177話 ジニーの心
あたしの名前はジニー・ステイル。
特になんていうことはない、平民だ。
平民だけど、アルモートは豊かな国なので、生活に困ることはない。
強いて困っていることを挙げるとしたら、大雑把でデリカシーのない双子の兄のことだろうか。
ホント、デリカシーがなくて困る。
この前もノックもなしに部屋に入ってきて、着替えを見られた。
当然、泣くまで殴っておいた。
本当にダメな男だ。
その点、アルト君はぜんぜん違う。
同じクラスの男の子。
どこか落ち着いていて、とても紳士的だ。
あたしは、彼に対してひどいことをしてしまった。
アルト君がいじめられて苦しんでいる時に、見て見ぬ振りをした。
我が身かわいさに見捨てて……なんて、ひどいのだろう。
でも、アルト君は笑いながら、気にしていないと許してくれて……
友達になろうと言ってくれた。
思えば……
あの時から、あたしの心はアルト君に惹かれていたんだと思う。
それから、気がつくと彼のことを目で追うように。
ちょくちょく見て、そして、アルト君に対する想いを募らせていく。
単純に、彼はかっこいいのだ。
どんな苦境に立たされても、決して心が折れることはない。
時間がかかったとしても立ち上がり、再び前に進む。
そして、同じように苦しんでいる人に、迷うことなく手を差し伸べることができる。
そんなことができる人が、どれだけいるだろう?
あたしと同年代の人では、ほとんどいないと思う。
アルト君だけだ。
そんな彼に惹かれるのは、一人の女の子として当たり前のような気がした。
ただ、アルト君に想いを告げるつもりはない。
というのも、彼の傍にエルトセルクさんがいるからだ。
アルト君の力になり、傍にいて支える。
そんな彼女がいたからこそ、今のアルト君がいると言える。
エルトセルクさんが竜だからとか、そんなことは関係ない。
たぶん、彼女は力がなかったとしても、迷うことなくアルト君に手を差し伸べただろう。
自分も同じように苦しむようになったとしても、関係ないと笑っただろう。
それこそが、彼女の強さなのだと思う。
あたしはなにもしなかった。
でも、エルトセルクさんは違う。
だから……
アルト君の隣にふさわしいのは、エルトセルクさんだと思う。
彼女以外にありえないと思う。
アルト君は答えを保留にしているみたいだけど……
あたしから見ていると、お似合いの二人だ。
アルト君は鈍いだけで、ちゃんとエルトセルクさんのことを大事に思っているように見える。
その気持ちを自覚するのも、そう遠くないだろう。
だからあたしは、この想いを封印することにした。
決して口に出すまいと決意した。
そんなことをしたら、アルト君を困らせてしまう。
エルトセルクさんを困らせてしまう。
そんなことは望まない。
確かにアルト君のことは好きだけど……
想い人という以前に、大事な友だちなのだ。
困らせるようなことはしたくない。
あたしは傍にいられるだけで満足。
誰にも気づかれることなく、そっと想いを育み……
そして、適当なタイミングで、それを心の奥底にしまい、そのまま埋もれさせる。
思い出に昇華する。
それでいいと思っていた。
そうするつもりだった。
それなのに……
困った。
ホントに困った。
恋心っていうのはとても厄介で、制御しようとしても制御できるものじゃないらしい。
決して表に出すまいと思っていたのに、アルト君に対する想いは、日に日に増していくばかり。
ちょっとしたことで、顔が赤くなってしまうこともしばしば。
兄さんにちょっかいをかけられて、おもいきり意識してしまうこともあった。
兄さん……今度、しばく。
そんなことになっていたから、あたしはちょっと悩んでいた。
どうすれば、この想いを完全に封印できるのだろう?
いっそのこと、ぽいって捨ててしまった方がいいのだろうか?
でも、どうやって捨てれば……?
感情っていうものは、そうそう簡単に処理できないもので……
だからこそ悩んでいるわけで……
どうにもこうにも、思考の迷路に迷い込んでしまう。
こんなことは一回だけじゃなくて、最近、何度も何度も遭遇していた。
恋って、もっとキラキラしたものだと思っていたんだけど……
時と場合によって、こんなにも苦しいものになるなんて。
なんて厄介。
それでもあたしは、何事もないように振る舞い続けた。
たぶん、誰にもバレていないと思う。
うまく「いつも通りの、明るく元気なあたし」を演じ続けられたはず。
それでも、胸はきゅうっと締め付けられるように痛くなる。
時々、恋心が暴走してしまいそうになる。
そのせいで、いつもピリピリとしてしまうことに。
そんな日々を過ごしていたせいか、最近は寝不足が続いていた。
体が弱り、タイミング悪く熱を出してしまう。
なんて情けない。
アルト君に助けられて、あたしは保健室へ。
ベッドに横になりながら、今後は、もっとしっかりしないと、と決意する。
皆に心配をかけないように。
そして、アルト君に対する想いを、しっかりと封印する。
そんなことを考えていたんだけど、
「ふふっ、冗談よ。アルトくんはとても優しくて、いつも頼りになるわ。だから……好き」
ぽろりと、そんな言葉がこぼれてしまった。
あっ、と思った時はもう遅い。
小さいながらも、ハッキリと好きと言ってしまった後。
アルト君にも聞こえたらしく、驚いた顔をしている。
どうしよう?
どうしよう?
どうしよう?
パニックに陥ると同時に、体温が倍になったかのように、体中が熱くなる。
今のはなんでもない。
好きといっても、恋愛的な意味じゃなくで友情的な意味だから。
そう言わなくちゃならないのに、アルト君の顔を見るとものすごく恥ずかしくなり……それから愛しい気持ちになり、なにも言えなくなってしまう。
結局……
「っ!?」
あたしは逃げるように、ベッドのシーツを頭からかぶることしかできないのだった。
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