第103階層 恋するサラサフィル・グランサード
「ふっふっふ~ん……♪」
「何やら最近、ご機嫌だな」
「はい、父上! そう言えば前に言っていた、イース卿との子供の件、前向きに考えたいと思っています」
「ほほう……どういった心境の変化かは分からぬが…………ただ、アクレイシス女王とはきちんと相談しておくのだぞ」
ああ、そう言えば最近、女王陛下の元気がないんだよね?
私、なんだか避けられているような気がするし。
イースさんと雪解けしたかと思うと、今度は女王様?
人間関係は難しいよね~。
夕食が終わり、通路を歩いていると、イースさんを見つける。
急いで駆け寄ろうとしたところ、隣に誰かが居るのに気づく。
あれは……確か、メイドのオキクさん、とか言ったかな?
そのオキクさんが、私を見るなり、そっとイースさんの腕にしがみつく。
むっ、なんか胸がモヤモヤするぞ?
イースさんは軽く会釈をして通り過ぎる。
せっかく出会ったんだから、ちょっと話をしたかったんだけど……
人前でサラサフィルだとバレてもダメだしね。
仕方ないよね……
胡散臭い所は変わらないけれど、私の悩みにも真摯に向き合ってくれて、いろいろと助言をくれる。
自分から何かを言ってくる訳じゃないけれど、聞けばきちんと答えてくれる。
私が影武者だと気づかれないように、さりげなくサポートもしてくれている。
こういう関係になったけど、まあ、悪い気分じゃない。
しかしあの、オキクさんとか言う女性、メイドの癖にベッタリしすぎじゃな~い?
イースさんの妻は、私とアクレイシス女王だぞ~。
あれ? 私、妻だったっけ?
まっ、ささいな違いだよねっ!
サラサフィルとして、女性として接する事が出来るのは、今はイースさんだけ。
そう思うと、手放したくもなくなる。
少しぐらい、嫌な思いをして抱かれるぐらいで一緒に居られるのなら、それも良いじゃな~い。
まっ、イヤかどうかも、実際に抱かれてみないと分からないけど。
皇帝陛下はアクレイシス女王にも相談しろって言っていたけど、そもそもダメならこんな関係、許可しないんじゃな~い?
女王様は最初から私の事を女性だと知っていた訳だし。
そう言えば、その女王様、確か別人に化けてメイドをしているって言ってたけど……
まさか、さっきのオキクさん……!?
いやでも、髪の色どころか、瞳の色まで違うし……
イースさんぐらい偉い人ならメイドの一人や二人は居るだろし……
そもそもアクレイシス女王なら私を見てイースさんにしがみつくなんてしないよね?
それでも一応、女王陛下と話をしておこうと部屋に向かったのだけど……
そこには誰も居なかった。
ん~、別人に化けてイースさんの所へ向かったのかな?
仕方ないので私も自室に戻る。
その途中、イースさんの自室の前を通ったのだけど、いつもなら中で居るはずのファリスさんが部屋の外で待機しているのを見かける。
「アレ? ファリスさん、どうして外で居るの?」
「おや、クレスフィズ皇子じゃありませんか。皇子こそこんな時間にどうしてここへ?」
そこで私はイースさんと和解した事をファリスさんに伝える。
ついでに今はサラサフィルと言う、クレスフィズ皇子の妹として会っている事も教える。
護衛の目を盗んで逢引するのも手間だしね。
いっその事、協力してもらおう。
「は~、これはまた、複雑な関係になっていますね~」
呆れたような表情でそう言ってくるファリスさん。
「ファリスさんのおかげで、私もイースさんを愛する覚悟が出来たよ~」
「えっ、私の所為……!?」
何やら顔を青くしているけど、どうしたんだろう?
「いやっ、その、何もそこまでしなくても良いと思いますよ?」
などと言ってくる。
だってファリスさんが言ったんじゃない~、もっとイースさんを観察しろって。
それって今後は一緒に暮らしていくんだから、もっと互いを知ろうよって事だよね。
私はイースさんの秘密を知ったし、イースさんも私の秘密を知った。
とっても良い事じゃないの~?
「ええ、それ自体はとても良い事だと思います。ただまあ、愛とかなんとか言うのは……」
「夫婦なら当然でしょ? 政略結婚だって、始まりはともかく、互いに愛する努力が必要なんじゃな~い」
「いや、そうなんですが……いやいや、そうじゃないでしょう」
えっ、夫婦なのは私とアクレイシス女王であって、イースさんと私じゃない?
それって表向きの話でしょ?
実際は、イースさんを私とアクレイシス女王で共有する事になるんじゃない。
皇帝陛下もそう言っていたし。
あのジジィの仕業か……と小さく呟いている。
「とにかく、表向きは二人ともアクレイシス女王の王配です。それに、子供でもできておなかが大きくなったらどうするのですか?」
「その時は病弱設定を使えば良いって言ってたよ」
どこが病弱なんだか……と小さく呟いている。
うん、私もそれは思ったよ。
「クレスフィス皇子」
「はい」
何やら迫力のある顔で私に迫って来るファリスさん。
「私は何もしていません、そうでしょう?」
「ええ……そうかもしれませんね」
思わず、その迫力に頷いてしまう。
「では、そういう事で」
「はあ…………?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
私は去って行くクレスフィズ皇子の背後を見つめます。
やっべ~、なんだかとんでもない事になってきました。
まあでも、アレですよ。
人の心と言う物は、どうあがいたって、思い通りに変える事などできません。
結局、なるようにしかなりません。
ええ、私は決して悪くはありませんよね?




