439話 思い違い
竜が仲間を傷つけるようなことはしない。
そんな前提が俺の考えにあったため、竜を疑うことはしなかったのだけど……
その前提が覆ることはある。
竜は高い知性と高潔な魂を持っているが、それでも、時に過ちを犯すことがある。
以前、アルモートを大混乱に陥れた犯人……アベル。
彼は、竜の犯した過ちによって人生を狂わされた。
そのことを考えると、絶対に仲間を傷つけないということはないかも……しれない。
新しい前提で考えると、今一番怪しいのは……
「……始祖竜ミドガルズオルム」
「「なっ」」
ぽつりとつぶやいた言葉に、グレイシアさんとフレイシアさんが反応した。
「小僧、どうしてあの御方のことを……?」
「先日、賢者と謳われている老竜に教えてもらったんです」
「あいつか……まったく、余計なことを」
グレイシアさんが苦い顔に。
始祖竜のことは極秘事項なのだろう。
俺のような人間が知るべきではないのかもしれないが……
ただ、その始祖竜が事態を打開する鍵になるかもしれない。
極秘事項だとしても、今は、思い切りツッコミを入れさせてもらう。
「怒らないで聞いてくださいね? 始祖竜が犯人ということはありませんか?」
「なにをバカな!!!」
「ありえないわ!!!」
グレイシアさんとフレイシアさん、二人が同時に声を荒くした。
「我ら竜が同胞を害すなど、そのようなことは絶対にありえん!」
「ましてや、始祖竜様がそんなこと……ありえないわ!」
「1パーセントの可能性もないと、絶対に0パーセントだと、断言できますか?」
二人は怒りさえ伴い、俺を睨みつけてくるが……
しかし、それに怯むことなく、俺は冷静に問い返した。
ここがターニングポイントなのかもしれない。
だから、一歩も引くわけにはいかないのだ。
「本当に、絶対にありえないと断言できますか?」
「それは……」
絶対に引かない、という姿勢を見せると、グレイシアさんは迷いの表情を浮かべた。
竜は絶対的に正しく、神のような存在ではない。
時に過ちを犯すこともある。
そのことを理解しているからこそ、迷ってしまったのだろう。
「……始祖竜様を疑うのは、なにか理由があるのかしら?」
フレイシアさんが、ほぼほぼこちらを睨みつけながら、問いかけてきた。
下手な答えを返したら八つ裂きにする、と言っているかのようだ。
「確かな証拠はありません。でも、消去法で考えると、他に犯人候補がいないんです」
「続けて」
「ユスティーナは神竜です。そんな彼女に呪いをかけるなんて、そうそう簡単にできることじゃない。大規模な儀式を行ったとしても、成功するかどうか……仮にそんな儀式が行われていたとしても、なにかしらの兆候はあっていいはずなんです。それなのに、それがない。あっさりと、簡単に呪いをかけられた。そんなことができるとしたら、ユスティーナよりも強い力を持つ存在だけです」
「……それで?」
「ユスティーナよりも強い存在なんて、俺は三人しか知りません。グレイシアさん、アルマさん、フレイシアさんです。でも、あなた達がそんなことをするわけがない」
「……」
「なら、犯人は誰か? もう一人、強い力を持つ存在がいた。ユスティーナよりも圧倒的に上で……しかも、グレイシアさん達よりも強い存在」
「そんなことで始祖竜様を疑うなんて……」
「ですが、他にユスティーナに呪いをかけられる存在なんていません」
もちろん、俺が知らないだけで、名も知れない強者がいるのかもしれない。
ユスティーナが知らないところで、逆恨みのようなものを買っているのかもしれない。
でも……
それらの可能性についての情報はゼロだ。
調査を進めるにしても、膨大な時間がかかってしまう。
もちろん、その可能性を無視するつもりはない。
そちらはグランやジニー達に頼んでおいた。
で……
俺達は、その間に始祖竜について調べればいい。
「俺がとんでもなく不敬なことを言っているという自覚はあります。たぶん、この場で殺されても文句は言えないでしょう」
アルモートで例えるなら、王に向かって、あんたは殺人犯だ、と告げるようなものだ。
普通、その場で斬り捨てられる。
「でも、あえて言わせてもらいます。今回の件に始祖竜が関係しているのかいないのか……それを調べる許可をいただけませんか?」
「むう、それは……」
「……その必要はないよ」
ふと、第三者の声が乱入してきた。




