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75話 囮作戦

 コルシアはアルモートで一番の観光地として栄えている街だ。

 コルシアに住む人よりも、観光客の方が多いと言われている。


 海が栄えるように、それに合わせて街が整備されている。

 街の景観を損なうような建物は建ててはいけない、という決まりもあるほどだ。


 そんな華やかなリゾート地ではあるが、全てが輝いているというわけではない。

 光があれば闇もある。

 そんなおとぎ話のように、コルシアの暗部というものが存在する。

 人が多く集まる場所だからこそ、善人だけではなくて、悪人も出てくる。


 表通りから外れた裏道。

 さらにその奥。

 ゴミが散らばり、浮浪者がいるような薄暗い路地。

 陽の光も届かないような薄気味悪い場所に、2つの人影があった。


 共に黒い髪の女の子だ。

 手を繋いで、体を寄り添うようにして歩いている。

 場所が場所だけに怯えているのかもしれない。

 だとしたら、もっと違う道を選ぶか、頼りになる人を護衛として連れ歩くべきだった。


 そうしていないから……


「え……?」


 彼女たちの行く手を遮るように、覆面をつけた者が三人、現れた。

 こういう時、足を止めてはいけない。

 すぐに引き返すか、強引に突破するか……とにかくも、相手に行動する時間を与えてはならないのだ。


 しかし、女の子たちは突然のことに驚き、足を止めてしまった。

 その間に、後ろからさらに四人の覆面が現れて、包囲網を完成させてしまう。


「な、なんですか、あなたたちは……!?」


 女の子の一人が覆面たちを睨みつけて、精一杯、強い口調で問いかけた。

 ただ、声が震えていた。

 嫌な予感を感じていて、膝もわずかに震えている。


 覆面たちは答えることはなく、包囲網を少しずつ縮めていく。

 そして……


「んんんぅ!?」


 複数人で女の子たちを押さえつけて、その口元に布を当てた。

 ただの布ではなくて、薬品が染み付いていた。


 女の子たちはジタバタと抵抗するものの、すぐにその手足から力が抜けていく。

 ほどなくして完全に気絶してしまう。


 それを確認した覆面たちは、慣れた手際で女の子たちを箱の中に押し込み、それを表に停めてある馬車の荷台に積み込んだ。

 そのまま、馬車がゆっくりと走り出す……




――――――――――




「……うっ……」


 暗闇の底に沈んでいた意識が、そっと浮上した。

 目を開ける。


 ただ、すぐに目眩に襲われてしまい、ふらふらする頭を押さえた。


「これは……」


 頭を押さえようとして、手が動かないことに気がついた。

 よくよく見てみると、後ろ手に縛られている。


 視線を下げると、両足も縛られているのが見えた。

 荒縄で縛られていて、結び方はかなりデタラメな感じだ。

 ただ、力任せにやっているらしく、少し動いた程度ではほどけることはないだろう。


 それから周囲の状況を確認することにした。

 明かりが点いていないため視界は悪い。

 さらに窓がないため、ほぼほぼ黒一色だ。


 それでも目を凝らして、注意深く観察することで、なんとか視ることができた。

 日頃、ユスティーナにあれこれと特訓してもらっているおかげだろう。


「倉庫……なのか? あちらこちらに荷物のようなものがあるが……」

「アルト?」


 俺の声に反応するように、聞き覚えのある声がした。


「ユスティーナか?」

「うん、ボクもここにいるよ」

「大丈夫か? なにかされていないか?」

「平気平気。今、そっちに行くね。よっと」


 最後の声は、たぶん、縄を力任せにねじ切る時のかけ声かなにかだろう。

 ユスティーナを拘束するなんてこと、できるわけがないからな。


「おまたせ、アルト」


 ほどなくしてユスティーナが近くにやってきた。

 これだけの暗闇だというのに、まったく迷う様子がない。

 竜の目はどういう構造をしているのだろうか?


 不思議に思っている間に、ユスティーナが拘束を解いてくれた。

 両手で縄を掴み、ぐいっと左右に引っ張るだけ。

 それだけで荒縄が紙のようにちぎれてしまう。


「ふう……助かったよ。さすがに、あれは俺ではなんとかできないからな」

「えへへ、アルトのためならなんでもするよ」


 本気でなんでもしてくれそうなので、甘えないように注意しないと。

 ユスティーナは、男をとことん甘やかしてしまいそうだからな。


「ここ、どこかな?」

「わからないが……目的地に着いたことは間違いないだろうな」


 ノルンを助けるため、誘拐犯を捕まえるため。

 俺たちは、とある賭けに出ることにした。


 それは、自らを囮にする、という作戦だ。


 わざと人気のない道を歩いて、犯人が狙ってくれるのを待つ。

 犯人が出てきたら、抵抗することはしないで、そのまま素直に誘拐される。

 そのようにして犯人のアジトを突き止める……という作戦だ。


 犯人が危害を加えてこないとも限らないため、アレクシアやジニーからは反対された。

 ただ、ユスティーナが参加することで、みんなも許可してくれた。


 危うい時は、ユスティーナを頼りにする。

 薬を使われようが、荒縄を使われようが、竜であるユスティーナにそんなものは効かない。

 犯人が出てきたら、捕まる演技はするものの……

 いざという時は暴れるつもりだった。


「ようやく目が慣れてきたが……やはり、倉庫か」


 完全に見えるわけではないが、倉庫らしい、ということくらいは理解できた。

 それに、軽く潮風の匂いがする。

 海沿いにある倉庫のどれか、ということが推測できた。


「それにしても……」

「どうした?」

「ふふっ。アルト、すっごくかわいいね」

「んぐ……」

「まさか、アルトがこんなにも女の子の格好が似合うなんて……ボク、知らなかったよ」

「頼むから、そのことには触れないでくれ……」


 潜入メンバーは俺とユスティーナが選ばれた。

 発案者である俺が抜けるという選択肢はない。

 ユスティーナが相棒に選ばれたのは、彼女ならどんな事態に遭遇しても、力技で全部をひっくり返せるからだ。


 それはククルにも同じことが言えるが……

 ククルはコルシアの憲兵隊と連携を取らないといけないらしく、手が外せない状況だった。


 そうして俺とユスティーナが選ばれたが、一つ、問題があった。

 犯人は小さな子供か女の子しか狙わない、という点だ。

 ユスティーナは問題ないが、俺は男なので、犯人の目的から外れてしまう。


 なので……非常に遺憾ながら、女装することにした。

 化粧などはアレクシアに任せたのだが、やけに吐息を荒くして、興奮していたのを覚えている。


 鏡は見ていないので、なんとも言えないが……

 ユスティーナの反応からすると、それなりにうまく女装できたらしい。

 ……まったくうれしくないけどな。


「アルトかわいいなぁ……うん、ホントにかわいいよ。ボク、変な趣味に目覚めちゃいそう」

「やめてくれ……」

「だってだって、ホントにかわいいんだもん。女の子にしか見えないし、ちょっと嫉妬しちゃうくらいだよ。ねえねえ、今度、絵を描いてもらってもいい?」

「絶対にダメだ」

「ちぇ、アルトはケチだなー」

「というか、こんな話をしている場合じゃないだろう。ユスティーナ、ノルンの反応は?」

「ちょっと待ってね。えっと……」


 ユスティーナは集中するように目を閉じた。

 そのまま30秒ほどが経過して……


「……いた!」


 大きく目を開いて、ユスティーナは一点を指差した。


「あっちの方に反応があるよ。すぐ近く……100メートル圏内かな?」

「その他の反応は?」

「たぶん、誘拐された子供たちだと思う。そういう声も聞こえたから、ノルンと一緒にいるんだと思う。あと、犯人らしい大人たちの声もしたよ」

「犯人が一緒ということは、下手したら、最悪の事態の真っ最中ということもあるか……」


 どのような目的でノルンや子供たちを誘拐しているかわからないが、まっとうな理由なわけがない。

 被害者に危害が加えられているかもしれないし、時間的な猶予はないと見た方がいいな。


「できれば、援軍を待ちたいところだが……」

「そんな時間はないんだね?」

「ああ。急いだ方がいいかもしれない」


 とはいえ、連絡を怠るなんてことはしない。

 あらかじめスカートの中に忍ばせておいた手の平サイズの、硬貨を大きくしたような魔道具を取り出して、そのスイッチを入れた。

 これは特定の魔力波を出して、居場所を伝えるというものだ。

 これで、みんなはこのアジトの場所が特定できただろう。


 あとは、できる限り、俺たちで敵を潰して、ノルンや子供たちを助けておく。


「いくぞ、ユスティーナ」

「うん!」


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] アルト…くれぐれも目覚めちゃダメよ☆(微笑) アレクシア…以下同文☆(微妙)
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