197話 宣戦布告
空の果てに、夕日がゆっくりと沈んでいく。
赤い光が街全体を覆うようにして、キラキラと輝いていた。
「わぁー!」
「あう!」
宝石のようなきらめきを目にしたユスティーナとノルンは、同じく瞳をキラキラと輝かせる。
神秘的なものを感じさせる光景に、ただただ圧倒されて、食い入るように見つめている。
それは俺も同じだ。
王都にやってきて、半年近く。
街の色々なところを周り、それなりに街について詳しくなったと思ってはいたが、まさか、こんなところがあるなんて。
まだまだ知らないことがあるんだな、と感心した。
ここは、王都の中心から離れたところにある、小さな公園。
その中にある高台だ。
半分くらいではあるが、王都の町並みを見下ろすことができるという。
密かなデートスポットとして人気らしく、俺達の他にも、カップルらしき男女が複数人いた。
この場所を教えてくれたのは、セルア先輩だ。
改めて、今度、お礼を言っておかないと。
「アルト、アルト! 綺麗だね! 素敵だね!」
「ああ、そうだな」
「あうあう!」
「ノルンも喜んでくれて、よかった」
「あうー」
俺は、夕暮れに染まる街を見つつ……
その一方で、ユスティーナの横顔を見ていた。
夕日に照らされる彼女は、とても綺麗だ。
いや、綺麗という言葉で収まるかどうか。
宝石のように輝く笑顔。
元気を分けてもらえるような、力強い笑顔。
時折、ノルンに向ける慈愛に満ちた笑顔。
半年ほど彼女と一緒にいるのだけど、それでもまだ、新しい表情を発見することができる。
これは、俺が自分の気持ちに気がついたからだろうか?
それとも、彼女の魅力は無限大なのだろうか?
「……なんてくさいことを」
自分で自分の考えに呆れてしまい、苦笑した。
「くさい? えっ、ボク臭う!? 汗かいてる!?」
「いや、そうじゃない。大丈夫だ」
「ホントに……?」
「本当だ。だから、そんな顔をしないでほしい。ユスティーナは、笑顔が一番似合う」
「えへ、えへへへ。そんな風に言われたら、照れちゃうよぉ。えへへへっ」
くねくねしつつ照れるユスティーナは、本当にかわいいと思う。
「あうあう」
ノルンが俺の服を引っ張る。
自分は? 自分は? と言っているかのようだ。
「もちろん、ノルンもかわいい」
「あう~♪」
ごきげんな様子で、ノルンがひしっと抱きついてきた。
「あーっ、こら! アルトに抱きついていいのは、ボクだけの権利なんだからねっ」
「あうー……」
「えっ? ちょ、ちょっと、そんなにしょげないでよ、ボクが悪いことしたみたいじゃない」
「あうあう……」
「うぅ……わ、わかったから! ノルンも抱きついていいよ」
「あう……?」
「ただし! アルトの半分はボクのもの。いいね?」
「あう!」
ユスティーナが右腕に、ノルンが左腕に、それぞれ抱きついてきた。
二人共、とてもいい笑顔だ。
二人の仲が良いと、俺もうれしくなる。
ただ、こうされてしまうと身動きがとれない。
あと……
「……おい、見ろよ、あいつ。二人の美少女をはべらせてやがる」
「……ぐぐぐっ、なんてふざけた野郎だ。爆ぜろ!」
周囲からの視線が痛い。
「ユスティーナ、ノルン。すまないが、少し離れてくれ」
「えー、ボク、もっとこうしていたい」
「あうー!」
「その……大事な話があるんだ」
周囲の視線が気になることもそうだが、大事な話があるというのも事実。
そのことを伝えると、渋々という様子ではあるが、二人が離れてくれた。
「なになに、大事な話って。もしかして、告白?」
「……」
「えっ、もしかしてのもしかして……!?」
「あ、いや」
わりと関係ない話でもないので、ついつい沈黙してしまうと、ユスティーナが期待に瞳を強く輝かせた。
がっかりさせて申しわけないが、否定しておく。
あと、関係ない話でもないということは、伏せておくことに。
変に期待させても申しわけないからな。
「話っていうのは、今度の大会のことだ」
「戦術武闘大会?」
「そう、それだ」
「あうー?」
話のわからないノルンは、不思議そうにする。
そんな彼女の頭を撫でつつ、話を続ける。
「今度の大会、絶対に優勝するからね! それで、ペアチケット、絶対にゲットするから!」
ユスティーナは、もう優勝したつもりの笑顔だった。
「あ、でも、ノルンを置いていくのは……うぅ、アルトと二人きりの旅行……でもでも、ノルンが……ど、どうしよう?」
「まあ……まだ、優勝が確定したわけじゃない。実際に優勝してから、その時に考えればいいだろう?」
「それもそうだね。それで、アルトの話っていうのは?」
俺は軽く深呼吸をして……
そして、ユスティーナをまっすぐに見つめながら、しっかりとした口調で言う。
「俺は、負けるつもりはない」
「え?」
「誰にも負けるつもりはない。優勝を狙う。つまり……ユスティーナにも勝つつもりだ」
「……」
ユスティーナがぽかんとした。
次いで、ニヤリと笑う。
「アルトは、もしかして、ボクとの勝負にこだわっているの?」
「ああ、その通りだ。俺は、俺の強さを確かめたい。現時点で、どれくらいのものなのか……そして、その力がユスティーナに少しでも届いているのか」
「そっか」
「俺は、全力で戦う。だからもし、俺とぶつかるようなことになれば、ユスティーナも全力を出してほしい」
「……」
ユスティーナが迷うような顔に。
でも、こちらの真剣な顔を見て、やがて決意したらしく、コクリと頷いた。
「うん、いいよ。その時は、ボクは全力でアルトと戦う。約束するよ」
「ああ。良い勝負をしよう」
「負けないからね?」
「俺もだ」
宣戦布告をしたのだけど、でも、険悪になることなんてなくて……
俺とユスティーナは、互いを認め合うライバルのように、笑い合うのだった。
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!




