111話 制服選び
放課後。
それぞれのクラスの実行委員が集まり、会議が開かれる。
出し物は、学生にふさわしい内容か?
不適切なものではないか?
また、他クラスと競合していないか?
そんなことが話し合われることになり、会議は当初の予定より30分伸びた。
最初からこんな調子なので、思っていた以上に実行委員は大変なのかもしれない。
ただ、俺もユスティーナもククルも、へこたれることはなく、むしろやる気を見せていた。
逆境であればあるほど燃えるというか……
やりがいは感じられる。
大変だからこそ、それを成し遂げた時は、大きな達成感を得られるからな。
そんなわけで、しばらくは会議が続いて……
数日後。
晴れて、俺たちのクラスは、当初の予定通り、喫茶店で正式決定した。
そのことを告げると、クラスメイトたちは笑顔で喜び、隣のクラスの先生に注意されてしまうほどにはしゃいだ。
その日から、さっそく準備にとりかかることに。
みんなで話し合い、喫茶店についての細かい内容を決めていく。
その過程で、俺とユスティーナとククルは、とある件を任された。
その内容は……
――――――――――
「うーん……制服かあ」
放課後の教室。
喫茶店の内容を詰めるために、俺たちは学院に残り、小会議を続けていた。
普通の喫茶店ではおもしろくないし、人目を引くこともできない。
なにかしらのアレンジが必要。
そんな話が持ち上がり、内装、メニュー、サービス……色々な角度から考察が行われた。
その中で、俺たちは制服のデザインを担当することになり、こうして頭を悩ませていた。
「やっぱり、かわいい制服がいいよね。ボク、あまりそういうの着たことないから、着てみたいな」
「いいと思うのであります。自分も興味があります」
「それは反対しないが、しかし、だとしたらどういうものにするのか、という問題があるが?」
「うーん、そこなんだよね……」
ユスティーナもククルも、かわいい制服で、というポイントは外せないと言う。
そこは俺も賛成だ。
女の子としてかわいい制服を着たいという気持ちは理解できるし、その方が客の目を引くことができるだろう。
しかし、単純にかわいいだけの制服では意味がない。
俺たちが考えるようなことは、他のクラスの生徒も考えるわけで……
なにかしら差別化を図らないと、注目されることなく、そのまま埋もれてしまう可能性がある。
勝負をしているわけではないし、人気にならなくても問題はないのだけど……
どうせやるならば、人気ナンバーワンを目指したいところだ。
そのためにできることは、なんでもやっておきたい。
「……ふふっ」
ふと、思い出したような感じでククルが小さく笑う。
俺とユスティーナが怪訝そうに見ると、あたふたと慌てた。
「あっ……いや、その、もうしわけありません。今は、制服のことを真面目に考えないといけないというのに……つい、別のことを考えてしまいました」
「いいさ。さっきから、ずっと考えっぱなしだからな。思考が横に逸れても仕方ない」
「でもでも、なにを考えていたの? もしかして、アルトとのイチャイチャ妄想を……」
「そ、そのようなことはないのであります!」
ユスティーナのよくわからない疑惑をぶつけられて、ククルが慌てて手を横に振る。
そこまで全力で否定されると、なんともいえない微妙な気分になる。
「じゃあ、なにを考えていたの?」
「えっと……自分は、幼い頃から聖騎士になるためにがんばってきたのであります」
そう言い、ククルは自分のことを語る。
ククル・ミストレッジは名もない農家の生まれだ。
小さい頃は、子供らしく元気に遊び……
時に、面倒と思いながらも勉学に励み……
ごくごく普通の日常を過ごしてきた。
転機が訪れたのは、6歳の頃だ。
聖騎士になる資格が与えられた……つまり、フィリアの女神に見いだされたのだ。
以降、ククルは親元を離れ、王城で過ごすことに。
聖騎士になるための訓練を積み、積んで、積み重ねた。
一切の寄り道をすることなく、ただただ聖騎士になることを目標として、歩いてきた。
「そういうわけでして……自分は、こういう風に友達と過ごす時間というのが、まるでなかったのであります」
そんな話をしたククルは、どこか寂しそうな顔をした。
たぶん、だけど……
聖騎士に選ばれたことは、ククルはとても名誉なことと思っているのだろう。
嫌だとか、そんな風には考えたことはない。
ただ、その一方で、もしも選ばれていなければ? と考えたこともあるのだろう。
その時は、ククルは普通の女の子として、穏やかな日常を過ごしていたに違いない。
どちらが、より良い人生か。
それを選ぶことはできないのだけど……
やはり、選ばれなかった方の道を眩しく思ってしまう時も、時にはあるのだろう。
「なので、今は、とても楽しいのであります。任務があるのに、こんなことを言うのはダメなのかもしれないのですが……ですが、楽しいのです」
「うん、いいんじゃないかな、それで」
意外というか、まっさきにユスティーナがククルの考えに賛同した。
「楽しいことを楽しいって思うのは、なにも間違っていないよ。そういうことは、どんどん積極的に体験していかないと」
「いい……のでしょうか?」
「いいと思うな。だって、その方が楽しいんだから。一度きりの人生、楽しまないとね」
ユスティーナはにっこりと笑い、そんなことを口にした。
ユスティーナは竜の王女であり、ある種、ククルと立場が似ているところがある。
それ故に、共感しているのかもしれない。
二人は良い友達になれるような気がした。
「ありがとうございます、エルトセルクさん」
「お礼なんていいよ。ボクは、ボクの言いたいことを口にしただけだからね。それよりも、制服のことを考えよう?」
「はいであります!」
「そういうわけで……アルトは、なにか良いアイディアはないかな?」
「そうだな……」
ククルの心の問題は解決したものの、制服の問題は未解決だ。
「他のクラスと差別化を図るために、なにかしら変化球が欲しいな」
「例えば、どんな?」
「現実味はないが……有名な人にデザインを頼み、唯一無二の制服にする、とか?」
「なるほど、それならば差別化はできそうであります」
「でも、デザイン料だけで、ウチのクラスの予算、飛んじゃいそうだよねー」
「他は……ちょっとした仮装をしてみる? あるいは、あえてデザインを統一しないで、各自バラバラにしてみる? もしくは、アクセサリーに凝ってみる?」
思いつくままアイディアを並べてみる。
ダメなものだとしても、他の二人が拾い、昇華することで、より良いアイディアが生まれるかもしれない。
「うーん……仮装は楽しそうだけど、どんなのが良いかな? 猫耳をつけたり、とか?」
「アクセサリーは良いかもしれないのであります。手軽に、安く揃えられるかと」
「ただ……これも、どこかのクラスが考えそうなことなんだよな」
なかなか話がまとまらない。
制服についての話を始めて、まだ初日だ。
そうそうすぐには、良いアイディアは出ないのかもしれないが……
この後も予定が詰まっているため、できることなら今日中に草案はまとめておきたい。
「仮装、アクセサリー……うーん……いっそのこと、男女逆転してみるか」
ふと、そんなアイディアが降って湧いてきた。
「逆転? どういうことなのでありますか?」
「あ、いや。適当に言っただけだが……男は女装して、女の子は男装したらおもしろいかな……と。まあ、おもしろいだけで、とんでもないことになりそうだが……」
「「それ採用っ!!」」
ユスティーナとククルが、声をぴったりとハモらせた。
「……本気か?」
「もちろん本気だよ! 女装男装喫茶……うんうん、いけそうじゃない!? 他に思いつくクラスなんてないだろうし、類似性もないよ!」
「とても良いアイディアなのであります! 奇抜ではありますが、それ故に、人目を引くことは間違いないのであります」
「それと……そうだ! せっかくだから、執事とメイドにする、っていうのはどうかな? そういう格好したい子、たくさんいると思うんだよね」
「それも素晴らしいアイディアなのであります。とても楽しそうです」
「えっと……」
二人はものすごい勢いで盛り上がっていた。
俺は置いてけぼりに。
男装執事、女装メイド喫茶……か。
奇抜ではあるものの、ゲテモノという感じはしない。
難しいかもしれないが、しかし、うまくハマれば良い効果が生まれそうだ。
案外、悪くないのでは?
そんな風に思えてきた。
「なら、ひとまずそんな感じでまとめてみるか」
その後……
クラスメイトの賛成多数で、女装男装喫茶……正式名『男女逆転喫茶』の企画がスタートするのだった。
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