451話 落とし前
「ママ、大丈夫……?」
「うん、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」
ほどなくしてユスティーナは落ち着きを取り戻した。
娘に心配をかけまいと、目元が少し赤くなっているものの、笑顔を見せる。
「本当に呪いは解除したんですね?」
「うん、したよ。ここまで来て、嘘をつくつもりはないさ」
「その言葉、信じます」
これで一連の騒動は終わり。
そう考えると、体がいくらか軽くなったような気がした。
俺も、それなりのストレスや不安を抱えて、正常ではなかったのかもしれない。
「それじゃあ……賠償の話をしようか」
「え?」
いつもの調子を取り戻した様子で、ユスティーナがにっこりと笑いつつ、そう言う。
妙な迫力を覚えたらしく、始祖竜がたじろいだ。
「ボクに呪いをかけて、色々な人に心配をさせちゃって迷惑をかけちゃって……その責任、どうとってくれるのかなー?」
「いや、あの……」
「まさか、始祖竜ともあろうものが、悪いことをしたのに反省しない、なにも賠償をしない、なんていうことはないよね? 大人なんだから、謝るだけじゃなくて、それ相応の賠償が必要だよね?」
「えっと、その……」
「悪いことなんてしていない、っていうのはなしだからね? ボクの呪いを解いたっていうことは、自分の行いが過ちだった、って認めるのと同意義なんだからね?」
「あう……」
「……どうしてくれるのかなぁ?」
ユスティーナはにっこりと笑い、始祖竜を問い詰める。
笑っているのだけど、笑っていない。
そんな凄絶な表情だ。
その迫力に呑まれ、始祖竜はすっかり萎縮してしまっていた。
メルクリアとノルンも怯えていて、互いに抱きしめあい震えている。
……怒る気持ちはわかるんだけど。
「ユスティーナ」
「いたっ」
こつん、と軽いげんこつを落とす。
「気持ちはわからないでもないけど、その辺にしておこう」
「でも……」
「確かな被害が出る前に問題を解決することができた。なら、それでいいじゃないか」
「むう……アルトはそれでいいの? 怒っていないの?」
「怒っていないというと嘘になるけど、それよりも、ユスティーナが一番だよ。ユスティーナになにもなかったのなら、それでいい」
「ふぁ」
ユスティーナの顔が赤くなる。
照れたのだろう。
今の台詞、わりと狙ったものなのだけど……
許してほしい。
下手に始祖竜を追いつめて、暴走でもされたら困るからな。
「うっ、ううう……」
「え?」
振り返ると、始祖竜が感動した様子で涙をこぼしていた。
「やらかした私に、そんな慈悲をかけてくれるなんて……君は良い人間だね。うん。本当に良い人間だ」
「ありがとう、ございます……?」
「君ならなにも問題はない。というか、ぜひこちらからお願いしたいところだ。そこの彼女を頼むよ」
「もちろんですけど……」
今の行動が始祖竜の心に触れたらしい。
いたく感動した様子で、態度を百八十度変えていた。
「ああもう……ホント、私はなにをしていたんだか。人間がくだらないとか、竜と釣り合わないとか……これじゃあ老害、というか、老害そのもの。一番なりたくないものに、いつの間にかなっていたなんて」
「えっと……あまり気にしないでください。そういう間違いは、人間でも竜でも、誰でも一度くらいはあると思うので」
「こんな私を励ましてくれるなんて……くうううっ!」
なだめるつもりが、さらに感情を加速させてしまったようだ。
始祖竜はキラキラとした瞳をこちらに向ける。
「よし、決めた!」
「なにを……ですか?」
「アルトはボクのものだからね!?」
妙な勘違いをしたユスティーナが、俺の右腕に抱きついた。
「二人の仲を引き裂くようなことはしないて。そうじゃなくて、私なりの賠償を考えたんだ。まずは、ユスティーナ君の後ろ盾になるよ。なにかあった時は、遠慮なく私を頼るといい。いつでも、何度でも、なんでもするよ」
それはまた、とてもおいしい話だ。
始祖竜の力、権力、知恵を何度でも頼りにできるなんて、頼もしいことこの上ない。
というか、初めて俺達のことを名前で呼んだな。
「そして、アルト君には……コレをあげよう」
そう言って、始祖竜は指輪を差し出してきた。




