79話 ゾンビパニック
打ち倒すというのならば、なんとかなるかもしれないが……
相手は子供で、この事件の黒幕の被害者だ。
そんなことをするわけにはいかない。
かといって、手加減をすることは難しい。
一人二人ならなんとかなるが、十人以上となると無理だ。
素直に逃げることにした。
「「「ぐるがあああっ!!!」」」
子供たちが次々と起き上がり、俺たちを追いかけてくるのが見えた。
皆、獣のような咆哮をあげていて、目を血走らせている。
そんな子供たちに追いかけられる俺とユスティーナ。
ちょっとしたホラーだ。
「あわわわっ!?」
隣を走るユスティーナは、いつも以上に動転しているような気がした。
「あ、アルトぉ……」
「どうした、ユスティーナ!?」
「ボク、こういうホラーもの苦手なんだよぉ……」
本気で苦手らしく、ユスティーナはちょっと涙ぐんでいた。
気持ちはわかる。
正気を失い、ゾンビのような子供たちに追いかけられる。
ぶっちゃけてしまうと、俺もかなり怖い。
「がんばれ!」
「適当な励まし!?」
「逃げるしかないからな。行くぞ!」
ここは敵地で、できることなら騒ぎたくない。
しかし、そんなことも言っていられない。
足音を気にすることなく走り、子供たちに追いつかれないようにする。
通路をまっすぐに駆け抜けて、時折、角を曲がる。
相変わらず通路は明かりがほとんどないが、ユスティーナが手を引いてくれているおかげで、しっかりと走ることができた。
何度か角を曲がり、通路を駆け抜ける。
「がぁっ!」
何人かの子供たちはこちらを見失っているが、それでもまだ、しつこく食らいついてくる者がいた。
走りながら、ちらりと後ろを見る。
そろそろ暗闇に目が慣れてきた。
一人、二人、三人……以上だ。
「……三人か」
三人ならなんとかなる。
子供たちを傷つけることなく、無事に鎮圧できるだろう。
ただ、それなりの時間はとられてしまう。
その間に、他の子供たちに追いつかれないとも限られない。
リスクを考えると、まだ動くべきではないという結論に達する。
「アルト! けっこうまずいかも!?」
「どうしたんだ?」
「この先から足音が聞こえるよ。たぶん、子供たちが回り込んでいるんだと思う」
「くっ」
偶然か、それとも、作戦のうちなのか。
いつの間にか、挟み撃ちにされていたみたいだ。
「接触までどれくらいだ?」
「この速度なら……えっと、相手はそこそこ離れてるから……1分ってところかな!?」
「1分か……短いな」
その間に打開策を見つけなければいけない。
なにか良い方法はないか?
なにか……!
――――――――――
「……」
「……」
俺とユスティーナは、体をぴたりと止めて、息を押し殺していた。
そんな俺たちを子供たちが探しているものの、彼らに見つかることはない。
ほどなくして、子供たちは違う場所に移動した。
「……行った?」
「……ああ、みたいだ」
「ふぅ」
ユスティーナは安堵の吐息をこぼしながら、天井から降りた。
続けて、俺も床に降りる。
子供たちを撒くために、コウモリのように天井に張り付いていたのだ。
咄嗟の思いつきだったけれど、うまくいったらしく、子供たちは俺たちを見失い、明後日の方向に消えた。
通路は暗いこともあり、天井は視界外になっていたのだろう。
「さすがアルト! 咄嗟にこんなことを思いつくなんて、すごいよっ」
「たまたまうまくいっただけだ」
「むう。謙遜はよくないなー」
「それよりも……ここ、どこかわかるか?」
「……ううん、わからない」
あちらこちらを走り回っているうちに、まったく知らない場所に迷い込んでしまった。
元の部屋、捕まっていた倉庫に戻る道は、さっぱりわからない。
というか、ここまで広いのか。
けっこうな距離を走っていたと思うのだけど……
ここはよほど広い施設らしいな。
ただ、少し疑問が出てきた。
これほど広大な敷地を持つ施設が、そのまま放置されているなんてこと、果たしてありえるのだろうか?
普通ならば国か、あるいは領主の管理下にあるはずだ。
逆に、あまりに広すぎるために放置されているのか。
あるいは、わざと放置しているのか。
判断に悩む。
もう少し情報が欲しいな。
「アルト、あそこ」
「うん……?」
ユスティーナが指差す方向に明かりが見えた。
さきほどの部屋と同じように、光がこぼれているらしい。
ただ、光はそれほど強くない。
淡い光という感じで、さきほどの部屋の半分以下の光量だ。
照明の代わりに、なにかが光っているのかもしれない。
しかし、いったいなにが……?
「どうしようか?」
「……確かめよう」
「ラジャー」
「危険があるかもしれない。最大限に警戒していこう」
「うん」
俺は槍を手にして、ユスティーナはいつでも動けるように身構えて、部屋に向かう。
部屋の前で壁に背をつけて、一度停止。
そして、入り口に侵入者を探知する魔道具が設置されているのを見つけた。
かなり巧妙に隠しているため、見つけられたのは運が良い。
幸いというか、知っているタイプなので解除は可能だ。
解除した後、踏み込むことにしよう。
「……んっ」
ユスティーナを見ると、いいよ、と言うように小さく頷いた。
俺は指でカウントを取る。
3、2、1……0のタイミングで、一緒に部屋に踏み込んだ。
「これは……」
再び驚かされてしまう。
「なんなんだ、これ……?」
小さな部屋だ。
学院の教室の半分くらいだろうか?
天井の高さも低いため、圧迫感がある。
部屋の壁を埋めるように、棚がずらりと設置されていた。
その棚に、スポーツで使うボールよりも一回り大きいガラスの瓶が置かれていた。
一つではなくて、無数に……たくさん。
そんなガラス瓶の中に、光の球体がふわふわと浮いていた。
拳大ほどの大きさで、淡い光を放っている。
部屋の明かりは、この球体が元になっているみたいだ。
「これは……?」
「もしかして、これって……」
「ユスティーナ、心当たりが?」
「うん……たぶん、これ……魂だよ」
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!




