431話 出てこないなら……
「……帰れ」
低く重い声が響いてきた。
姿は見えないが、たぶん、賢者のものだろう。
その声は、敵意というほどではないが、かといって友好的なものではない。
不機嫌さを隠そうとしていない。
「こんにちはー! ボク、ユスティーナ・エルトセルク、っていいます」
同じ竜が話をした方がいいと判断したらしく、ユスティーナが洞窟の奥に向かって呼びかける。
「……」
「……」
少し待ってみるものの、返事がない。
今のが聞こえていないということはないだろうから、無視されている?
「むぅ」
ユスティーナが頬を膨らませた。
そして、小さな口をいっぱいに開く。
「こんにちはーっ!!!」
耳がビリビリするくらいの大きな声。
それでも、やはり返事はない。
「どうやら、完全に無視されているみたいだな」
「それなら、最初のアレは?」
「一回だけ警告をするようにしているのか……どちらにしても、まるで相手にされていないみたいだな。話に聞いていたように、気難しい人みたいだ」
「もうっ、ボク達は大事な話があるっていうのに! こういう時は、きちんと協力してもらわないと困るよ」
「まあ、それはそれで、俺達の都合にすぎないからな」
さて、どうしたものか?
反応するまで何度も呼びかけてもいいけど、それはそれで相手の不興を買うような気がする。
相手が根負けするまで、ここで待ち続けてみるか?
……いや、それはないな。
いつ呪いを受けるかわからない。
時間が惜しいから、なるべく無駄な行動は避けたいところだ。
「ねえねえ、パパ。ここにいる人を引っ張りだせばいいの?」
一緒についてきたメルクリアが、そう尋ねてきた。
「ああ、そうだよ」
「なら、ボクに任せて!」
「なにか案が?」
「ふっふーん」
詳細は語らず、メルクリアは洞窟の入り口に立つ。
そして……
「がおーっ!」
「「っ!?」」
いきなりブレスを吐いた。
超高温の炎が洞窟内を満たして、暗闇を赤に染めていく。
「メルクリア!?」
「な、なにしてくれちゃってるのー!?」
「大丈夫! これくらいすれば、きっと出てきてくれるよ!」
俺とユスティーナは慌てるのだけど、メルクリアは逆に落ち着いていて、そして得意そうにしていた。
なんていう無茶苦茶な……
とんでもない行動力の塊だ。
うん、間違いない。
何度も思うことだけど、この子は、間違いなくユスティーナの娘だ。
ゴォンッ!!!
洞窟の奥から鈍い音が響いてきた。
まるで、怒りに任せて壁を殴ったような……そんな音。
それから、重い足音が近づいてきて……
「いきなりブレスを叩き込むとは、いったいどこの誰じゃあああああっ!!!?」
怒りに吠える竜が現れた。
うん、そうだよな。
怒っていて当然だよな。
ごめんなさい。
どうしようもないので、せめて、心の中で謝罪しておいた。




