第109階層 クランハウス
まあ、たぶん、ここに行き着くまでに、いくつかの段階は踏むのだろうか…………豪華どころの代物じゃねえぞ。
ガチで一国一城の主だぞ。
地面の端からは遥か下方に大地が広がっている。
ただ、その端には見えない壁があって、そこから先には進めない。
まあ、落ちないのは良い事だが、きっとコレ、本当に空の上にある訳じゃないよな。
多分、あの景色は実物じゃなく映像なのだろう。
前世のゲームでも背景だけを差し替えて、空の上や海の中、さらには宇宙にまで。
ただ背景を変えただけだが、それが動くもので、本当にその場所に移動したかの様に作られていた。
その背景を手に入れるためだけに、ン十万も課金される方が居たほど。
たぶん、この世界の住民だって、この背景を手に入れるためなら、全財産をつぎ込む奴が出てくるのではないか?
この時代、こんな豪華な場所に行けるなら、どんな3Kだって耐えられる。
恐ろしいよダンジョンさん。
本当に人の欲望を突いて来るのがうますぎる。
オレはそっとハーキャットさんに視線を移す。
まだあるんだろ、この次が。
今の宇宙飛行士ブーム。
乗らない訳にはいかんだろ。
オレがそう言うと『バレたか~』と言ったアニメキャラのスタンプを表示させる。
そしてハーキャットさんの隣に、近未来っぽい硬質な扉が出現する。
その前に立つと自動的に扉が開かれる。
これまでの様に押戸じゃない、左右にスライドして扉が開く。
その先には――――――硬質な壁に囲まれた通路が続いていたのだった。
ファミュ将軍と共にその通路の先へ向かって歩く。
とある空間に出た時、ファミュ将軍が驚きの声を上げる。
その空間とは、宇宙船のコクピット、そう、一面に広がるガラス戸に映る宇宙、そして地球。
それらを前に機械的な操作パネルが並び、各所に座席が設置されている。
オレはそのうちの一つ、船長席らしき場所に座る。
そして操縦桿を手に取る。
動くよ、この背景。
地球から離れたり、遠ざかったり、本当に宇宙船を操縦しているかのようだ。
ファミュ将軍はもはや、一言も話せず、ただただ、大口を開けている事しか出来ない。
コイツは楽しいな、だが、ここまで来られる騎士団がいったい、いくつあるのだろうか?
一つ前のお城ですら、厳しいだろうに。
オレにぶら下げられたプラント農園どころの騒ぎじゃないぞ。
コクピットから離れ、その他の部屋も探索してみる。
ビリヤード場やゲームセンターの様な物まで完備している。
さらには、地球を眺めながらゆっくりとつかれる、大浴場まで。
「イース卿、どうだ、少しだけ入ってみないか?」
ファミュ将軍がそう仰るので、二人してマッパになってその浴場に入る。
「ふう…………正直、ここが天国だと言われても、否定ができんぐらいだな」
「宇宙で温泉につかれるなど、考えた事もありませんね」
なお、さすがに無重力ではない模様。
いや、無重力にも出来るのだろうが、それは後日のアップデートに期待だな。
温泉とか入れなくなるだろうし。
「ところで最近、アクレイシス女王とはどうなのだ?」
どうとは?
「うむ、あまり元気がない様に見えてな」
「ああ、その……少しばかり冷たい言い方をしてしまったも知れません」
「ふむ……やはり、アレが妻では不満か?」
側室を持つのなら紹介はするぞ、と仰る。
「いいえ、不満はありません、ただ、その……」
オレは思い切って聞いてみる。
本当に彼女は生まれた時から女性だったのかを。
「実を言うと私も知らなかったのだ。女だったと言う確証もないが、男だったと言う確証もない」
今思えば、心当たりもあると言う。
自分と弟のバクラットは一緒に育てられたが、なぜかアクレイシスだけは、部屋も個室、浴室も別。
完全に分けられて育てられていた。
てっきり、後継者として特別扱いされているものだとばかり思っていたが、そのためだけに、そこまで徹底する必要があったかと言えば疑問符が付く。
「絶対に人前で肌をさらそうとはせぬし、声変わりだって……なかったと思うぞ」
わざわざ、父上がそんな事で嘘をつくはずがない。
男であると言う証明を、自分も、弟のバクラットも見た事がない。
それはすなわち、女であったと断言して良いかもしれぬ。
「まあ、バクラットのやつは、薄々、気づいていた様だがな」
まったく私一人だけが道化を演じされられたものだ。
と不満げにつぶやく。
そうなのか……アイツは元から女性だったのか。
ならばなぜ、あのような嘘をついたのか。
まさか、そんな重要な事をその場の雰囲気で流されたりは…………さすがにしないよな?
あの時、話を打ち切らず、きちんと話を聞いておけば良かったな。
後悔先に立たずとも言う、最近、体調も悪そうだし、もう一度、詳しく話を聞きたい。
ただなあ、なぜかその話をしようとしたら避けられるんだよな。
クレスフィズ皇子と何かあったのだろうか?
あっちはあっちで、最近はいつも影武者を立てている。
じゃあ、本人はどこで何をやっているのか?
まさか実在して居ない訳でもあるまい。
帝国で初めて会った時は、確かに本物の皇子だったはず。
真っ先に女王を口説きに来ていたし、サラサフィルさんがそんな事はしないだろう。
まあどちらにしろ、アクレイシス女王の御心しだい、か。




