140話 語られる目的
「やぁ」
どこからともなくアベルが姿を見せた。
動きやすい鎧。
それと、自分の背丈以上に長い槍を装備している。
以前会った時は、普通の服装をしていたこともあり、外見は普通の少年にしか見えなかった。
しかし、今は違う。
戦闘装備を身に着けているからという理由もあるが、その身にまとうオーラが違う。
戦意と殺気。
二つをみなぎらせていて、とても子供には見えない。
「あれ? あまり驚いていない? うーん、僕としては不意を突いたつもりなんだけど」
「なんとなく、予想はしていたからな」
俺の個人的な感想になるが……アベルは、事件を起こすだけ起こしておいて、それでさようなら、というタイプには見えない。
むしろ、危険とかそういう理由は考えず、積極的に前線に立ち、笑顔で武器を振るうタイプだ。
そんな考えは正しかったらしく、アベルは俺の前に姿を見せた。
「ちぇ、残念。アルトさんってクールだから、驚いた顔を見てみたかったんだけどな」
「期待に応えられなくて悪いな」
「次の楽しみにするから、気にしないでいいよ」
「次があると思うか?」
「思うよ」
俺は武器を構えるのだけど、アベルはのんびりと笑顔を浮かべたままだ。
戦闘態勢に移行しようとすらしない。
戦いに来たわけじゃない?
いや……そんなわけはないか。
ここは戦場だ。
武装して出てきた以上、戦う意思があるということなのだろう。
ただ……それよりも先に、話したいことがある、という感じか。
「さてと……これから、僕は今回の作戦を成功させるために、竜騎士学院を陥落させようと思う。でも、アルトさんは抵抗するよね?」
「当たり前だ」
「うん。つまり、ここから先は殺し合いになる。だから……その前に話をしておかない?」
「話……か」
「僕、けっこう強い自信はあるんだけどね。でも、アルトさんもかなり強いし……ぶっちゃけ、絶対に勝てるっていう自信はないんだ。勝率は、うーん……五分五分、ってところかな?」
「ずいぶんと謙虚なんだな」
「つまらないプライドも自信もないからね。冷静に場を分析できる者こそが長生きして、ついでに、成功するんだよ」
子供のようにトーンの高い声で、おおよそ子供らしからぬことを言う。
いったい、どんな人生を送ってきたら、こんな風になるのか?
ククルから簡単なことは聞いていたが、詳細は知らない。
少しだけ、アベルという少年に興味を持つ。
「……話というのは?」
「あっ、乗ってくれるんだ? よかった。これも、正直、五分五分で断られると思っていたから。安心したよ」
「確かに、話をしている状況ではないが……ただ、お前の目的は気になる」
「だよね。興味を煽るようなことを口にして、なんとか、この状況に持っていこうとしたからね。うん、いいよ。今なら、全部、僕の目的を話してあげる」
「今更ではあるが……どうして、今なんだ? こんな状況でなくても、話をする機会はあっただろう?」
例えば、先日、顔を合わせた時とか。
「この状況だからこそ、だよ」
「どういう意味だ?」
「平時にあれこれと話をしても、ちょっと信じてもらえない内容なんだ。だから、あえてこの状況を作り出した」
「話をするためだけに、こんな戦いを……?」
「まあ、そうなるかな? この状況下なら、僕の言っていることが正しいと証明できるからね。そのために、あれこれと準備をして舞台を整えたのさ」
ふざけたことを、と叫びたくなるものの、湧き上がる怒りをなんとか我慢する。
ここでアベルを怒鳴りつけることは簡単だ。
でも、それではなにもわからないまま。
アベルと分かり合うことができるかどうか、それはわからないけど……
相互理解のためにも。
情報を得るためにも。
今は、話を聞くべきだろう。
「聞かせてくれないか? アベルの目的を」
「もちろん」
アベルは笑みを消した。
初めて真面目な顔を見たような気がする。
「前にも言ったと思うけど、僕は反竜組織に所属している。その目的は、人と竜の同盟を破棄させること。人の生活から竜を排除することだ」
「なぜ、そんなことを?」
「理由は二つ」
アベルが人差し指をピンと立てる。
「まず最初に……今の人と竜の在り方について、アルトさんはどう思う? 正常だと思うかな?」
「なにが言いたい?」
「一見すると、正常なように見えるよね。人は竜のために動いて、竜は人のために力を貸す。ウィンウィンな関係だ。でも、実際は違う。力関係は圧倒的に竜の方が上。なにか起きた場合、竜がいなければこの国は滅びるだろうね」
「それは……」
その通りであるため、否定はできない。
「同盟を結んでいるように見えて、実質、アルモートの人は竜の支配下に置かれている」
「それは違う。竜はそんなことを望んでいないし、俺たちを支配することもない」
「そう言い切れるのはどうして?」
「歴史が証明している。竜は人を支配しようとしたことは一度もない」
「うん、そうだね」
あっさりと肯定されてしまい、ちょっと拍子抜けしてしまう。
ただ、これはアベルの語りたい本題ではなかったらしい。
さらに言葉を続ける。
「まあ、基本的に、竜は人を支配する気なんてないだろうね。ただ頼まれているから、力を貸しているだけ。大雑把に言うと、そんなところになると思うよ。ただ……それ、正しい関係って言えるのかな?」
「どういう意味だ?」
「なにかあると、人は竜に頼ってばかりじゃないか。自分でなんとかしようとする努力、思考を放棄して、すぐに竜に頼る。その圧倒的な力を貸してほしいと、頭を下げる。そんなことを繰り返していたら、堕落していくばかりだ。そうは思わない?」
「それは……」
一理ある。
否定はできない。
「人は、自分たちの力だけで生きていくべきなんだ。なにか事故が起きて倒れてしまったとしても、自力で立ち上がらないといけない。転ぶ度に助けてもらっていたら、いつか、立ち上がる力をなくしてしまうよ」
「……」
「ようするに、甘えすぎなんだよね。なにか起きれば竜に頼ってばかりで、自分でなんとかしようとしない。竜も竜で、同盟があるからなのか、簡単に応えてしまう。それじゃあダメだよ。ほら。子供も、甘やかしてばかりだと、将来、ロクな大人にならないでしょ? って、子供の僕が言うのもおかしな話だけどね」
アベルの言うことは、わからないでもない。
竜の強大な力に頼ってばかりいたら、人は、己が成長する機会を失う。
それだけじゃなくて退化してしまう。
その理屈はわかる。
わかるけれど……でも、わからない。
「納得はできないな」
「うーん……どうして?」
「アベルの言うことも、一理あるとは思う。でも、それは穿った見方だ。人は竜に依存してばかりじゃないし、竜も人を甘やかしているばかりじゃない。きちんと、適切な関係、距離を築けていると思う」
「まあ、アルトさんらしい意見だよね」
話が平行線になるものの、アベルは怒ったり落胆するようなことはなかった。
俺の反応をあらかじめ予想していたのだろう。
「アルトさんは竜の王女といつも一緒にいるからね。そういう考えになるだろうなー、とは思っていたよ。まあ、ここは見解の相違かな? 話し合ってもお互いに納得することはないだろうし、深くは議論しないよ」
「あっさりしているな」
「意味のないことを話しても仕方ないからね」
相互理解を最初から放棄している様子で、アベルはつまらなそうに言う。
いったい、この少年はなにを考えているのか?
こうして何度か言葉を交わしてきたけれど、未だわからない。
「……もう一つの理由は?」
「近い将来、竜は人の敵になるからだよ」
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!




