77話 贄・その2
「きましたわっ、アルトさまからの合図です!」
宿でアルトたちからの応答を待っていたアレクシアは、魔道具の反応があった瞬間、大きな声をあげた。
その様子に引っ張られるように、周囲で同じく様子を見守っていたジニーとグランが身を前に乗り出した。
ちなみに、テオドールはククルと行動を共にしている。
二人は捕らえた覆面たちの素性を調べるために、憲兵隊の詰め所に移動している。
「場所は!?」
「少しお待ちください。えっと……反応からすると、この辺りですわ」
アレクシアはテーブルの上にコルシアの地図を広げると、ある一点を指した。
そこは海岸だ。
ただ、アレクシアたちが遊んだようなところではなくて、大きく離れたところにある岩場だ。
地図を見る限り、近くに民家も商業施設もない。
「……なにもありませんわね」
「ないわね」
「ないな」
三人は地図を見て首を傾げた。
本当にこんなところにアルトとユスティーナが?
というような顔をしている。
「アルトが誘拐犯に本当に捕まって、魔道具はそこに捨てられた、っていう可能性もあるんじゃねえか?」
「うーん……あのアルト君が、そんな失敗をするかなあ? ましてや、エルトセルクさんも一緒でしょ? ちょっと考えづらいかも」
「そう言われると、まあ……イシュゼルドはどう思う?」
「……」
グランに問いかけられたアレクシアは、しばし沈黙した。
その間に考えをまとめて、そっと口を開く。
「私はアルトさまを信じますわ」
「っていうと?」
「地図では確認できませんが、実は、ここになにかがある、と考えた方が自然かと。他の可能性もありますが……ですが、アルトさまが失敗する可能性は低いと、私はそう考えます」
「……よし、そうだな。ダチを信じることにするか」
「そうだね」
三人の間で意見が固まる。
続けて、今後の方針を話し合う。
「すぐに応援を送りましょう。私がミストレッジさんとテオドールさんのところへ行き、ここの話をしてきます」
「なら、俺たちは先行するか」
「兄さん、無茶はしないでよ?」
「わかってるって」
方針は決まり、三人はすぐに動き始めた。
しかし、ある意味で、すでに手遅れになっていることを、三人はなにも知らない。
――――――――――
「これは……」
「なんで……」
部屋に突入した俺とユスティーナは、あまりの光景に言葉を失った。
広い部屋の中に、たくさんの子供たちがいた。
皆、誘拐された子供だろう。
ただし、全員、床の上に倒れていた。
ぐったりとした様子で、一人残らず青白い顔をしている。
そんな子供たちの下に、淡い光を放つ魔法陣が描かれていた。
子供たち全員を包み込むほどに巨大で、紫色の光が放たれている。
時折、子供たちの体から光の粒子が出て……
それが魔法陣の中に吸い込まれていくのが見えた。
「なに、これ……こんな、こんなこと……」
俺と同じく、魔法陣を見て嫌な予感を覚えているのだろう。
ユスティーナは嫌悪に顔を歪めていた。
それだけではなくて、子供たちをこんな目に遭わせていることに怒りを覚えているらしく、拳を震わせている。
「アルト、これは……?」
「わからない……わからないが、この魔方陣がまずいものということは、まず間違いないだろう」
俺は槍を持ち、穂先を床に向けて逆に構えた。
そのまま勢いよく振り落とす。
ガッ! という音がして床が削れた。
魔法陣の一部が削られて、紫色の光が消える。
それに合わせて、子供たちの顔に血色が戻る。
「ふう……うまくいったみたいだな」
一部を削っても、変わらずに効果が持続する魔法陣もある。
これはそういうタイプではなくて、わずかな歪みで機能を停止してしまうような、デリケートな魔法陣のようだ。
そのタイプでよかった。
もしも今ので魔法陣を停止させることができなければ、停止するまで、ひたすらに魔法陣を削らないといけないところだった。
そんな時間はかけたくない。
「この子たち、大丈夫かな……?」
「わからない……この魔方陣が悪影響を与えていたことは間違いないと思うが、目を覚まさないほどに衰弱をしているかもしれない。ひとまず、一人一人確認していこう。俺は左から、ユスティーナは右から頼む」
「うん!」
二手に分かれて、子供たちの様子を見て回る。
傷はないか? 呼吸はしっかりしているか? 心臓はちゃんと動いているか?
それらを確かめて回る。
「……衰弱している様子ではあるが、命の危険はなさそうだな」
30分ほどかけて子供たちの様子を見て回り、そんな結論を出した。
いずれも目を覚まさないほどに弱っているが、今すぐにどうこうという危険性はなさそうだった。
とはいえ、今は大丈夫というだけで、さらに時間が経過した場合、どうなるかはわからない。
できることなら今すぐに治癒院に運びたいが、さすがにこれだけの人数を運ぶことは難しい。
居場所を知らせる魔道具を起動したから、そう遠くないうちに、みんなが応援を連れてくると思うが……
それを待つべきか?
それとも、俺たちも動いて、独自に応援を呼ぶべきか?
「うーん……」
これからのことを考えていると、ふと、ユスティーナが難しい顔をした。
ぽんぽんと指先でこめかみの辺りを叩いて、眉を中央に寄せている。
「どうしたんだ?」
「えっとね……この魔方陣、どこかで見覚えがあるんだよね」
「本当か!?」
魔法陣にどういう効果があるのか、それを理解できれば、子供たちの治療もできるかもしれない。
期待を込めてユスティーナを見る。
「頼む。どんな些細なことでもいいから、思い出してくれないか?」
「うん、わかっているよ。がんばって思い出してみるから、ちょっと待っててね」
ユスティーナはうーんうーんと唸り、必死に記憶を掘り下げていた。
なかなかに大変かもしれないが、なんとか思い出してほしい。
「……あっ」
やがて、ユスティーナがぽつりとつぶやいた。
思い出したのだろうか? と期待するものの……
なぜか顔色が悪い。
効力を失った魔法陣を見て、それから倒れている子供たちを見て……もう一度、魔法陣を見る。
「ウソ……これ、まさか……」
「ユスティーナ? どうしたんだ? なにか思い出したのか?」
「う、うん……思い出したよ」
「本当か!? この魔方陣は、どういうものなんだ?」
「そ、それは……その……ボクの勘違いでなければ……ううん、本当は勘違いであってほしいんだけど……」
「ユスティーナ?」
「……あっ」
不意に、ユスティーナの視線が俺の後ろに移動した。
その視線を追うと……
ゆらりと立ち上がる子供の姿が見えた。
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