190話 強敵
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「ふぅ……はぁ……ふぅ……」
訓練を開始して、30分ほど。
俺とセルア先輩は肩で息をして、額を汗でいっぱいにしていた。
一方で、セリス先輩は汗一つかいておらず、息も乱していない。
かなり動いていたはずなのに、化け物だろうか?
「ふぅ……少し休憩にしましょうか」
「うん、そうだね。さすがに疲れたよ」
「はい、二人共、水よ」
「俺もいいんですか?」
「ええ、もちろん」
「ありがとうございます」
セリス先輩から小さな水筒を受け取り、蓋を開ける。
魔道具が利用されているのか、水は冷たく、とても気持ちいい。
ついつい飲みすぎてしまいそうだ。
木の幹を背に座る。
夏は終わろうとしているが、まだまだ暑い日が続いている。
今日も太陽は強く輝いていて、こうして木陰に入り休まないと、参ってしまいそうだ。
セルア先輩とセリス先輩も、同じように木陰で涼む。
「セルア先輩の棒術、とても強いですね」
「そうかな? そう言ってもらえると、うれしいよ」
お世辞などではなくて、本心からの言葉だ。
手合わせをしてわかったのだけど、棒術というものはなかなかに厄介だ。
槍と似ているのだけど、その扱いはまるで違う。
変幻自在なトリッキーな攻撃は、その軌道をなかなか見切ることができない。
さらに棒を回転させることで、威力が破格に増す。
訓練は、ほぼほぼ引き分けだ。
俺は、身体能力を限界を超えて引き出す技を使ってはいないが……
セルア先輩も、なにかしら切り札を隠し持っているような気がした。
そのことを考えると、やはり互角なのだろう。
セリス先輩も、なかなかにすさまじい。
武器を持たず、己の体だけで戦う。
普通に考えて、とても不利な状況なのだけど、それをまったく感じさせない戦いっぷりだった。
風のように速く動いて、気がつけば姿を見失うことがしばしば。
あっという間に死角に回り込まれて、拳や蹴撃が繰り出される。
その威力は、頑丈に作られているはずの訓練用が悲鳴をあげるほど。
「セリス先輩は、どこでそんな格闘術を?」
「これは自己流よ」
「えっ、自己流なんですか?」
驚いた。
てっきり、どこかの門下生かと思っていたのだが。
それくらいに洗練された動きで、ほぼほぼ無駄がない。
「すごいですね」
「それを言うなら、アルトもすごいでしょう?」
「え、俺が?」
「一撃一撃が重くて、その上、速い。訓練用の槍だとわかっていても、何度かゾッとしたわ」
「そうだね。アルトを相手にしていると、正規の竜騎士を相手にしているような錯覚に陥るよ」
「いや、さすがにそれは言い過ぎでは?」
しかし二人は、そんなことはないと首を横に振る。
その上で、俺と戦うことは、とてもいい訓練になると言う。
その感想は素直にうれしく思う。
少しは自信を持ってもいいのかもしれない。
一方で、気になることが。
わざわざこの時期に、学院の外に出てまで訓練をするということは……
「少し聞きたいんですが、もしかして、二人は戦術武闘大会に?」
「うん、そのつもりだよ」
「ということは、アルトも?」
「はい」
それぞれに頷いて……
ややあって、みんなが苦笑する。
まさか、ここにいる全員がライバルだったなんて。
セルア先輩とセリス先輩のような強敵が出場するなんて、けっこうまずい展開だ。
ユスティーナと戦うどころの話ではない。
下手をしたら、途中で脱落してしまうだろう。
それでも。
「アルト、どうしたの?」
「笑っているのかしら?」
「いえ……なんでもありません」
少しだけど、わくわくした。
強い人と戦うことができる。
その分、成長することができる。
そう考えると、決して悪いことだけではないのかもしれない。
「さてと」
タオルで汗を拭い、スッキリした様子で、セルア先輩が立ち上がる。
セリス先輩もそれに続いて、少し離れたところに置いてある鞄を手に取る。
「僕たちはそろそろ行くね。訓練に付き合ってくれて、ありがとう」
「私からもお礼を言うわ。とても有意義な時間だった」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
良い訓練になったのは、俺も同じ。
あと、自分の甘い認識を正すこともできた。
大会に出場する中で、ユスティーナだけが強敵と認識していたが……
そんなことはない。
俺が知らないだけで、他に強い人はたくさんいるのだろう。
セルア先輩、セリス先輩クラスの人だらけなのかもしれない。
俺は、俺の驕りを正すことができた。
その機会を与えてくれたことに、感謝したい。
「大会に出場するっていうことは、アルトはライバルになるんだね」
「本番でぶつかるかどうか、それはわからないけど……もしもぶつかった時は、良い試合にしましょう」
「はい」
セリス先輩と笑顔で握手をして、次いで、セルア先輩とも握手を交わす。
「それじゃあ、また」
「はい、また」
再会の約束をしつつ、さようならをする。
二人は軽く頭を下げて、公園を後にした。
その背中を見送り……
少ししたところで、俺は訓練用の槍を持つ。
日が暮れ始めている。
そろそろ帰らないと、ユスティーナが心配してしまうかもしれない。
「それでも、もう少しだけ」
二人に触発された俺は、もう少しの間、槍を振るうのだった。
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