441話 お願い
「今日は、ちょっとしたお願いをしに来たんだ」
フレイシアさんが淹れてくれた紅茶を飲み、女の子はそう告げてきた。
「お願い?」
「そう。君と、そこで伸びている竜と……そして、忌み子」
俺、ユスティーナ、メルクリアを順に指差した。
「君達に、ちょっとしたお願いがあるんだよねー。だから、わざわざ人前に姿を表したの。こんなこと、何年ぶりかなー? 人前に姿を見せるなんて、千年以上はしていないと思うんだけどなー」
「……」
「ん? どうしたんだい?」
「いえ……」
始祖竜と呼ばれているのだから、どれほどすごい存在なのかと緊張していたが……
意外と饒舌だ。
表情もコロコロと変わる。
一見すると、どこにでもいるような普通の女の子だ。
……でも、油断してはいけない。
さきほどから、刺すような鋭い視線をこちらに向けている。
怒気……というよりは、殺意に近い。
グレイシアさん達がいなければ、襲いかかってきても不思議ではない。
「お願いというのは、なんですか?」
「うん」
始祖竜はにっこりと笑い、
「ちょっと死んでくれないかな?」
とんでもないことを言い放った。
「「「……」」」
あまりといえばあまりの発言。
そして、唐突すぎる宣言に誰もが言葉を失う。
って……いけない。
相手のペースに飲み込まれたらダメだ。
始祖竜が呪いの首謀者かもしれないのだから、しっかりと対抗していかないと。
「それは、どういう意味ですか?」
「いやいや、比喩とかじゃないよ? 文字通り、君達には死んでほしいのさ」
「……」
「ま、私が殺してもいいんだけどね? でも、なるべくなら私は介入したくないのさ。私が動くと、ホント、大事になるからねー。あと、力加減も苦手でね。最低限に手加減しても、この国を吹き飛ばしてしまいそうだ」
冗談……ではなさそうだ。
彼女は、真に竜の頂点に立つ存在。
最小の力で国を吹き飛ばすことも可能だろう。
「そんなお願い、絶対に引き受けるわけにはいきませんけど……とりあえず、理由を教えてくれませんか?」
とにかくも対話を試みる。
いざという時は、始祖竜であろうと倒してみせる、なんて考えていたのだけど……
考えが甘かった。
どれだけ頭の中でシミュレートしても、この子に勝てる未来が思い浮かばない。
勝率は欠片もなくて、0パーセントだろう。
だからこそ、話で問題を解決したい。
「人間のことが嫌いなんですか?」
「いんや? 別に嫌いってわけじゃないよ。まあ、好きでもないけどね」
「それなのに同盟を?」
「あれは、別の竜がしたことだからねー。私も、好き好んで人間と敵対するつもりはないし、おいしいものを食べられたりとかメリットもあるから、そのまま放置したんだよね」
「……でも、ユスティーナに呪いをかけたということは、放置できないことが起きた、と?」
思い切って確信に踏み込んでみた。
さあ、どうでる?
「そだね。私が呪いをかけた」
意外にも、あっさりと認められてしまう。
自分が絶対的に正しいことをしているという思いがあるのか。
ここで全員を敵に回しても勝てるという自信があるのか。
たぶん、その両方だろう。
「どうしてそんなことを?」
「決まってるだろう」
始祖竜は、至極当然のことを言うように口を開く。
「竜が人間と交わるなんて、ダメに決まっているじゃないか」
今週、二回更新を休みます。詳細は活動報告にて。




