180話 いざとなるとためらう
「ぐすっ……その、なんていうか……迷惑かけてごめんね」
30分ほど泣いたところで、ジニーは落ち着きを取り戻した。
目は赤く、涙の跡が頬に残る。
それでも、どこかスッキリとした顔をしていた。
胸に抱えているもの、全部を吐き出したからかもしれない。
「いえ、気にしないでください。ジニーさまの気持ちは、痛いほどにわかりますから」
「……アレクシア……」
よくよく考えてみれば、アレクシアも同じ気持ちを抱いている。
直接、その気持ちをアルトに打ち明けていないとはいえ……
話を聞いていたのならば、願いが叶わないことを知っただろう。
アレクシアも、本当は泣きたいのだろう。
それでも今は、ジニーのために笑っている。
そんな彼女のことをとてもうらやましく、憧れのような気持ちさえ抱くジニーだった。
「ジニーさん。もしかして、私がアルトさまのことを諦めた、と思っていますか?」
「え? ち、違うの……?」
アルトは己の気持ちをハッキリと自覚した様子だった。
そこに付け入る隙はない。
敗北したのだ。
そのことをジニーは痛感していたのだけど……
アレクシアは違うらしい。
間接的にではあるが、振られたことを辛く思っている様子はある。
しかしそれだけではなくて、まだまだこれからというように、希望も抱いていた。
「ジニーさまは、お忘れですか?」
「えっと……なにを?」
「一定以上の身分を持つ方ならば、側室を持つことは正式に認められているのですよ」
――――――――――
「さて……困ったな」
保健室を後にした俺は、すぐに教室に戻らず、中庭へ移動した。
最近、涼しくなりはじめた風を浴びつつ、考え事に耽る。
思い返すのは、ジニーの告白のこと。
断ることになってしまい、彼女を傷つけてしまったのではないかと、心配になる。
「でも……傷つけたとしても、気持ちに応えることはできないか」
同情心などで付き合うことにしたら、余計に傷つけることになる。
ジニーと真正面から向き合っていないことになり……
その方が最悪の選択肢だ。
だから、傷つけたとしても……
今回の選択は正しいのだと思う。
「それと……」
もう一つ、思うことがある。
それは……ユスティーナのことだ。
「まいった。まさか、こんな風になるなんて」
今更だと言われるかもしれない。
遅すぎると言われるかもしれない。
鈍いと言われて当たり前。
それでも……俺は、自分の気持ちをようやく理解した。
「ユスティーナのことが……好きだ」
彼女と一緒にいると、とても楽しい。
自然な笑顔を浮かべることができる。
胸が温かくなる。
つまり……そういうことなのだ。
今までハッキリと自覚していなかっただけで、俺はもう、ユスティーナに恋をしていたのだろう。
「どうしたものか……」
好きと自覚したものの、その次はどうすれば……?
告白する?
「……いやいやいや」
その瞬間を想像しただけで、なんともいえないこそばゆさに襲われる。
あと、もしも断られたら? という恐怖も味わう。
そんなネガティブ思考に襲われてしまい、心も体も動かなくなる。
こんな状態になるのにも関わらず、ジニーは告白をしてくれたのか……
なんていうか、女の子は強いな。
いざという時は、男よりも断然強いと思う。
「告白……してみたいとは、思うが……どうしたらいいんだ?」
この気持ちを自覚したら、もう立ち止まることはできない。
自然と湧き上がる熱に動かされて、突き進むだけ。
ユスティーナは、常日頃から俺に対する好意を口にしてくれている。
時に、距離を詰めようと大胆な行動に出ることも。
だから、告白をしても断られることはないと思う。
喜んで受け入れてくれる……はず。
しかし、それでいいのだろうか?
彼女は今までずっと、がんばってきて苦労してきて……
それなのに俺は、なにもすることなく、簡単に告白をしてしまう。
それは、どこかずるいと思えた。
それだけじゃない。
忘れがちではあるが、彼女は竜だ。
しかも、その頂点に立つ神竜バハムート。
そんな彼女に告白をして、その隣に立つ資格が俺にあるのだろうか?
「どう……なんだろうな。今まで努力は重ねてきたつもりだ。それなりの成果も出していると思う。ただ、それでユスティーナと対等の立場になれたのかというと、それは……怪しいな」
ユスティーナと対等でありたい。
本当のパートナーになるのであれば、なおさらだ。
これは、単に俺のわがままかもしれない。
男の見栄と呼べるものかもしれないし、格好つけたいだけなのかもしれない。
人によっては、くだらないと一蹴されるだろう。
それでも。
俺は、男なのだ。
そういう見栄や格好つけたさを捨てられないものなのだ。
そうでないと、自分に自信を持つことができない。
ユスティーナと一緒にいることはできない。
古い考え、つまらない考え。
そう言われるかもしれないが、その想いは変わらない。
不器用なのだ、俺は。
「さて、どうしたものか……?」
どのようにして対等な立場に立つか?
授業をサボり、そのことを考えるのだった。
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