でもあまり外に出てこないアクレイシス女王陛下。
やはり心配だな。
こんな楽し気な事に首を突っ込んでこないなんて完全に異常事態だ。
そう思っていた所、ファリスさんから、オキクさんがオレに話があるので聞いてやってください、と頼まれる。
その日の夜、部屋でオキクさんが来るのを待っていたのだが、中々やって来ない。
そのうち、ファリスさんに押される様にして部屋に入って来るオキクさん。
ファリスさんが隣で、今、言わなければ本当に困ったことになりますよ、と囁いている。
なんだろうか?
別れ話でも?
いやいや、別に付き合っていた訳ではないが。
オキクさんがゆっくりとオレの前に立つ。
何度が口を開こうとはするのだが、声にはならない。
なんだか可哀想になってきたのだが?
オレはファリスさんに視線を向ける。
ファリスさんはため息を一つだけつくと、
「妊娠されたようです」
と一言。
は……?
えっ、にんし……ん?
◇◆◇◆◇◆◇◆
一発で当てるとはさすがですねイース様。
それにしても、妊娠の影響かすっかり弱気になっている女王陛下。
コレを気に、打ち明けましょう、と言っても首を振られる。
「その、なんだ、今更な話なんだが、こうやって他人になって騙している事を打ち明けたら、怒らないだろうか?」
イース様がそれぐらいで怒ったりはしませんよ。
きちんと事情を話せば分かってくれますから。
そう思って、この作戦を考えたのでしょ?
「いや、でもな、ほら、今、女王陛下って彼から嫌われているジャン、となると、積み上げたオキクさんの好感度も相殺されないだろうか?」
イース様は女王陛下の事を決して嫌っていませんよ?
どうしてそういうマイナス思考ばかりになるのでしょうね。
妊娠中に不安が増大するというのは良く聞きますが、女王陛下は特に顕著なご様子。
それでも、そろそろおなかも目立ち始める時期、強制的にでもとイース様の元へ連れ出してみたのですが……
結局、伝えられたのは、オキクさんが妊娠したという事実のみ。
アクレイシス女王の事は……こちらも早急に伝えた方が良いのですがね。
ただ、オキクさんとして妊娠を伝えた後は多少持ち直したみたいです。
そりゃもう、イース様から下にも置かない扱いをされていますからね。
どこに行くのでも付いて行こうとするし、少しでも重たい物を持とうものなら、すぐにとりあげようとする始末。
それまでは抱き着こうとしても、少し、逃げるようなそぶりがありましたが、今は逆に頭をなでていたりしています。
持ち直した女王陛下は今日こそ言うぞ、と毎日呟きながらイース様に部屋に入るのですが、いまだに打ち明けられていないご様子。
ただ、それに比例して不機嫌な人物が約1名。
「ねえ、あのメイド、メイドの分際でイースさんと距離が近すぎな~い?」
そう言えばクレスフィズ皇子には、メイドのオキクさんがアクレイシス女王だと言っていなかったですね。
とはいえ、イース様付きのメイドはオキクさんだけなのですが、いい加減、気づいても良いと思います。
まあ、イース様を良く知らなければ、メイドが一人だけ、などとは思わないでしょうが。
そのメイドのオキクさん、クレスフィズ皇子が部屋に入って来るなり、イース様にしがみついてジッと皇子を見つめていらっしゃいます。
多分アレ、威嚇しているのでしょうね。
無表情キャラのため、表情には出ていませんが。
「ねえ、ファリスさんは私の味方なんでしょ、だったらアレ、なんとかしてよ」
そしてなぜか私は、クレスフィズ皇子とイース様の恋のキューピットらしいです。
あっ、なんだか、胃の辺りがキュ~となってきました。
もうイース様のハーレム生活で良いじゃん、とは思いましたが、ウドゥが言っていた、ハーレムは現実的にはありえない、との言葉が刺さるのですよね。
特にこの二人、タイプが同じ様な気がするのですよね。
互いに、ほしい物は譲らない、みたいな?
ああ……なんで私はあの時、あんな事を言ってしまったのか。
人の恋路には口を出さない、まったく、護衛としてあるまじき行為ですね。
少々イース様をけなされたぐらい、スルーしておけば良かったのですよ。
他人が理解していようがいまいが、私だけが理解していば良いのですよ。
今からでも取り消せないものでしょうか?




