430話 賢者
「あうあうー」
洞窟を出たところで、ノルンが俺の服を引っ張る。
たぶん、グレイシアさんを置いてきてよかったの? と言っているのだろう。
「問題ありませんよ。あの人は、冷たい洞窟で寝るのが大好きなので」
「あう!」
それならいいか、とノルンは納得してしまう。
いいのか、それで……?
まあ、目を覚ましたら面倒なことになりそうだから、仕方ないのかもしれないが。
「ところで、どこに行くの?」
ユスティーナが不思議そうに尋ねた。
「賢者の庵へ」
「あー、なるほど」
「賢者?」
ユスティーナは納得しているが、俺は、なんのことかさっぱりわからない。
そんな俺に、ユスティーナが説明をしてくれる。
「すっごく頭の良い竜がいるんだよ。知識もたくさん蓄えていて、それで周りから賢者って呼ばれているの」
「なるほど。その竜に相談をしてみるんだな?」
「そういうこと」
千年以上を生きる竜の知識と知恵。
これほど頼りになるものはないだろう。
少しは希望が見えてきた。
そう思ったのだけど……
「ただ……」
「ただ?」
「賢者って、けっこう気難しいって噂なんだよね」
「あら。けっこうどころではありませんよ。とんでもない頑固者で偏屈者で、人の話にまともに耳を傾けることはありませんね」
やれやれと、アルマさんがため息交じりに言う。
その様子を見る限り、何度も何度も頭を悩まされてきたのだろう。
そんな竜に、力を貸してほしいと話をする。
……大丈夫だろうか?
少し不安になってきたのだけど、
「……どんな人であれ、絶対に力を貸してもらいます」
どれだけの頑固者だろうと。
ありえないほどの偏屈者であろうと。
ユスティーナを助けるためなら、なんでもやってみせる。
絶対に説得して、力を貸してもらう。
そんな俺の決意を見て、アルマさんは優しく笑う。
「ふふ。気合が入っていますね、男の子という感じです」
「あ、えっと……」
「照れることはありませんよ。あなたのそういうところ、私は好ましく思っていますから」
「あ、ありがとうございます」
アルマさんに褒められるというのは恐れ多いというか……
ついつい背筋がピンと伸びてしまう。
すると、ユスティーナがジト目に。
「むう……アルトはお母さんが好き?」
「あうー?」
「変な誤解をしないでくれ……」
「あらあら、こんなおばさんを? 困っちゃうわ。でも、うれしいかも」
「乗らないでください……」
この親にして、この子あり。
やっぱり二人は親子なんだなあ、と思った。
――――――――――
賢者はアルモートの山脈の端の端に住んでいるらいし。
人だけじゃなくて、同族である竜も避けて、ひっそりと暮らしているとか。
頑固者で偏屈者。
そして、他人嫌い。
不安は増すけど、でも、尻込みなんてしていられない。
「こんにちは」
賢者が住むという洞窟に到着した俺達は、まずは挨拶をしてみた。
返事は……ない」
「こんにちはー!」
もう一度、さきほどよりも大きな声で挨拶をしてみる。
が、やはり反応はない。
「留守か……?」
「中に入ってみる?」
「いや、それは……」
まずいだろう、と言いかけたところで、洞窟の奥の方から強烈なプレッシャーが流れてきた。




